epilog

ある日曜日の話。人で溢れる駅前。王者と呼ばれるに相応しく毎日が練習漬けである立海大附属中テニス部は、珍しくもオフな日だった。



「例えばの話しよーぜ。」

「やだ。」

「会話膨らませろよ。例えば……、俺とお前が付き合ってなかったら、」

「やだ。」

「ちょっとは話聞けって。例えばの話って言ってんだろい。」

「やだってば。こないだそーゆう話でブン太が勝手にキレてケンカしたもん。」

「……。じゃあ、あの時ミスド行ってなかったら?」

「先週の?」

「ちげーよ。俺とお前が初めて会った日だよ。ほら、試合の帰り。」

「…あー、あの日ね。」

「やっぱあれがなかったら今の俺らはなかったと思うわけ。」

「うーん、そうかなぁ。」

「そーだって。だって俺あれで運命感じたもん。」

「そーなの?ブン太乙女チックー!」

「お前は感じなかった?」

「まぁ、気は合いそうだと思ったけど。」

「そんだけ?」

「え、…まぁ。」

「そーかよ。どーせあの日エロ詐欺師にぬいぐるみもらって一目惚れしたんだろ。」

「ち、違う!」

「どーだか。お前は俺と一緒で人に物もらうとすーぐ懐くから。」

「ちょっと、ペットみたいな言い方やめてよね!」

「はぁー、俺は一途にお前を好きだったって言うのによ。」

「うっ…。でもさ、結果オーライだよ。エロ詐欺師が飼うの放棄したから今のうちらがあるんじゃん。」

「なるほど。…って、お前も自分でペット扱いじゃん。」

「そろそろつっこんでいいかの。」

「あ、仁王いたのか。」

「お前さん、いくら自分の彼女が俺のこと好きだったからって八つ当りはやめんしゃい。」

「ぐっ…。そーゆう笑えねーギャグやめろい。」

「あと半年はこのネタでいけるのう。」

「なんか言ったか?」

「いや何も。それより気まずい話だからって黙って逃げようとしちょる千夏ちゃん、赤也はまだ来ないんか?」

「ちょ、ちょっと!人聞き悪い修飾語つけないでよ!」

「千夏、こいつにかまってたら俺ら崩壊しちまうって。」

「そ、そーだよね!無視だ無視!つーん。」

「ほっといても別れるじゃろ。」

「何か言った?」

「いや何も。…あ、」



仁王の視線を二人が追うと、向こうの方からへらへら走ってくる赤也が見えた。普段の学校と同様に、こういった待ち合わせは遅刻常習犯だ。



「おう、部活休みなのに好きな子にフラれて俺らんとこノコノコ来た赤也クン。」

「フラれてないっす!今日は用があっただけ!」

「気をつけろよ赤也、さっきから仁王のやつやたら挑発的なんだ。」

「へぇ。どーせ自分も高山サンに今日すっぽかされたんじゃないっすか?」

「ほう、いいのか赤也クン。俺にそんなこと言って。昨日の─…、」

「わーわー!それだめ!ズルいっす!」

「なになに、なんかあったのか?」

「ブン太先輩には関係ないっす!」

「なんだと!?」

「ま、ま、ま、三人ともそれぐらいにして!早くいこうよ!」



楽しいことばかりではなく、ケンカしたり傷ついたりいろいろあっても。自分の手で変えていける。



「てかどこ行くんすか?」

「ミスド行こうぜミスド。」

「え?焼肉って言ってなかった!?」

「さっきミスドの話したからミスド行きたくなった!」

「なーんか昔聞いたことあるような会話っすね。千夏さん、たぶん反論しても無駄っす。」

「まぁ、あたしはいいけど…仁王くんは?焼肉がいいんじゃないの?」



千夏の言葉にブン太と赤也は微かに笑いながら、仁王を見た。そして仁王もそれを見ると、珍しくも少し吹き出した。



「いや。俺、ミスドがいい。」



こうして彼らの日常は続いていく。

+R is end.
Thank you.2008.1.29

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