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秋も深まってきた今日この頃。私の通う立海では、体育祭の準備で大忙し。


「じゃあ順番はこんな感じで、最終決定しまーす」


放課後少し時間をとって、I組ではクラス対抗リレーの順番を決めていた。
一応、二学期が始まった頃からある程度決まってはいたけど、他のクラスの順番も調査したりして、できる限り有利な順番を…ということで、最終的に今日決めたんだ。


「あー、なんかけっこう楽しみだね!」

「うん。みんなやる気すごいもんね」


話し合いが終わり解散後、美岬と一緒に教室を出た。この後二人でブラブラ遊びに行く予定。

やっぱり最後の体育祭でもあるし、普段はのほほんとしてるI組のみんなもやる気十分ということで、美岬ももちろん私も、体育祭が楽しみになってきた。


「真帆は丸井君の応援も頑張らなきゃね〜。楽しみだ!」

「…え、そ、そうだね」

「いーっぱい応援しないとね!」

「うーん…まぁ、こっそり見守るよ」

「こっそりなんてダメでしょ!カノジョなんだからさ、堂々と、丸井君あたしを表彰台に連れてってーって叫んで」


そんなこと叫べるわけがない…!応援としても不適切な気もするし。

でも美岬の言ったことはあってると言えばあってる。運動神経抜群な丸井くんが、体育祭で活躍しないわけがない。めちゃくちゃ楽しみ。絶対カッコいいもん!

そして今ちょっと出た、表彰台がどうのって話。体育祭ではクラス毎の優勝も決めるけど、それとは別に、個人に対して優秀賞というものも与えられる。MVP的なものだ。一学年で5人。丸井くんが選ばれる可能性は、十分過ぎるほどにある。つまりとてもとても楽しみ。絶対カッコいいもん!


「なんかちょっと小腹空いたねー」


美岬とブラブラウインドウショッピングをしたところで、そう切り出された。…確かに私もちょっとお腹空いたかも。
じゃあ軽く何か食べようってなって、近くのファミレスにやって来た。


「いらっしゃいませー。空いてるお席へどうぞー」

「はーい。…あ、あたしトイレ行ってくるから、いつものとこよろしく!」


何度も来たことがあるお店で、けっこう広いもののうちらはよく入り口付近の窓際の席に座る。トイレへ向かう美岬を少し見送り、そのいつものところへと、周りは見ずに足を進めた。

そして席へと到着した瞬間。私の横に、人が近寄る気配を感じた。


「一人?」


その近寄ってきた人からの声。男性だ。もちろん私に、というのはわかった。…え、もしかしてナンパ?いやまさか……。


「…い、いえ、友達と来てます」

「友達…ああ、いつもの相棒か」

「そうですいつものあい……ぼう?」


変な人だったらやだなと思って顔も上げずに話していたら、何だか会話が妙に繋がる気がした。

そもそもかなり聞き覚えのある声だったんだ。


「…あれ、仁王くん!?」

「偶然じゃのう」


その、私に声をかけてきたのは紛れもなく仁王くんだった。ナンパだとか変な人だとかカン違いしちゃって恥ずかしい…!

まぁでも、これはこれである意味変な人ではあるかもしれな……、


「また失礼なこと考えとるじゃろ」

「か、考えてない考えてない…!」


仁王くんは本当に鋭いというか何というか。誤魔化したものの、スルーしようとしたくせにとか、結局はグチグチ言われてしまった。ごめんなさい。


「そ、そういえば、仁王くんこそ一人?」


見た感じ仁王くんは一人で。今いる席の周りにはほとんどお客さんはいない。もっと奥のほうに座ってて、私を見かけたからこっちに来てくれたのかもしれないけど。


「いや、クラスのやつらと」

「クラス…?」

「ああ、俺はちょうど今来たばっかじゃけど。ブン太も来とるはず」


そう言って仁王くんは、私がさっき想像した通りの方向、お店の奥のほうを見渡した。うちらと同じように仁王くんのクラス、つまりB組も“いつもの席”があるのかもしれない。

そしてB組なんだから、さっき仁王くんが言ったように丸井くんも……?


