「なんかブン太先輩今日やたら調子いいっすね。」
「俺はいつでも絶好調だろい。」
「…へっ。」
「なんだその顔!」
「べっつにー。」
授業も終わり、部活の時間。いつも通りきつーい練習をこなす。
でもなんだか今日は調子いいんだ。
何でもやれそうな気がする。
そんでテニスめいっぱい楽しんで、早く明日になんねーかなって思ってる。休み時間とか、めちゃくちゃ楽しみ。わざとA組のほう行ったりして。ヒロシ辺りに用事作ったりして。
とかいろいろシュミレーションしてる。
理由は、アレだよ。
転校生の松浦。
ぱっと見たときからけっこー好みだったけど、さっき確信した。
「赤也、俺にもとうとう春がきたぜ。」
「はぁ?春なら年がら年中、先輩の頭ん中咲き乱れてんじゃないすか。」
「どーゆう意味だ!」
「悪い意味っす。」
赤也の憎まれ口にも怒る気がしねぇ。
それほど今、テンション上がってんだ。
「あ、女テニ!」
俺と赤也はフェンスに張り付く。今日は女テニは外周を走る日だ。このフェンス前を通過する。
あいつは…と、
「おっ、高山サン、やっぱ可愛いっすね。」
高山。仁王の元カノな。
つーか何で赤也までフェンスに張り付いてんだ。こいつも目当ていんのか?
おっと、んなことはどーでもいい。あいつを見逃しちまう。
目の前を一人、二人…と女子が通過する。俺は一人一人よく見て探し…、みっけた!
新しめのジャージを来た、一見地味なやつ。俺と似たようなふわふわの髪を靡かせながら走ってきた。
すぐさまあいつの名前を呼ぼうとすると…、
「千夏さん!」
…は?
千夏って松浦の名前だよな?
何でこいつが松浦を名前で呼んでんだ?
「あ、赤也くんに丸井くんっ。」
…赤也くん!?
何でこいつが名前で呼ばれんだ!?
「お疲れーっす!外周きつくないっすか?」
「もーバテそうっ!」
「ははっ、体力ねーなぁ!ちゃんと走んないと太りますよ!」
「うるさいわねぇっ!そっちこそサボんなよ!」
「俺は真面目っすから!頑張ってくださいよ!」
「まっかせろ!二人とも頑張ってねー!」
松浦は息を弾ませながら、笑顔で手を振って走り去っていった。
やっぱ可愛いなー……っておいおい、
「さーて、俺らも真田副部長の裏拳喰らう前に練習戻りましょ。」
赤也はヘラヘラしながらコートに戻っていった。…もしかして、いや、もしかしなくても。
赤也のあの当たると痛いサーブが絶好調に決まった。
「…あいつもかよ!?」
せっかく春がきたと思ったのに!いきなしライバル出現!?しかも部活の後輩!?でも…、
“千夏さん!”
うらやましいな…。松浦も心なしかうれしそうだったし。
「人懐っこさがウケるのかもなぁ。」
俺が赤也を見てると、目が合った。
へらっと笑って両手をぶんぶん振ってる。
「ブン太先輩球出ししてー!」
「…へーい。」
なんつーか、ホント人懐っこいよな。
会ってまだ二日目だぜ?…あ、馴れ馴れしいのか。
俺も名前で呼んでみるか。
そんで、俺も名前で呼んでもらう!
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