「ブン太!?」
朝、家のチャイムが鳴って扉を開けたらブン太がいた。
「どーしたの!?」
「一緒に学校いこーぜ。」
ああそうか、昨日のことで。
あたしが学校行きづらいって、弱音吐いたから。
「ブン太って、面倒見いいよね。」
「だって俺お兄ちゃんだし。」
「それだけじゃなくてさ、年下の赤也くんもかなりブン太に懐いてるじゃん?やっぱそれって面倒見いいからじゃないかなぁ。」
「そーかぁ?あいつにはナメられてばっかだけどな。」
「とりあえず仲良しよね。」
ブン太と赤也くん。
二人とも明るくてちょっとバカっぽくて、二人してすごく優しい。仁王くんとはまた違った優しさ…、
変なの。昨日あれだけ泣いたせいか、
すごくすっきりしてる。落ち着いてる。
引きずるかなって思ったけど、なんか今は平気みたいだ。昨日の苦しさは気のせいだった?それとも、ブン太といると楽しいから?
そうかもしれない。あたしはブン太といるとき、気付くといつも笑顔だ。楽しくて、気も合うし、おもしろい。
何より雰囲気が似てるから。空気が、同じように感じる。呼吸が軽くなる。
特に昨日のことにもお互い触れず、面白おかしくいろんな話をした。
クラスも部活も一緒で、少し関わるような話題になっても彼の名前は一切出してこなかったから、きっとブン太は、あたしが誰のことを言っていたかわかってるんだろう。
それも忘れなくちゃいけない。だって失恋だから。失恋したら、それ以上好きになっちゃいけないって、意味だから。
学校に着くと、すでにパラパラ打ち始めている人たちがいた。その中に赤也くんもいた。
仁王くんはいなくて、ちょっとホッとした。
会いたくないってわけじゃなくて、ただ、今仁王くんに会ったら、あたしはどんな感じになるのかわかんないから。
泣くことはないと思うけど、気まずくて避けちゃったりするのかな。
でもそれはだめだ。仁王くんは知らないんだから。昨日のことは、友達だからとわざわざ教えてくれたこと。今まで通り接しなくちゃ。
「じゃあまたな。」
「うんっ、またね。」
ブン太と別れて部室に向かおうとしたそのとき、試練はいきなりやってきたね。
「おはよー千夏、丸井!」
振り向くと、涼子。
その隣に、仁王くん。
…どうして落ち着いてるなんて思った?見た瞬間、心臓目から飛び出そうだったんですけど。
涼子はいつも通り、いや、いつも以上にきれいで。仁王くんは…、
「おーっす!」
ブン太がでかい声で少し離れた場所から挨拶に割り込んだ。おかげで仁王くんと目が合うのが遅れた。
ワンクッションおかれて、ちょっとホッとする。次はあたしの番だ。
大丈夫、普通にできるって。昨日そう言ってくれたブン太の声がまた、聞こえた気がした。
あたしにはブン太がついてる。そう思ったら、また今朝みたいに驚くほど落ち着いた。
「おはよ!涼子に仁王くん。」
仁王くんをしっかり見据えると、ほんの少しだけ心臓がまた速くなった。
でも案の定と言うべきか、仁王くんは何も表情を変えず、ただ眠そうにしてる。
「おはようさん。」
そのまますたすた男子部の部室へ向かった。
ああよかった。普通にできた。全然普通。
胸を撫で下ろしていたら、あたしの手に、ブン太がなんか入れてきた。
“オッケー!”そんなふうに笑いながら。
見たら、ミルキーだった。甘い甘い、ミルキー。頑張ったご褒美かな?辛い飴のあとの、甘い飴。
「千夏ー、うちらも着替えにいこう。」
「うん!」
あたしと涼子も部室へ向かった。
その途中、涼子から仁王くんと付き合ってることを聞かされた。おめでとうって、いつもの笑顔とテンションで言えた気がする。
たぶん、もう大丈夫。一時の憧れだ。
本気になる前に終わってしまったけど。あたしは次、いい恋するよ。
口の中のミルキーが、あたしを応援してくれてる。
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