yesterday Nioh

今までの恋愛を振り返ってみた。

好きになったやつ。俺はたぶん、人より惚れやすい。そのぶん、飽きやすい。好きになった女の子は、中三にしちゃ多いかも。
幼稚園の初恋。小学校一年、二年、三年…、たぶん覚えてないいいなぁってだけの気持ちもいっぱいある。

好きになったやつらの共通点。あるかもしれないし、ないかもしれない。きっかけも九割方覚えてない。
楽しかった思い出、それなりにあったような気がしなくもない程度。
そしてその恋の結末は、ハッピーエンドでその後、バッドエンドに取って代わる。

そんなもんじゃな、俺は。
思い出そうにも、今までどんなふうに恋が終わってどんなふうに再び新しい恋が始まったのか、全然覚えとらん。だからってわけじゃないが、柄でもなく、前に進めんのーって思っとる。

まぁたぶん、あいつ以上にいい女なんか腐るほどおるよ。心配せんでも俺は自分の立ち直りの早さを知っとるし、例えどんな大失恋しようが即別に好きなやつできる自信はある。(嫌な自信。)

の、割には。電車に乗れん、さっきから。
公園に千夏を置き去りにしておいて、駅に着いたはいいが。なかなか体が電車に乗らない。もう何本も見送っとる。

そう、前に進めんのは物理的な意味。
でもちょっと冷静に考えてみよう。俺は、あいつが俺のこと好いとるとなんで思った?

根拠は………、特になし。
そんなもん雰囲気じゃ。あいつが俺のこと好きそうな反応したんじゃ。ってちょっと強引じゃけど。

もしかしたらあいつはブン太が好きかもしれんし、押せ押せ赤也にやられたかもしれんし、まったく知らない誰かに恋してるかもしれん。
つまりもし、あいつの今までの“キュン”みたいな表情や、さっきの“グサッ”みたいな表情が気のせいだったら、今傷ついとんのは俺だけということ。

そう思ったら、電車に乗ることができた。さっきまであんなに乗れなかったのにのう。体は精神でどうとでもなるもんじゃ。



「まもなく二番線、電車が発車します。ご乗車になって…、」



ドア付近の、角っこに立つのが俺は好き。外を眺めるのが好き。雨が勢いよく降ってるのを、まったく濡れない高見の場所から見るのも好き。

ああ、そういえば、あいつと初めて出会った日も、こんなふうに空を眺めて帰ったな。ただしあの日は晴れてて、夕焼けがきれいで、眩しくて。

思い出すと笑える。あいつドーナツ食いすぎじゃったな。ブン太以上に。そんで、帰りにディズニーストアで一緒になって、ぬいぐるみ買って。あれ、大事にしてくれてたしのう。

あ、だんだん思い出してきた。出会った日。初めて見た瞬間は50点とか言いつつ、実は可愛いかもとか思ったり。…そういやあの日、なんでドーナツ食いに行ったんだっけ。

そうそう、ブン太が食いたいって。俺も食いたくなって。みんな不思議な顔しとったけど、簡単なこと。
その前日、ファンの子からドーナツもらって。近頃CM見るしとりあえず食うかって食ったらそれがまずかった。うまいドーナツが食いたくなって…、

まずいで思い出した。あいつの作ったクッキーもまずかったのう。いや、そこまで劇的にまずくはなかったが、俺にとっちゃ、うまくない=まずい。そのどっちか。で、今度はうまいの作ってくるって言っとったがの、どうなったことやら…、



「電車が発車します。閉まる扉にご注意下さい。」



各駅停車しか停まらん駅から動けない俺。
また電車を見送った。何本目じゃろ。

結局また、扉が閉まる寸前にホームに降りた。
だって気付いたから。俺さっきからあいつのことしか考えとらん。考えられん。それはやっぱり、前に進めんのはやっぱり、俺はあいつが…、そう考えてしまうから。

