真田副部長の鬼のような(普通に鬼か)扱きにへとへと。
練習も終わって、適当にブン太先輩とかと話すのがいつも。新しいゲームの話とか、今週号のジャンプの話とか。
部室で話しながら汗だくのポロシャツを脱いで。窓の外をふと見ると、仁王先輩が女と話してる。
あれ彼女だっけ。なんか廊下でケンカしてたとかなんとか噂になってたけど。どーせまた仁王先輩が変なことやらかしたんだろ。見た目はお似合いなのに、マジ仁王先輩はもったいねーことばっかするよな。
「あれ?お前また背伸びたんじゃねぇ?」
いきなりブン太先輩が近寄ってきて、めっちゃ嫌そーな顔して背比べしてる。
さっきまでのゲームの話はどこいったんだか。話変えるの得意。それが俺様ブン太様。
そんなことお構いなしに、勝手に伸びんじゃねーよ、とか、そのうち抜かすからな、とかぶつぶつ言ってる。
ブン太先輩は俺よか背低いけど、まーそんな変わるほどじゃねぇ。のに、やたらこの人は気にすんだな。まったく。
「そんな伸びてないっすよ。まだまだ伸び足りねぇ。」
そういって俺はまた窓の外を見た。
別にすげーでっかくなりたいわけじゃないけど。でかいからってテニス上手くなるわけじゃなし。むしろでかくなって動き鈍くなんのは勘弁。
でも女には背高いほうがモテんじゃん、たぶん。
だからせめてあの人、
仁王先輩ぐらいの身長はほしいよな。
「…あ、」
思わず声が漏れた。
千夏さんが、仁王先輩としゃべってる。…って、彼女はどーした。帰らせたな。
「あっ!」
ブン太先輩も見つけたらしく、でっけー声出した。
かと思ったら、大急ぎで服を着て外に出てった。
素早いねぇ、こーゆうことには。…って、俺も負けらんねぇ!
俺もブン太先輩に続き、服を着て外に飛び出した。
「あ、丸井くんに赤也くんも来たーっ。」
にっこり笑って迎えてくれて思った。
やべーな、やっぱこの人けっこう可愛いんじゃねぇ?
ちらっと横のブン太先輩を見ると、
あからさまにニヤニヤしちゃって。
どーせ昨日のドーナツで運命とか感じちゃってんじゃねーの?こりゃー本人にバレるのも時間の問題…、
「あ、そうそう、これ…みなさんいかが?」
そういって千夏さんは袋に入ったお菓子らしきものを取り出した。
「なんすか?それ。」
俺の問いかけに、千夏さんは顔をしかめた。
「今日ね、友達の誕生日だったからクッキー焼いたんだけど…、」
「…失敗したんすね。」
えへへ、と頭を恥ずかしそうに掻いて笑った。
見りゃわかる。ボロボロだし、焦げてるし。食う前にまずそうってわかる。
「食う!」
ブン太先輩は張り切って名乗り出て、すぐ口に突っ込んだ。そんな見るからに失敗作のクッキーをほお張り、うまいうまい言って食ってる。
ついでに俺ももらって食べたけど、まぁ見た目ほど悪くはない。普通にうまい。
「千夏さん、これ普通にうまいっすよ!見た目変だけど。」
「うっ…一言余計だよ!」
そんなこと言いながらも、俺とブン太先輩のおいしそうに食べる姿を見て、千夏さんもうれしそうにしていた、が。
「俺の口には合わないのう。」
一瞬、みんなの動きが止まる。
仁王先輩、アンタ今何言いました?
潰すよ?
「…や、やっぱりまずいんだ…。」
「そんなことねーよ!マジうまいって!」
「そっすよ!仁王先輩の味覚がおかしいんす!」
千夏さんはちょっと泣きそうな声で。
ブン太先輩が必死でフォローするもんだから、俺も慌ててフォローした。ついでに仁王先輩を睨んだ。
まったく、空気読めよ。仁王先輩は興味ない女にはマジできついからな。千夏さん傷ついたよなぁ…、
「じゃあまた作る!今度はうまく作るから!」
…へ?
千夏さんは、仁王先輩に向かって言った。
「頑張るから、また食べて!」
「ほー楽しみじゃのう。うまいやつ待っとるよ。」
そしていつものように気障に、“フッ”て笑って、千夏さんの頭を撫でた。ぽんぽんって、まるで彼女にするかのように。その身長差がまたよく見えた。
千夏さんは少し照れながら、うれしそうに笑ってた。俺のいいと思った笑顔だった。
「じゃ、俺は着替えてくるぜよ。」
「ばいばい、仁王くん!また明日ね!」
後ろ姿の仁王先輩に向かって千夏さんは一生懸命手を振ってた。一度も振り向かない仁王先輩に対してずっと、笑って。
それも俺のいいと思った笑顔だった。
…つーかこれ、やばくねぇ?仁王先輩と、それに対する千夏さんの態度、この雰囲気。隣のブン太先輩もやべーって顔してる。
…いや、この人はそれ以上に千夏さんが可愛くてやべーって顔だな。いいな、平和で。
「やっぱ男はクールが一番か…。」
「「なんか言った?」」
ブン太先輩と千夏さんがハモった。そういやこの二人キャラかぶってんだった。
当の二人は息合いすぎなことに爆笑してる。
この二人もいい雰囲気だったり?くっそー負けたくねぇ!
…ついでに背も仁王先輩以上欲しいな。さっきの、頭ぽんぽんってやつ、
是非やりてぇ。
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