ドーナツいっぱい食って、俺はかなり満足。
「ねーねー、丸井たちー、この後みんなでカラオケ行かない?」
高山が話し掛けにきた。カラオケかぁ。久しぶりにいいかもな。
「おー、いいぜ。みんなどーする?」
「あ、俺も行くっス!」
「俺も行く。」
「私は遠慮します。」
俺、赤也、ジャッカル。ヒロシは欠席、残るはあいつだけど…、
「俺も用事あるナリ。」
あーあ。一気に残念な顔しちゃって、高山。かわいそうに。おそらく一番来てほしかっただろうよ。バレバレだな。ま、しょーがねえ。
「よっし、んじゃ行くか。」
さらばドーナツ。また来るからな。ジャッカルの奢りで。
ちょっと食いたりなくてドーナツを惜しみつつ、レジまで行ったら先に会計してる女子がいた。
「あれ!十円がない!」
レジの前にて店内に響くぐらいでけー声で叫んだやつ。転校生の松浦さん。どちらかと言うと俺は好みだ。
十円〜十円〜って、財布が破けるんじゃないかというぐらい開いて探してるけど、そんな開いたってないもんは出てこねーだろい。
「千夏ー、あたし十円あるよ?」
「いや!さっきまで確かに十円あった!あったんだよ!」
高山のお賽銭のような十円を拒否って、今度は鞄の中をあさり始めた。ジャージやらタオルやらとにかく外に出しまくり。
後ろつっかえてんだけどって思ってたら、ドーナツに次ぐ今俺の興味を最大限引き出すものが飛び出した。
「これって…!」
「あ、それ今日新発売の期間限定ポッキー、マンゴープリン味だよ。」
「早えーなもう買ったのか!美味い?」
「美味い美味い!マンゴー味ではなくマンゴープリン味ってとこがミソ!」
「どっちも変わんない気がすんスけど。」
赤也が横槍を入れてきた。まぁ凡人にはそんなもんだろう。けど俺みたいなお菓子スペシャリストには違う。
「バーカ、微妙に違うんだよ。な?」
「そうだよ。マンゴーはフルーティーだけど、マンゴープリンはマンゴープリンそのものがお菓子なの。わかる?」
「お菓子のお菓子味ってことだ。甘さの質に違いがあんだよ。てかこれ、食ってええ?」
「食べな食べな!」
「…どーでもいいっスから早く十円探してくださいよ。」
「あ、十円十円!」
なんか、けっこう気合うかもな。ドーナツも好きみたいだし。
てゆうかこいつの会計…、1680円!?ミスドでこれはちょっとやばい。
「あったー!あったあった!」
ようやく、騒ぎまくった松浦さんの会計は終わった。続いて、俺。
「…げ、百円足んねえ!貸してくれ!ジャッカル!」
「俺かよ…。」
「ブン太先輩と松浦先輩ってキャラかぶってるっス。」
俺もそう思う。
会計を済ませた俺らは外に出た。
ここは南口。カラオケは北口らしく、駅の中を通ってく。途中、俺の好きなショップがあったりして、今度ここに買い物でもこようかと思った。
「では私たちはここで失礼します。」
「また明日な。」
改札前にさしかかったところで仁王とヒロシは立ち止まった。
「おー、じゃあな。」
「お疲れさまっスー。」
二人を最後まで見送らずみんな歩きだしたから、俺も行こうと思ったけど。
高山は見送るつもりなのか、立ち止まったままだった。俺も足を止めてその高山が見つめる先を目で追う。
改札内で仁王とヒロシが別れた。あいつらん家は同じ方面だけど、仁王は逆方面のホームに向かったっぽい。
デートだな。あっちは彼女ん家方面。
「仁王くん、デートかなぁ。彼女いるみたいだし。」
俺に聞いてんだかわかんないけど、立ち尽くしてた高山がつぶやいた。すっげー悲しそうな声。
こーゆうとき、なんて言やいんだろ。嘘つくのもおかしいよな。そもそもあいつは隠そうとすらしてないわけだし。
あー…っと言葉につまってたら、松浦さんが先に口を開いた。
「試合後のデートかぁ。今日暑かったから、いくら仁王くんでも汗臭いよねぇきっと…って、うちらも汗臭いけど。」
高山の右隣にいた松浦さんが笑いながら答えた。
他のやつらは先行ったけど、松浦さんはきっと高山の気持ちを察して待ってたんだな。
「…ふふっ、確かにね。仁王くんけっこう無頓着だったりするからなー。」
悲しそうな顔してたくせに、高山もすぐ笑顔になった。こいつの言葉で。
なんか、もしかしてこいつっていいやつ?
