朝、学校行って普通に朝練やって教室行って。その間、確かにいつも注目はされてるけど(俺有名人だからな)、やたらひそひそ声が聞こえてきた。えーマジ?って。俺なんかやった?
教室入って、まぁ割と仲いい男に質問されて、謎は解けた。
「なぁなぁ、丸井ってA組の松浦と付き合ってんの?」
最近、よく一緒に帰ったり、休みの日に遊んだりしたのが目撃されてたらしい。
「付き合ってねーけど、」
そのうち付き合うかもなー。なんて、そこまではもちろん言ってないけどな。
あいつが仁王を好きだったのは間違いないけど、今俺に傾きかけてんのも、間違いねーだろい。…たぶん。
でも、あんまよくないかも。だって、あいつはそーゆう噂とかもろ気にしそうなタイプだから。これ以上気まずくなっちまったらどーすんだよ。俺から、俺の口からまだ好きって伝えてない。なのに噂だけが一人歩きするのは、ヒジョーに困る。あいつの耳にも届いてんのかな。
でも本人に、そこんとこどうよ?なんて聞けるはずもなく、噂でいっぱいの今日は、あいつと話すことなく過ぎていった。
昼休み。食堂にお菓子を買いに行ったら赤也に会った。相変わらずバカで、一通り昨日のテレビの話にげらげら笑った後、とりあえず赤也の最近を聞いてみた。
「俺?千夏さんにはフラれたっす。」
「…は?」
「ちょっと前。ほら、俺が風邪引いて休んだ日っす。」
「……。」
「まぁ、フラれることはわかってたんすけどね。とりあえず自分の気持ちは伝えたくて。」
「…お前、」
「?」
「この抜け駆け野郎!」
俺なんかが怒ったって怖くもねーんだろうが。いきなり叫んだ俺に、少なからず赤也はびくっとした。
だって俺、何も知らなかった。
「いいじゃないっすか!フラれたんだし。」
当の本人はへらへら笑ってて、俺はそれを見て、さらにムカついた。だって俺、マジで気付かなかった。
赤也が千夏を好きってことはなんとなく知ってた。でも本人から聞いたわけじゃねーし、実際違ったらいいなって思ってた。
赤也は、テニスの仲間兼ライバル。バカみてえに明るいこいつとは、すげー気も合うし、学年は違うけど、誰かと遊びてーなと思ったらまず頭に浮かぶ。学年は違うけど、俺は友達だと思ってる。
その友達と、好きなやつがかぶるなんて最悪だろい?だから俺はそーなんなきゃいいなって思ってた半面、逆に自己チューな俺は、赤也が好きだろうが仁王が好きだろうが、俺が千夏と付き合うんだって、思ってた。
でも思わぬ抜け駆けをされて、フラれたこいつを目の前にして。真っ先に頭に浮かんだのは、なんで俺気付かなかったんだろうって。
俺はずっと思ってた。友達だけど、恋愛は別。同じやつ好きになっても、取り合いになっても、友達は友達、恋愛は恋愛。傷ついてもしょーがない、恨んでも仕方ない、自分がそーしたかったんだろい?って。
だから、赤也がフラれたからって俺は、何の負い目も感じない予定だった。むしろ抜け駆け?先輩差し置いてふざけんな!…って。そういう怒りが沸く予定だった。
でも俺、悔やんでる。反省してる。なんで赤也が傷ついてたことに気付けなかったのか。そりゃ言わないこいつが悪い。言わなかったことを責めたくもない。
けどな、最悪なことに、一瞬、ほんの一瞬、喜んじまった。そしてそれに対して激しくムカついてる俺がいる。
俺がこんなキレイゴト思うなんて、おかしいだろい。自分本位に、いつだって自由な俺が。
「赤也。」
「へーい。」
「お前趣味悪いな。」
いつだったかの言葉を返してやった。だってお前、40点だったじゃねーか。いつの間にか抜け駆けしやがって。このバカ也。
「お互い様じゃないっすか?」
同感。…いや、趣味は良すぎる、はず。
「俺ね、マジ好きでしたよ。つーか今も好きっす。」
「そっか。」
「ブン太先輩にはまだまだ彼氏になるチャンスあるから、正直うらやましっす。」
「いいだろ。」
「でも俺、ブン太先輩よか千夏さんに近いっすよ。友達ってゆーいいポジションもらったから。」
涙目に、へらっと笑ったこいつの顔からは、悲しみは感じなかった。たぶん乗り越えて、いい答えが見つかったんだろう。
次の恋に期待しろい。
「先輩もそろそろ告ったほうがいいんじゃないっすか?」
意地悪そうに笑いながら、俺が持ってるチョコを一つ取った。
言われなくてもそのつもり。決めた。赤也を見て。俺も男らしくしたい。だって、何だかこいつかっけーんだもん。バカ也のくせに。
さて、そうと決まったら決戦はいつがいいかな。
「あ、見て見て先輩!俺“明日きっと勝つ”って!真田副部長に勝てんのかな!」
チョコの包み紙に明日の運勢が書いてあんだ。
俺のチョコには、
「“明日きっと勝つ”。」
「なんだぁ、一緒っすか。」
明日だ。俺の勝負の日。
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