act.27 Nioh

「…ん…、」



寝てた。それはもうぐっすり。ベッドや国語の授業中にも到底敵わんぐらいあまりに居心地がよくて。1週間分の睡眠をばっちり取れた気がするぐらい。
まだまだ寝てたいんじゃけど、



「…ぐーぐー…、」



このうるせーイビキで起きた。
俺の膝に寝転んでいる、こいつ。どー記憶を辿っても、俺はこいつの肩を借りて寝たはず。いつの間にか立場が逆転どころか、より快適に寝とる。



「ンガー…、」



女としてどうよ。こんなのが好きなのか?ブン太も?赤也も?ほんとに?よく見てみんしゃい、この豪快な寝相……、

でも、可愛いことに俺のワイシャツをぎゅっと掴んどる。アホっぽく少し開いた口からよだれが垂れてんじゃないかと恐れながら、どーやって起こしてやろうか。久しぶりにうきうきしてきた。
鼻つまむ。耳塞ぐ。目をかっぴらく。どれもありきたりじゃな。擽るのは前やったし。

口に何かするかの。指突っ込むとかアレとかコレとか。なんて、そっち方面を考えてしまうのは、健全な男子中学生なら当然であるからして。



「…ん…、」



色気ないくせに色っぽい声出すんじゃな。
その声が漏れたきれいなピンクの唇を、指でそっとなぞって、そしてそのまま自分の唇に触れた。
ああそうじゃ、俺は変態じゃ。そんなことで喜んどるよ。今の俺の頭の中はチューしたいでいっぱいじゃ。開き直ってやる。



バカらしいと思いながらも、また千夏の唇に触れた。柔らかくて気持ちいい。

思えば、こんなふうにじっくり女の子の寝顔を見たことない。こんなふうに優しくそっと触ることもなかった。そもそも普段、相手に興味持つことすら億劫。相手の気持ち考えるのも怠い。
そんな俺がレンアイするなんて、百万年早かったんじゃな。



でも俺も、たぶん初めて、相手のこと考えられるようになったぜよ。あくまで勝手に、だけど。

こいつにキスしたいけど、もしかしてファーストキスだったら申し訳ないとか、してもいいならもっとロマンチックなとこでしてあげたいとか……、
考えてたりして。気持ち悪。



そんなやらしいことを考えてただけに、いきなり寝ていた千夏がびくっと動いて、俺もびくっとなった。これはあれ、たまに寝てるときに起こる現象。授業中だとかなり恥ずかしい、アレ。体勢直すフリして誤魔化す、アレ。



「…は、…んぁ?」



のっそり起き上がり、キョロキョロ周りを見渡す。目が覚めた、とは言えない目つき。そして俺と目が合うなり、開口一番。



「まき…はるー…、」



そのまま俺の腹に顔を突っ込み、抱きつく形で寝た。先に言っとくが俺がそうさせたわけではない。

エロい。かなりエロい体勢。100%寝ぼけとる。まきはるってなんじゃ。俺の名前は雅治じゃし違う、じゃあ夢の中で春巻でも食っとんのか。
そんなこいつの馬鹿げた状態にも拘わらず、しっかり俺はドキドキしとる。このままやっちまいたいぐらい。

ただし、それはこいつのことを考えると、ダメってわかっとるから。



首だけ後ろを向き、校庭を見遣ると、体育が終わってる。俺は、自分の体にしがみつきながらまだ眠りこけてるこいつを両手で包みこみ、本日最後の授業もサボることに決めた。
今のこの体勢で千夏が起きてほしいと期待して。



「…ん?」



少し経ってから、腹の部分で声が響いた。ああ、よかった。俺の期待が見事に実ります。



「…こ、これは…!」



たぶん目の前の現実(俺)に目を背けたいがどうしようもないのでどうしようと思っとるな。俺はもちろん離さんよ。



「に、におー…、」

「おはようさん。」

「はよ…ざいます。…ですが、」

「俺が寝とったらなぁ、お前がいきなり抱きついてきて、」

「う、嘘だぁ!」



いやぁ、ホントに。こればっかりはホントに。腕の中でじたばた暴れる千夏を押さえ込んだ。



「お前も大胆じゃの。」



耳元で思いっきりエロい声で囁いてやった。擽ったそうに、なおもじたばた千夏はもがく。



「はーなーせぇー!」

「ははっ、嫌ぜよーっと。」



こんなじゃれ合いをしばし続けてたら、しまいには、千夏は足も出してきた。



「おら!乙女の寝起きキック!」

「おっと。」



俺があっさり手を離すと、千夏は後ろに倒れ込んだ。後頭部は打ってないようじゃが、致命的と言えば致命的に、足を広げたまま。
今一度問いたい。君は女か?



「ちょっと!いきなり離さないで…、」



眉毛を吊り上げて怒ってるその顔は、ニヤニヤしている俺の顔見て事態に気付いたんだろう、真っ赤になった。



「ぎゃあぁぁ!」

「いいねぇ、純白。」



たまには色ものサービスもしてくれんと。
必死でスカートを押さえ込む千夏はワナワナ震えて。次の台詞は容易に想像ついた。



「このエロ詐欺師!」



“し”の部分が校庭にコダマした。それが鳴り止まぬ前に、千夏は走り去っていった。サワヤカな、シャンプーの香りを残して。

笑いの止まらない俺は、明日もこれからも、こんなやり取りしたいなと、つまらないことを願った。



「はー…おかし…、」



こんな笑ったんは久しぶり。
“またここ来ていい?”だって。いいに決まってるじゃろ。相変わらず鈍感。俺がこんなに楽しむのはそうそうないぜよ。

ふと、ポッキーが落ちてることに気付いた。大方、あいつが落としていったんじゃろ。甘いものは好きじゃないが、
“ちゃんと食べなきゃ”。そう言われたのを思い出した。だから封を開けて、中からポッキーを取ろうとしたが、ほとんど折れてた。

このぐらい短いポッキーで、あいつとポッキーゲームやりたいのうと、その折れたポッキーをくわえながらまた馬鹿げたことを考えた。

|
[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -