act.3 Nioh

「雅治ー、ディズニーストア行きたーい。」

「うん、いいよ。」



彼女と待ち合わせ後、ディズニーストアに向かう。正直、こーゆう店、きついんじゃけど。



「かわいー!」



叫ぶほどじゃないのに、女っちゅうもんはなんでかわいーかわいー言うんじゃろ。
心の中では辛く突っ込んでしまう自分が外面とかけ離れすぎてて、ちょっと笑った。



「ねぇねぇ、これペアで持ちたくない?」



なんかブリブリにキラキラでピカピカしたストラップを見せられた。あー多分3日で落とすなと思ったけど。



「お、いいな。じゃあ俺が買うぜよ。」

「ほんと!?やったー!」



早くここから出たかっただけだったり。
俺はレジへ、彼女はその間トイレへ行くと言って店を出た。どうせ化粧直しじゃろ。時間かかりそう。

レジへ行く途中、ウン…失礼、昔のヤンキー座りでぬいぐるみを二つ持った妙な女を見つけた。しかも、立海の制服だ。
さっき見たばっかのやつだということにすぐ気付いた。



「何しとる?」

「あ、仁王くん?」



転校生の……松浦だっけ。
右手も左手も同じぬいぐるみを持ってる。



「これさ、どっちのが可愛いと思う?」



どっち?どっちも一緒だろ。あの一番人気のネズミさん。



「なんかさ、こっちは女の子っぽくて、こっちは男の子っぽいよね。」

「違いがわからん。」

「微妙に違うよ。よく見て!」



言われるままに、俺は二つのぬいぐるみを見比べた。右が…女の子っつったか?
いや、バカらしいことは俺が一番よくわかっとる。そもそもこいつは全部男の子な気がする。



「…右かのう。」

「女の子ね?やっぱり。じゃあこっちにしよっと!」



悪いが、結局違いはわからんかった。若干、目と目の間の距離が違うのがわかったぐらい。変わった女じゃの。

松浦も買うものは決まってたらしく、そのまま二人してレジに向かった。
無言で並ぶのもなんだから、一応話し掛けようか。



「カラオケ行かなかったんか?」

「行ったよ。その後、男子はゲーセン行って、何人か女子もついてったけど、あたしは帰ってきたの。ぬいぐるみ買うために。」

「家この辺?」

「うん。次の次の次の駅。」



それはこの辺には入らんじゃろ。わざわざそのぬいぐるみ買うためにこの駅きたんか。



「2100円になりまーす。」

「…百円足んない!何で!?さっきまで確かに…、」



また始まった。さっきと同じような光景に、思わずため息が出た。
でも同時に、なぜか口元が緩んだ。



「もう千円出せば。」

「えー!たった百円のためにお札くずすの?」



そのたった百円を必死で探すのもどうよ。誰かさんそっくりじゃのう。あ、誰かさんはまずジャッカルに借りるか。ということはつまり。



「じゃ、これ。」



俺は百円を差し出す。一応この場限りのジャッカル役ということで。
でも松浦は、いや確か鞄に!って鞄を床に叩きつけ探そうとしとった。
ここで鞄広げられるのも面倒じゃなぁ。



「すいません、これも一緒に。会計はこれでお願いします。」



俺は自分の持ってたストラップをレジに出し、ついでに五千円札も出す。



「え?」

「それ、俺からのプレゼントっちゅうことで。立海転入記念。」

「えぇ!?いいよ!そんな!」



相当驚いてるのがわかるぐらい、すごい目を真ん丸くした。面白い顔だから写メ撮りたいぐらい。



「いいって。プレゼントっつっても気まぐれ。男に恥かかせなさんな。」



本当に気まぐれじゃし。
松浦もちょっと納得いったのか、ありがとうとでかい声で叫んだ。うるさい。



会計も済んで、俺たちは外へ出た。
何か忘れているような気もするが、気にせんとこ。



「テニス部って仲良しだよねぇ。」

「授業以外は朝から晩まで一緒におるからの。」

「今日いたのは丸井くんと、柳生くんと、桑原くんと、二年生の赤也くん、だよね?」



桑原?…ああ、ジャッカルか。
一瞬止まったものの、俺はコクンと頷いた。



「レギュラー陣はみんなかっこいいって話、転校初日からずっと聞いてた。」

「…で?」

「なかなか?」

「はは、言うねえ。」

「あははっ、ちょっと上からだったね!でも、仁王くんはほんとにモテそう。噂どおり。」



ああ、涼子から聞いたのか。噂どおりって、なんじゃそれ。

女は、牽制する。
涼子が俺に冷めない限り、俺がこいつの恋愛対象に入ることはない。女ってほんと面倒じゃな。



「これ、ほんとにありがとうね!」



駅での別れ際。
俺は、家とは反対方面のホームに行く。このままだと同じ電車に乗ることになっちまうから、何となく面倒臭い気がした。



「じゃあまた明日ね!」

「おう。」



松浦は、俺が買ってやったぬいぐるみを人目も気にせず高々とあげて振り回した。元気じゃのう。

俺は、ちょっと元気ない。さっきから鳴ってる携帯も、とる気がしない。何か、引っ掛かる。
あれか。彼女置いてきたから?
でもそんなことは実際今思い出すまで忘れてたからどうでもよくて。何じゃこの久々にだるい気持ち。

電車の窓から見える夕日がやけに綺麗。気持ちはだるいが、気分はいい。眩しくて目を細めながら、ぼんやり考えた。
あいつはぬいぐるみに名前つけるタイプだな、と。なんてつけるのかな、と。それで絶対、ぬいぐるみに話し掛けるタイプだな、と。

“俺がこいつの恋愛対象に入ることはない”
それがあいつの、第一印象。
…他は、特にない。

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