目の前で、まだまだ残ってる弁当を片そうとする仁王。もったいねー、半分も食ってないじゃん。
「ああ。」
「じゃあくれ。仁王んちのタマゴ焼きうまいし。」
出された弁当箱ごと俺はつかみ取った。
「よう食いよるのう。」
「まだまだ。満腹まで程遠い。」
プリッと笑って仁王は横になった。
昼休みの屋上。ほんとは生徒は無断で来ちゃいけねんだけど、仁王はちゃっかり、合い鍵造って持ってやんの。そしてもっぱら、俺ら(ほぼ仁王)のランチ兼昼寝スポット。
「仁王、お前なんか俺に言うことねーの。」
こっちを向くことも閉じた目を開けることもせず、聞いてんだか聞いてないんだか。ほんの少しだけ、呼吸が大きくなったように見えた。
「さぁ、そんなもんはないぜよ。」
「嘘つけ。」
食い終わった仁王の弁当箱を片付けて、腹の上にどんと乗っけてやった。
「つーか、別れたってのも聞いてないぜ。」
「あーハイハイ。その話。」
わざとらしく今気付いたみたいな反応しやがって。どうせ、最初っからわかってたろ。
「おととい前のと別れて、昨日から高山サンと付き合っとる。」
「なんで今さら復縁?」
「流れで。」
やっぱあの話はマジだったのか。信じらんねー。つーか流れってなんだよ。あれでも一応、高山はうれしそうだったぞ。先行き不安過ぎるだろい。
「それはおめでとうでいいの?」
ちょっと刺のある言い方だったかもしんねえけど。なんとなく、投げやり感あるし。自分のことなのに、興味すらなさそうな。
「言ってくれると有り難い、」
が、言わなくてもいいって感じだな。
じゃあ言わない。たぶん俺にとっちゃかなりの好転なんだろうが。千夏が傷ついたんだから、おめでとうはあんま言いたくない。
「俺、お前は千夏のこと好きかと思ってた。」
「気のせいでよかったのう。」
俺のささやかな揺さ振りにも仁王は眉一つ動かさず、平然と答えた。
ほんとに気のせいなのか?俺の勝手な想像だったのか?仁王の、あいつへの態度もただの気まぐれだったのか?
むしろ高山と付き合うことが気まぐれなのか?
「ブンちゃーん。」
ショート寸前の俺の頭は、仁王の変わらないわけわかんねー一言で少し落ち着いた。
「あの太陽どっかやって。眩しいぜよ。」
「できるか。」
こんなやつの本心なんかわかるわけねーか。つーか、ちょっと怖い気もするし。これならこれで、俺としては……、
「ブンちゃーん。」
「なんだよ。」
まったく動かなかった仁王が、むくりと起き上がった。そして勝手に俺の鞄を開け始めた。
「がんばりんしゃい。身近にライバルおるじゃろ。」
ワカメ君とか。そう付け足すと、また寝た。よく見ると俺のタオルを顔に被せて。ああ、鞄開いたのはタオル出すためか。
「言うの遅くなったけど、おめでと。」
結局言っちまった。
だって、仁王が応援してくれてんのかと思うと急にうれしくなったから。なんでなのかはわかんないけど。
ただの気まぐれかもしれないけど。ホントはちょっとあいつのこと好きで、気の迷いかもしれないけど。
左手をひらひらさせて、“ありがとう”、そう言ったのかな。
本心わかりにくいけど、あいつが一番、自分自身のことわかってないかも。
ほんとなんとなくだけど、そう感じた。
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