雨降っとるし、もうとっくに帰ってるはずじゃけど。帰っとったほうがいいんじゃけど。
もし、もしお前が俺と、同じ気持ちなら。まだそこにいるんじゃないかって。今ならまだ、今すぐお前のとこ行って、お前に気持ち伝えたら……、ハッピーエンドかもって。



傘を買う暇はなかった。水も滴るいい男。部活以外でめったに走らん俺は、泥が跳ねない程度に、全力疾走で公園へ向かった。



公園に着くまでの間は、なんか浮かれとった。早く千夏に会いたい、それしか考えられなくて。
だから、あの赤い頭が見えたときは…。



公園に着いて、土管のところに赤い髪を確認。すぐにブン太と、千夏だとわかった。
即Uターン。そこは悩むところじゃない。
あいつは赤い髪のやつと幸せになんじゃろ。ハッピーエンドに。あいつだけじゃない、ブン太も、幸せになる。

ブン太はいいやつ。わがままだし、目立ちたがり屋のガキ。でもいいやつ。テニスのライバルとしても、友達としても。これからもできれば仲良くやっていきたいと思う仲間。

今もし乱入したところで、千夏が俺を選ぶかはわからんし。ましてやブン太と仲悪くなるのは勘弁じゃ。
俺のハッピーエンドは、いつかバッドエンドになるから。そんな一時のものを手にするには、捨てるものが重すぎる。

そう思って、帰り道を探すのに。でも見つからなくて。雨がひどいから。そこまで知らない街だから。道が見えない。いい歳して迷子。



“仁王くんは次、いい恋するよ”



涼子から聞いた、あいつの名言(?)。なーにがいい恋。随分と上から目線じゃの。えっらそーに。



“仁王くんはちゃんと相手に恋してる”



お前に何がわかるんじゃ。鈍感女。お菓子作りも下手じゃし空気も読めないし。

だから、その相手はお前だろって。言ってやりたい。

ようやく覚悟ができた。あいつを連れ去る覚悟。
また土管のほうに向かった……が。



そこで、俺の目に映る光景を前に、膝の力が抜けて。土管の前にしゃがみ込んだ。

もう二人はいなかったから。掠いたかったあいつはいなかった。さっきまで泥はねとか気にしとったのが嘘みたいに、ズボンの裾は泥まみれ。
覚えてる限り、生まれて初めて、この言葉を使わせてもらう。“死ぬほど後悔”。
さっき、二人のとこに行ってれば…、たらればの話。実際には出来なかった俺。

そもそも俺が手放したんじゃけど。自分から試合投げ出したんじゃけど。好きかどうか、そんな単純な大事なことすら考えることから逃げて。身近にいる女に逃げて。

まぁな、泣くの見ずに済んでよかったって話で…。



「……雨冷た…、」



本日、センチメンタルまーくんナリ。今はギャグにもならん。いい加減、帰らんとワカメ君みたいに風邪引くから。

そう思って立ち上がろうとすると、土管の中に影を見つけた。
中に入るのは嫌じゃった。さっきまで二人でいた空間だから。俺のものではない、あいつの空気があるから。

でもそんなことも言ってられない。ぱっと見から予見される物だと、かなり厄介だから。

すぐ手に取った。それはあいつの分身、携帯。
さぁさぁ、煮るなり焼くなり好きにしていい?とりあえずは恒例のメールチェック?ブックマークでも覗いてやる?

でも操作しようと思ったところで手が止まった。鼻の奥がツンとしてきたから。何俺泣きそうなんか?まさか。
ただその携帯は、ただの無機質な塊のくせにちょっと温もりが残っとって、たぶんずっと握りしめとったから。
あいつの楽しいときやうれしいとき、今日みたいなとき、いつも傍にいるコイツは、誰よりもあいつのことをわかってそうで。そう思ったら、泣きそうになったんじゃ。

結局は傷つけてごめんな。逃げ出してごめん。どうすればいいかわからんけど、とりあえず、この分身に謝っとく。

明日、俺はあいつに渡せるか?普通にできるか?らしくなく、明日の見通しがつかんかった。

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