02
火曜日。火曜日は月曜日よりは遠いけど、丸井くんの声を聞ける日だ。
4時間目、I組は音楽の授業で音楽室に移動する。その前の時間、つまり3時間目は、丸井くんのB組が音楽なんだ。
「早く音楽室に行こー!」
「はいはい」
私が丸井くんにこっそり恋心を寄せていることを知ってる美岬は、そんなふうに急かす私を笑いながら小走りについてきてくれた。
音楽室前に着くと、ちょうど授業が終わり、出てくるB組の人たちや中で片付けをしている人たちがいた。その教室内のわらわらいる男子たちの中に、丸井くんもいた。いつも出て行くのは少し遅めで、だから私が早く来ればここで会える。
「腹減ったー次ドイツ語だりー」
ペンケースを片付けながら、丸井くんの大きな声が教室内に響いた。丸井くんの使ってる席と、私の席は遠いけど、いつもこんなふうに何かしら声が聞こえてくる。
「ブン太はいつもこの時間になると、急に声がデカくなるのう」
今日は仁王くんの声も聞こえてきた。椅子に座りながらこっそりそっちを見ると、そんなことねーよ!とこれまた大きな丸井くんの声が響いた。怒られた仁王くんはケラケラ笑ってた。
楽しそうな彼を見られる。いい火曜日だ。
水曜日。水曜日はどこかですれ違うこともなかなかないけど、5時間目がとびきりいい日だ。
窓側の私の席から、B組の体育が見られるんだ。
雨が降らなくてよかったと思いながら校庭を見てると、丸井くんが元気にサッカーをしてた。
丸井くんはテニスだけじゃなくてその他のスポーツも万能だ。サッカー部顔負けに大活躍してる。今も手前側のゴールに見事なシュートを決めた。
そのとき、ふと、丸井くんが上を見た。その目線は、なんだか……。
「成海、外ばっか見てるな」
先生の声に我に返って、すみません!と言いつつ黒板に目を向けた。ずらずらと並ぶ数字を見つめつつ、おかしいそんなはずない気のせいだと思った。
今、上を見た丸井くんと目が合った気がしたんだ。
先生に怒られないように、こっそり目だけ校庭に向けると。
丸井くんがボールではなく、なぜか仁王くんを必死で蹴ってた。蹴られてるはずの仁王くんはまたケラケラ笑ってて、そんなことないはずだけど、こっちを指差してるような気もした。
二人の間で何があったんだろう。気になる水曜日だった。