転校生だし仁王と高山のことどこまで知ってんのかわかんないけど、変に励ますんじゃなくて、笑いとばす。
そっちのが、こーゆうときは救われるかもな。
「そうそう、仁王ってさ、無頓着なせいかたまーにあり得ないミスするんだぜ。たまーに。」
「え、丸井くん、なんかおもしろい話知ってそう!」
「ああ、これ絶っ対言うなよ。あいつ一生の不覚だと思ってるから。」
「あ、もしかしてこないだの練習試合の?」
「なになに、聞きたい!」
松浦さんに珍しい仁王の失敗談を聞かせながら、ようやくカラオケに着いた。みんなは先に着いてたけど、何歌うか迷ってた。
そんな中すかさず赤也からリモコンを奪う。トップバッターはもちろん、俺だろい。
「丸井ってうまいよね〜!」
誉められるの大好き。俺って歌も天才的だろい?
さーて、次は何歌うかな。…よし、これにするか。
…♪〜♪♪〜♪〜
「あ、夏色!」
「誰誰?いいじゃーん。」
俺俺。俺は選曲も天才的なの。
とか思いつつ、マイクを握りしめ手を挙げた。
「「はいはーい!」」
俺と、向かいに座ってる松浦さんが同時に答えた。
あれ、俺だろ?と思いながら予約リストを見ると、夏色は二曲入ってた。
「すげ、選曲まで一緒なんスか?」
「ほんとだ。あたしいいよ、丸井くん歌いなよ。」
「え、いいよ、お前歌えよ。」
「そお?ありがとう!」
今度はかぶらないように入れなきゃな。なんか恥ずかしいし。
松浦さんが歌うのを聞きつつ、こいつも歌うまいなと思いつつ、俺は新たな選曲に取り掛かった。…よし、次はこれだ。
…♪〜♪♪〜♪〜
「お、キセキ。いいね。」
「誰ー?」
「「はいはーい!」」
また松浦さんとかぶった。二曲入ってた。マジかよ。
「またっスかー?かぶりすぎ。」
「ほんとだー。じゃあ今度は丸井くん!」
「お、おお。サンキュ。」
なんだこいつ。ドーナツだけじゃなくてカラオケの好みも似てんの?てゆうかなぜこいつは男の曲ばっか入れるんだ。…よし、じゃあ今度はぜってー選ばなそうなやつにしてやる。
結果論かもしんないけど、ちょっと期待してた気もする。
もしこれでまた一緒の曲入れてたりしたらって。
…♪〜♪♪〜♪〜
「おいおい、誰だよ!」
「あはは、ドラゴンボールだ!」
さすがにアニソンはねーだろい。男ならみんな見たことある、最強アニメだ。
いつか元気玉がうてるんじゃねーかと、こっそり信じてたりもする。
「「はいはーい!」」
…シーンと。カラオケのくせに静まり返った音がした気がするのは気のせいか?
あまりにびっくりしすぎて冒頭のスパーキン!言えなかった。
「…なんか、ブン太先輩が二人いるみたいで疲れるっス。」
「たしかに。」
「疲れるって失礼ね。でもかぶりすぎだねぇ。あ、丸井くんいーよ!」
松浦さんは立ち上がり向かいの俺にマイクを渡そうとした。順番的にそっちの番なんだけど。
なんかでもここまでくると逆にうれしいかも。
「せっかくだし一緒に歌うか?」
かなり気の合うやつ、うん。うれしいな。
「そお?じゃあ歌おう!」
無邪気に笑ったその顔は、雰囲気だけじゃなくてさっきから思ってた以上にタイプかも。
「よし、じゃあ最初から!それ消してもう一個のやつにしてくれ、ジャッカル!」
「俺かよ…。」
気合いすぎ、けっこう可愛い、
それがこいつの、第一印象。
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