60


金曜日。たまにいい日だった金曜日も、今日で最後。


「よう」


5時間目と6時間目の間の休み時間。I組にやってきたブン太くんは、ジャッカルくんではなく迷わず私の席へとやって来た。


「あ、教科書?」

「いや、教科書はちゃんと持ってきてるぜ」

「?」

「あのさ、今日なんだけど」


そこで周りの視線に気づいたのか、ブン太くんの話は中断された。
さすがにもうたくさんの人に、うちらが付き合っていることは知られている。でもそのほとんどは、噂だったり友達の友達から聞いたレベルのもの。

だからちょっと居心地悪くて、二人でこそこそと教室を出て行った。


「やっぱあんなジロジロ見られると気まずいよな」

「うん、ちょっとね」


そんなことを笑って話しながら向かった先は、あまり時間はないけど屋上。


「おー、めっちゃくちゃ晴れてる」


ブン太くんの言う通り、空はきれいな青が広がっていて雲一つない。春らしく少し風が強くて、お互い髪の毛がふわふわとなびく。


「もうすぐ卒業だよなー」

「ねー。卒業式もこれぐらい晴れてたらいいなぁ」

「なー」


屋上のフェンスに張り付き校庭を見渡すブン太くんは、心なしか寂しそうだ。私もその隣で、フェンスにもたれかかった。

中高一貫とはいえ、やっぱり中学生であることから卒業するのは、少し寂しくもある。私もブン太くんも、それぞれ身近な友達で工業高校のほうに進学する人もいて、まったく同じ環境が続くわけじゃない。


「高校生って、どんな感じなんだろうね?」

「んー…、とりあえず勉強が難しくなる。あと学食メニューがグレードアップする、らしい」

「部活ももっとハードになりそうだね」

「大会前は死ぬかと思ったけど、高校だともっと死にそうなんだろうな」

「でもきっと楽しいよ。周りもブン太くんもレベルアップするだろうし」

「だな。あと、俺は高校でめっちゃ背伸ばすぜ!」

「じゃあ私は、大人っぽくきれいになる!」


全然想像つかないけど。例えばもっとメイクとかしたり、髪の毛も雑誌に載っているような雰囲気にしたり、かな。
でも本当に想像つかない。むしろ高校生でも今のまんま過ごして、大学生になったら華やかなデビューを!みたいに目論むことになるんじゃないかとさえ思った。

そんなことを考えていると、ブン太くんが私の顔を覗き込んできた。


「真帆は今のままでいいだろい」

「うーん、でも、もうちょっと何か変わりたい」

「ヤダ。このままがいい。…けど」


言いかけながらぎゅっとブン太くんは私を抱き締めた。


「ちょっと大人になっても、いいかもな。一緒に」


その発言の意味は、考えるだけでドキドキしてくる。ブン太くんと私との間で、変わったこともあれば変わらないままのこともある。

胸のドキドキが堪らなくなって、よりぎゅーっとすると、苦しーとブン太くんの笑った吐息が耳元に降りかかってくすぐったい。これだけで幸せなのに、この先なんて、私はどうなっちゃうんだろう。


「…高校でもずっと一緒にいたいね」

「うん。いような」


唇を重ねたところで、ちょうどチャイムが鳴った。残念そうなブン太くんからのため息が聞こえたけど、でも次は、本当に中学生最後の授業が待ってる。


「そういえば、今日なんだけど…ってさっき言ってなかった?」

「ああ、そうだった。今日なんだけど」


せめて廊下に出る前まではと、手を繋いで屋上の入り口までゆっくりと歩き出した。


「…やっぱやめとくわ」

「え?なに?なんで?」

「いや、さっきみたいな話をしたあとだと…」


ブン太くんが言うには、今日夕方まで家には誰もいないから、よかったら一緒に形ばかりの勉強でもしないかって、そんな話だった。

…なるほど。確かにさっきみたいな話をしたあとだと、意識するなというほうが難しい。…でも。


「…私は行きたいな、ブン太くんち」

「マジで?来てくれんの?」


屋上を出て階段を下りながら、そろそろまずいかと手を離した。
でも、私の言葉にブン太くんはものすごーくうれしそうな表情を見せた。…紳士だけど、やっぱり男子なんだなーと思いつつ、頷いた。


「じゃあ今日はうちでおベンキョーするか!」

「な、なんか言い方が…」

「気のせいだ。つーかちゃんと勉強もしようぜ。もう成績は関係ないけど、最後に数学も理科も赤点とかカッコ悪いだろい」

「じゃあ私がいろいろ教えてあげるよ」

「そっちの言い方のほうがエロくね?」

「それはもうブン太くんがそうやって考えちゃうからだよ」

「…まぁその、あくまで今日は勉強第一だからな。目的が違うから。ちゃんと我慢する。できる限り」


そんな頼りない言葉に、あははと二人で笑ったあとお互いの教室へと向かった。ちょっとの間離れるだけなのに、別れ際は寂しくて、ほんの少しだけ手を触れ合った。
体はお互い別の方向へ動き出し、手だけ名残惜しく伸ばしたまま。


「またあとでな」

「うん!最後の英語頑張って!」

「おう、真帆も頑張れ!」


卒業を控えている中、いろんなことやものとの別れに少し心がきゅっとなるけど。

まだ見えない先を楽しみに、ブン太くんといつまでも手を繋いで歩いて行けたらなぁと思った。


End..?


最後までお付き合い頂きありがとうございました!
次のページはただのオマケ話です。
大人の階段を上りかける話です。
Top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -