付き合い始めてからしばらく経った後。部室に入ってびっくり。女一人、千夏がいた。
千夏以外には、仁王、ヒロシ、ジャッカル、柳。真田は…、もちろんいないよな。真田なんていたら、女子たるものが男子のみの部屋に一人で入ってくるとはたるんどるーって言うもんな。
そして千夏の真ん前には、赤也。みんな、赤也を囲むように座ってる。
「だからぁ、どーすればいいかわかんないっす!」
赤也がモジャモジャの頭をさらにモジャモジャにして喚いた。
「なになに、どした?」
「なんか赤也くん、好きな子できて悩んでるみたい。」
「マジで!?だれだれ?」
「テニス部の一個下の…ほら、前うちらと一緒にケーキバイキング行った子!」
「…あーあいつか!なるほど、よかったなぁ春がきて!」
明らかにおもしろがってると、このにやけ顔でばれたらしく、赤也には睨まれた。悪い、なんか知ってるやつの恋路っておもしろくて。
「好きってアピールしてるつもりなんすけど、なんせ相手が鈍い感じのやつなんで、もう告白するしか…、」
「そうだな、思い切るも良しと思うが。念の為言っておくが今告白しても確率は53%、五分五分だ。」
「五分五分!?そんなもん!?無理じゃないっすか!」
「切原くんらしくないですね。負けることを考えても始まりませんよ。聞くところ負けそうですが。」
柳とヒロシに畳み掛けられ、赤也は何も言えず。二人とも案外キツイな。赤也がさらに悩んじまったぜ。
「まぁ、好意を向けられてうれしくないやつはそういないんじゃねーか?仲良さそうだし、たぶんうまくいくと思うけどよ。」
ジャッカルの甘い励ましに、赤也は目を輝かせる。そうだな、相談するならジャッカルみたいなことなかれ主義のやつにしろい。
「仁王はどう思う?お前恋愛分野得意だろ?」
ただし、若干空気が読めない。ジャッカルが仁王に話題を振ると、仁王はにやっと笑った。
ああ、この感じは、嫌な予感。
「好きなら抱きしめればいいじゃろ?誰かさんにやったみたいに。」
もう、サーッて、音が聞こえたぐらい、部室は気まずくなる。一番気まずそうなのはもちろん千夏。なんで男テニの部室なんて入ってきたのかって後悔してんだろい。
「じゃ、練習行くかのー。」
「おいおいお前!こんな空気にしたまま逃げんな!」
嫌な笑顔のまま、外に出ていった。
「…ほんと、相変わらずっすね。」
「だな。」
外を見ると、高山と仲良くストレッチやってる。あの二人も、あのあといろいろ話し合ってちょっと距離置いて、でもまたより戻って、なんだかんだうまくいってんだな。
「ま、ま、ま、話をまとめると、」
千夏が話をまとめだした。
つーか、なんでこいつがここにいるのかが最大の謎。なぜ仕切ってんのかも謎。
「逃げんじゃねぇってことで!」
「…うす!」
多少無理矢理な励ましに赤也は妙に張り切って、部室を飛び出して行った。
「我々も行きますか。」
「ああ。」
「先行ってるぜ。」
ヒロシ、柳、ジャッカルも部室を出ていった。俺と千夏だけが取り残されると、一瞬シーンとなって、顔を見合わせて笑った。
「お前なんでいんの?」
「赤也くんに、助けてーって。」
「ああ、友達だもんな。」
「ヤキモチ妬かないでよー。」
「妬いてねーし。」
嘘。めっちゃ妬いてる。こいつは俺が拗ねてることも気付いて、ケラケラ笑ってる。あー、腹立つ。可愛いけど。俺の知らないところで、男と仲良くすんなよなー。
でも赤也は、俺にとっても友達だからな。
「うまくいくといーな。」
「うん!」
「千夏。」
誰もいないのをいいことに、俺は千夏の肩を抱きよせた。頭、おでこの辺りに、キスをする。
「もーブン太、ここ部室だよ。」
「いーじゃん。こっからなら外からも見えねーし。」
「もー、…でも早く着替えないと練習始まるよ。」
「んじゃ、着替えるの手伝って。」
「甘えん坊。」
「へへっ。」
そして千夏が俺のネクタイを外し、ボタンに手をかけた瞬間、
「「あ。」」
ガチャっと扉を開ける音がして。俺らを見るやいなや飛び出しそうに目を真ん丸くしたかと思えば、見る見るうちに鬼のような形相に変わった、
真田副部長…殿。
「たるんどるっ!」
真田説教会開会のそのお言葉はたぶん学校中、響き渡った。そしてその瞬間、柳は、こうなる確率100%って呟いたらしい。わかってたんなら言えよ。
俺と千夏はその後一時間余り正座で、真田副部長殿による、男女とは何たるものかの有り難ーい講義を受けさせられた。
途中、退屈になったからこっそり、千夏とガムを半分こにして食べたら。なんだか懐かしい味がした。真田の説教はうんざりだけど、千夏と、その気持ちもガムも、分け合ってる気がして。
目だけ合わせて笑い合った。同じ高さの目線。同じものを感じて、分け合う。
こいつとのそんな幸せな毎日が、これからもずっとずっと、続きますように。
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