04


金曜日。昨日のことがうれしくて一晩中頭から離れなかったけど、金曜日もたまにいい日。たまにというのは、確実ではないけど丸井くんがうちのクラスに来るかもしれない日だからだ。

今日は6時間目にB組では英語があって、丸井くんはジャッカルくんに教科書を借りにくることがある。
そして今日はまさにそうだった。丸井くんがうちのクラスにきたんだ。仁王くんも一緒に来ていた。


「ジャッカル、英語の教科書貸してくれんか」

「おい仁王ずりーぞ!俺がいつもジャッカルに借りてんだ!」

「ブン太は別のやつに借りんしゃい」

「何でお前ら二人して忘れてんだよ」


ジャッカルくんと席が近いこともあって、会話は丸聞こえ。今日は仁王くんも借りにきたらしく、二人でジャッカルくん置いてきぼりに教科書争奪戦を繰り広げてる。


「お前さんは借りるのにちょうどいいやつがおるじゃろ。ジャッカル以外に」

「いねーよそんなの!」

「じゃあ俺が借りてやろうか?話しかけてやるぜよ」

「いい!余計なことすんな!」


いつにも増して丸井くんの声が大きい。仁王くんに意地悪されてるからかもしれない。仁王くんは相変わらず楽しそうだ。

…これは、チャンスかもしれない。


「…あのっ!」


声がちょっと震えていたかもしれない。思い切って二人(プラスジャッカルくん)に声をかけた。
丸井くんもだけど、仁王くんともほとんど話したことはなかったからか、二人からは揃って無言かつ無表情で視線が注がれた。


「よ、よかったら、私の貸すよ!」


急いで机から教科書を出した。午前中に使ってそのまま入れといてよかった。

私の言葉に一瞬間ができたけど、仁王くんが小さな笑い声を漏らしたのが聞こえた。


「じゃ、俺はジャッカルのを借りるぜよ。ブン太はそちらをどーぞ」


そう言ってジャッカルくんの教科書を掴み、さっさと教室を出て行ってしまった。丸井くんが、あっ!と不満そうな声をあげたのを無視して。

…やばい、余計なことをしちゃったかな。丸井くんはあくまでジャッカルくんの教科書を使いたかったのかもしれない。まずかったか。
早くも後悔で気が重くなり、差し出した教科書を持つ手が徐々に下がってきたとき。

ガシッと、その教科書は掴まれた。丸井くんの手だ。


「サンキュー。借りるわ」


丸井くんはさっきとは全然違う、小さな声でそう言った。今度はジャッカルくんの笑い声が聞こえてきた。


「い、いえいえ」

「気使ってもらって悪い、…いつも」


丸井くんの言ったその台詞は、月曜日にジャッカルくんも言ってた。もしかしたら、丸井くんもそのときの私の話を聞いててくれてたのかもしれない。

そして私が手離すと、それを持って彼もすぐに去っていった。ふーっと深い息を吐きながら元通り椅子に座った。


「ねぇジャッカルくん」

「ん?」

「私、余計なことしちゃったかなぁ」

「いや。ちょうどよかったんじゃねぇかな」


ジャッカルくんは優しく笑って答えてくれた。
余計だったかもしれない、でもいいことをしたのかもしれない。不安の募る金曜日だった。
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