act.20 Akaya

「どいてくれんかの。」

「そちらこそお先にどいてくれません?」



氷帝の日吉だっけ。いい言葉使うよな、“下剋上”。

俺は今部室の前で、仁王先輩と睨み合ってる。俺は部室ん中にタオル取りに行きたくて、着替え終わった仁王先輩は、外に出たがってる。
さぁ、扉は一つ。譲れねぇ。



「お前さん、随分えらなったのう。」

「褒めてくれてどーも。」



女泣かせのスマイルで言うもんだから俺も負けじと笑顔で返した。傍から見たら何くだらねーことやってんだこいつらってなるけど、負けず嫌いに昨日のことも加わってるから、お互い譲れねーんだよ。

そのとき、仁王先輩の目線が俺を通り越して後ろに移動した。それもちょっと気まずそうな表情で。



「松浦…、」

「…!」



思いっきり振り向いちまった。
ああ、もちろん後ろには誰もいねーよ。



「やーい、ひっかかったー。」

「…うぜぇ。」

「さーて、にらめっこも飽きたし、お先にどうぞ?」



そう言って仁王先輩は道を譲った。
…は?この人なんなの?



「にしてもお前さん、ベタ惚れなんじゃな。せいぜいがんばりんしゃい。」



そう言って、仁王先輩は俺の肩に手を置いた。そう、今の俺をブチ切れさせるには十分な言動。

俺の顔見てそれがわかったんだろ。仁王先輩はクっと笑った。この人のこーゆー表情マジ大嫌いだ。人をバカにすんのも大概にしろ。



「ククっ、赤也くーん、怒っちゃ嫌。」

「てめぇ!ふざけん…、」

「俺、涼子と付き合っとるから。」

「……は?」

「心配せんでも、お前さんの大事な大事な千夏さんには手出さんよ。安心しろ。」



この人の言ってることが理解できなかった。
何言ってんの?
高山サンと付き合ってる?千夏さんは?あんた、好きなんじゃねーの?千夏さんだって、あんたのこと……、

油断しまくりの俺の横を摺り抜けて、仁王先輩はコートに向かった。すれ違い様のあの人は、軽く笑ってやがった。
なるほど、結局負けたんだな。これを狙ってたんだかどーか知らねーけどよう。



「ちょっと、仁王先輩!」



あの人は呼んで立ち止まる人じゃねーことぐらいはわかってるけど。俺も変だよな。つい何秒か前までは、仁王先輩なんかに死んでも千夏さんは渡さねーと思ってたのに。
なのに…、



「あんた、それでいーんすか!」



ライバルにんなこと聞くなよって。誰かに突っ込まれそう。おまけにあんな性悪強敵で。後押しなんて絶対しねぇって思ってたのに。
その仁王先輩は1ミリも振り返らず、左手をひらひらさせた。もういいってことっすか?



「俺は……、いいとは思えない。」



あの人に聞こえたかはわかんねーけど。ほんと意味不明な人。止めようとしてる俺自身もな。

いや、あの人に意味を求めることが間違ってんのかも。俺は全然恋とか愛とか語れるわけじゃねーけど、好きなら突っ走る。それが普通だと思うから。理解できねーよ。

どー見たって想い繋がってたはずなのに。それを、鈍い千夏さんはわかんなくても、仁王先輩なら気付いてたはずなのに。なんで自分から放しちゃうわけ?



女子コートを見ると、千夏さんが元気に高山サンと打ち合ってる。
今あの笑顔の裏で何考えてんだろな。仁王先輩はまだしも、わかりやすいはずの千夏さんですら、よくわかってないんだ俺は。

一番近しい存在と思ってる、そんな先輩たちのすれ違いを見て、ただただ立ち尽くした。

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