act.34 Bunta

「たのもー!」



たぶんまだ、屋上にいるんじゃねーかなと思って、俺は屋上に駆け登った。そして、勢いよく扉を開けた。



「…れ?千夏?」



誰もいなかった。威勢良く飛び込んだのにかなりマヌケだ。どこ行ったんだ?昼休みがもーすぐ終わっちまうのに。とりあえず電話…、

がねぇ!なんで!鞄だっけ?もしかして落とした?クッソーこんなときに…!でも探してる暇はねーし。

待て待て、落ち着け俺。冷静に考えたらあいつは教室に戻ったんじゃねーか?そうに違いない。よし、んじゃA組に戻る…、いやそれもだめだ。A組には真田がいる。どーしよ…。



―キーンコーンカーンコーン…



迷ってるうちにチャイムが鳴った。タイムアウトだ。教室戻るしかねーか…。
せっかく告白するぞって気合い入れたのに。その気合いが空回り、俺は意気消沈して階段を下りていった。

あー、アホらし。そういや赤也が辞書返せっつってたな。早く戻らねーとあとでうるさいからな……。



「ぎゃっ!」

「ってぇ…、」



走って戻ってる途中、廊下の曲がり角でぶつかった。俺は尻餅をついて、でも頭ん中はスローモーションみたいに。おとといのことを思い出した。

あれ?これデジャヴ?…じゃねーな。目の前に、俺同様尻餅をついて、見えそうになったパンツを必死で隠そうとしてるやつがいた。
俺の探してたやつだった。



「…あ、ブン、ブン太…、ごめん、またぶつかっちゃったね。」



恥ずかしそうに笑って頭を掻きながら謝る声は、すげー久々に聞いた感じ。

探してたやつで、こいつに話があるわけで、なんか言わねーとって思っても、なんか言葉が出てこねーの。
さっき見たショッキングなこととか、こないだ失恋したーって泣いてたこととか、そんなんは頭からスーッて、消えてく感じで。

それよりも、二人でバイキング行ったこととか、プリクラのこととか、出会った日に行ったカラオケでのこと、ドーナツのこと、かくれんぼしたときのこと、遊園地で手つないだこと、帰り道、抱きしめたこと。
そんな、俺が今まで大切にしてきたこいつとの思い出が、ワァーって、蘇ってきて。こいつのことが、すごいすごいすごい好きだって、ガーッて感じで、胸のあたりに込み上げてきたんだ。

今なら言える。叫べる。予鈴は鳴ったけど、そんな学校のルールは置いといて。

俺の中のルールは一つ、負けねーこと。



「千夏、ちょっと来て。」

「…は、はい!」



俺は千夏の手を引いて、来た道を戻った。行き先は屋上。

ごめんな、仁王。ちょっとだけお前の場所、借りるぜ。なんかここだと、勇気出そうだから。

“気のせいでよかったのう”、なんて言って嘘だったけど。“50ちょいじゃな”、そう騙されてたけど。

“がんばりんしゃい”って言ってくれた、あの言葉は嘘じゃねーだろい?



俺が勇気を胸に、屋上の扉を開けると。
ザーッと。すぐ目の前も霞むほどの大雨が。



「…何これ雨?」

「…雨だね。さっきまですごく晴れてたのにねぇ。」



嘘だろ。天まで俺を見放したか…。今廊下に出たら、間違いなく先生たちに見つかる。どーする……。

とりあえず軒下づたいに屋上に出て、扉は閉めた。雨が校庭中を濡らす。今日は筋トレかーなんて、ぼんやり思った。



「ブン太。」

「お、おう。」

「これ…、」



千夏は赤い携帯を差し出した。見覚えのあるこれ。パカっと開いて確認すると、俺と千夏のプリクラ。うん、これは俺のだ。…やっべー…!



「さっきブン太落としてったって。仁王くんが拾ったんだけど…、」

「お、おお、サンキュー…、」



あんのヤロー、イッチバン見られたくないやつに渡しやがって。絶対わざとだろ!



「み、見た?」

「…見ちゃった。」



照れながら笑う千夏は可愛かったんだけど。俺は恥ずかしくてキモい自分を消したくて、頭を抱えて下にしゃがみこんだ。
そしたら千夏も、隣にしゃがんだ。



「…ひいた、よな?」



怖いけど、聞いてみた。俺なら、付き合ってもないやつにそんなことされてたらひく。確実に。もうそいつとは目も合わせたくなくなるぐらい。
俺が怯えてるのがわかったのか、千夏はあははっと、おかしそうに笑った。



「わ、笑うなよ。」

「ふふっ、ごめん、全然、」

「え?」

「全然ひいてない。」



俺の目をまっすぐに見つめて答えた千夏は、出会ったときより、きれいになった気がする。…おいてくなよ。俺なんかまだまだガキなのに。

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