act.22 Heroine

「再来週?空いてる空いてる!男テニも部活休みなんだ?」



放課後。帰り支度をしていたら、すでに着替えたブン太がクラスにやってきた。

今日は、休み時間にお菓子くれにきたりして、まめにブン太が会いにきてくれたんだ。心配してくれてるんだな。ほんとに、ブン太には感謝しきれないよ。なんでこんなに優しいんだろ。



「どこ行く?」

「横浜の方に行きたいんだけどどう?」

「お、いいねいいね!楽しみ!」

「じゃあ詳しくはまたメールするな!またな。」

「じゃあねー。」



楽しみだなー。ブン太といるとほんと楽しいから。
目立ちすぎな赤い髪の後ろ姿を見送っていると、途中、2、3人の女子に話し掛けられてた。何かお菓子みたいなものをもらったみたいで、ブン太は笑顔で受け取ってた。

そうか、忘れてたけど、ブン太も仁王くんと同じぐらいモテるんだよね。バレンタインにもらったチョコの数は校内2位だったとか。(しかも残さず全部食べたとか。)やっぱ見た目もカッコイイし、性格もいいもんな。

そういえばブン太って彼女いるのかな。今はいなさそうな感じだけど…、モテるなら仁王くんみたいにいろいろ付き合ったりしてたりして。

でもそれはなんかやだな。ブン太にはピュアでいてほしい。…おっと、仁王くんに大分失礼だった。



「千夏ー、部活いこー。」



あたしも涼子と部活に向かった。

そして三時間半の練習後。



「あれ?」

「どーかした?」



帰り際、ふと、あたしは自分の携帯がないことに気付いた。いつも入れてる鞄のポケットに入ってない。…教室?



「携帯忘れたから教室まで戻るわ!また明日ね!」

「はーい。バイバイ!」



みんなとはそこで別れて、急いで教室に戻った。
…誰もいない校舎ってちょー不気味。かといって誰か見知らぬ人がいてもやだけどさ。
足早に教室に入って探すけど、見つからない。



「っかしーな。今日持ってきて…、」



あれ、でも今日携帯触った記憶ないや。家かな?
…いや、むしろ昨日の夜も携帯触ってない。鞄のいつものポケットの中に入れっぱなしだったような。でもその鞄にはなかったし。最後に触ったのと言えば……、

まさかあの公園…?でもそうだ、家で仁王くんからの電話を受けたけど、そのあと公園で、ブン太からの電話も受けた。
誰かに鳴らしてもらえたらわかるかもだけど、そんなタイミングよく鳴らないよね。



―♪〜♪♪〜



その瞬間、携帯の音が鳴った。その音を辿ると、教室の後ろにある自分のロッカーの中から聞こえてる。
そのロッカーを開けると、見慣れた自分の携帯があった。



「あったぁ!よかった!…ん?」



見たら、非通知の着信。とりあえず出たけど、すぐ切れてしまった。
…変なの。まるであたしが携帯探してるの知って電話してきたみたい。音を鳴らして場所を知らせてくれたみたい。

不思議に思いつつも、誰もいない校舎内はやっぱり嫌で、あたしはそのまま急ぎ足で外へ向かった。けど。

タイミング悪い?
いや、若干ズレてることに感謝しなきゃ。昇降口で、涼子と仁王くんを見つけた。

急にまた心臓が速くなって、思わず隠れてしまった。咄嗟に、二人が一緒のところは、まだ見たくないって思ったし。会いたくないって。
楽しそうにしゃべってる、その二人と。



「ねぇ仁王くん、さっき電話してたみたいだけど、大丈夫?」

「ああ。」

「誰に電話してたの?」



勝ち気な涼子らしくなく、
恋をすると誰でもそんな小さなことを気にしちゃうんだなって、思って。
答えた仁王くんの言葉に、一瞬息が止まった。



「トモダチ。探し物しとったからどこにあるのか教えたんじゃ。」

「仁王くんが隠したの?」

「さぁ、どうかの。」

「本当にいたずら好きだねぇ。」



そんな会話をしながら、二人は帰っていった。

あたしは携帯をロッカーに入れた記憶はない。っていうか、そんなこと今までしたこともない。

間違いない、昨日あたしはあの公園に携帯を忘れて。仁王くんが今日持ってきてくれたんだ。直接ではなくて、ロッカーに返してくれた。



仁王くん、雨の中、また公園に戻ってきてたの?どうして?拾ってもあたしに直接は渡さなかったの?どうして?

戻ってきたのはあたしのため?
渡さなかったのは、渡せなかったの?



泣きたくないのに。ブン太と約束したのに。
“この味がなくなったら、お前は笑ってるから”って、そう言ってくれたのに。
しゃがみ込んで泣いてしまった。ごめん、ブン太。今だけちょっと泣かせて。
君の友達は、掴み所がなくって、本心を明かしてくれない。まさに詐欺師。なのにこんな優しさが出たら、詐欺師失格でしょ。

あたしの気持ち、伝わっちゃってたのかなぁ。



「さすがだわ、モテるわけだねー…、」



涙は溢れるのに、なぜか笑顔も溢れた。それは同時に、しっかりと自分の気持ちを自覚しちゃったから。
あたしは仁王くんが好きだったんだって。
よくわかんないけど、この苦しさが、彼の優しさが、今も心に残るかくれんぼでのことが、すべて繋がる。

ただ、胸が痛くて切なくても、
笑うことを忘れたくはない。
“お前の笑顔、いいと思うぜ”って、その言葉も忘れられないから。

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