act.5 Bunta

今日は気分がいい。



「なんかブン太先輩今日やたら調子いいっすね。」

「俺はいつでも絶好調だろい。」

「…へっ。」

「なんだその顔!」

「べっつにー。」



授業も終わり、部活の時間。いつも通りきつーい練習をこなす。
でもなんだか今日は調子いいんだ。
何でもやれそうな気がする。

そんでテニスめいっぱい楽しんで、早く明日になんねーかなって思ってる。休み時間とか、めちゃくちゃ楽しみ。わざとA組のほう行ったりして。ヒロシ辺りに用事作ったりして。
とかいろいろシュミレーションしてる。

理由は、アレだよ。
転校生の松浦。
ぱっと見たときからけっこー好みだったけど、さっき確信した。



「赤也、俺にもとうとう春がきたぜ。」

「はぁ?春なら年がら年中、先輩の頭ん中咲き乱れてんじゃないすか。」

「どーゆう意味だ!」

「悪い意味っす。」



赤也の憎まれ口にも怒る気がしねぇ。
それほど今、テンション上がってんだ。



「あ、女テニ!」



俺と赤也はフェンスに張り付く。今日は女テニは外周を走る日だ。このフェンス前を通過する。
あいつは…と、



「おっ、高山サン、やっぱ可愛いっすね。」



高山。仁王の元カノな。
つーか何で赤也までフェンスに張り付いてんだ。こいつも目当ていんのか?

おっと、んなことはどーでもいい。あいつを見逃しちまう。
目の前を一人、二人…と女子が通過する。俺は一人一人よく見て探し…、みっけた!

新しめのジャージを来た、一見地味なやつ。俺と似たようなふわふわの髪を靡かせながら走ってきた。
すぐさまあいつの名前を呼ぼうとすると…、



「千夏さん!」



…は?
千夏って松浦の名前だよな?
何でこいつが松浦を名前で呼んでんだ?



「あ、赤也くんに丸井くんっ。」



…赤也くん!?
何でこいつが名前で呼ばれんだ!?



「お疲れーっす!外周きつくないっすか?」

「もーバテそうっ!」

「ははっ、体力ねーなぁ!ちゃんと走んないと太りますよ!」

「うるさいわねぇっ!そっちこそサボんなよ!」

「俺は真面目っすから!頑張ってくださいよ!」

「まっかせろ!二人とも頑張ってねー!」



松浦は息を弾ませながら、笑顔で手を振って走り去っていった。
やっぱ可愛いなー……っておいおい、



「さーて、俺らも真田副部長の裏拳喰らう前に練習戻りましょ。」



赤也はヘラヘラしながらコートに戻っていった。…もしかして、いや、もしかしなくても。
赤也のあの当たると痛いサーブが絶好調に決まった。



「…あいつもかよ!?」



せっかく春がきたと思ったのに!いきなしライバル出現!?しかも部活の後輩!?でも…、



“千夏さん!”



うらやましいな…。松浦も心なしかうれしそうだったし。



「人懐っこさがウケるのかもなぁ。」



俺が赤也を見てると、目が合った。
へらっと笑って両手をぶんぶん振ってる。



「ブン太先輩球出ししてー!」

「…へーい。」



なんつーか、ホント人懐っこいよな。
会ってまだ二日目だぜ?…あ、馴れ馴れしいのか。

俺も名前で呼んでみるか。
そんで、俺も名前で呼んでもらう!

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