「たぶんあそこじゃな、あっこの集団」

「あー…そういえば赤い髪がチラチラ見えるね」

「お前さんも一緒に行くか?」

「え!…いや、それは」

「気まずい?」


気まずい、そうはっきり言っていいものか微妙だけど、思わず頷いてしまった。いや、私は丸井くんと付き合ってるわけで、偶然彼氏も同じ店にいたんなら会いに行くだろう、普通は。

でも、誰がいるのか詳しくはわからないけど、全体的にB組には友達と言える人はいない。今まで同じクラスだった人はいるけど、わざわざ挨拶に行くほどの仲でもない。

そんな集団。おまけにパッと見て女子もいる。きっとみんなでワイワイ盛り上がってる中で、仁王くんも合流してこれからさらに盛り上がるかもしれないってときに。“どうも〜丸井くんの彼女です〜”なんて感じで入っていくなんて。気まずい、という言葉が正しく当てはまる気がした。


「なら、あいつをこっちに呼ぶか」

「…え」

「呼んできてやるぜよ。ちょっと待ってて」


なになになに?仁王くんが優しいよ?なんで?怖い怖い怖い……。でもたまに仁王くんは優しかったりするか。私も何度かお世話に、その節は…。

私はそのときちょっと、ホッとした。随分勝手な気持ちだった。会いたいくせに自分からは会いに行けない。かと言ってこのまま知らん顔もしたくない。
だから、丸井くんがこっちに来てくれることが私にとってベストだって。そんな勝手なことを思ったんだ。


「お待たせー。あ、さっきトイレのついでにドリンクバー頼んどいたから!真帆オレンジジュースでいいよね?」

「あ、うん、ありがとう」

「はーい、どうぞ」


ちょうど二人分のジュースを持った美岬が席に着いたとき、丸井くんの赤い髪の毛がこっちに近づいてきたのが見えた。
仁王くんとのやりとりを話す暇もなかったから、美岬は、あれ丸井君じゃん!?って、さっきの私みたいに驚いている。


「よー、偶然だな」

「う、うん!ほんとに、偶然…」

「またまたー、二人で示し合わせたんじゃないの〜?」


ケラケラ笑いながら美岬が言うと、ちげーよ・違うよ!という私と丸井くんの声が重なった。ちょっと恥ずかしくて、でもちょっとうれしくもあって、顔を見合わせて笑った。


「二人で来てんのか?」

「うん、駅でブラブラしてて、お腹空いたねってなって…」

「そっか。俺はB組の…」


そう丸井くんが言いかけたところで、美岬が一歩二歩と、後退りを始めた。正確には、うちらから離れていこうとした。


「どうしたの?」

「ふふふ。お邪魔かなって思って!」

「…え?」

「お二人でごゆっくり〜!」


その言葉を置き去りに、美岬は止める間もなく素早くお店から出て行ってしまった。

……え!?いや、お邪魔かなって、丸井くんはこっちに顔を見せに来てくれただけであって、ほんとはあっちにクラスの人たちがいるわけで…!


「…行っちまったな」

「う、うん…」


どうしよう…!このまま丸井くんを引き止めるわけにはいかないし、私も帰るべき?でもドリンクバー頼んだばかりだし、ていうか美岬のドリンクバー代は私持ち!?

ちらっと丸井くんを見ると、丸井くんも、うーんって感じで…ようするにちょっと困ってる。やっぱりここは私も帰るべきだ。
だって今日はクラスの友達と来てるわけだから。私こそお邪魔。こうやって丸井くんは来てくれた、それで私のワガママは終わらせるべき。


「とりあえず座るか」


私も帰るねと言おうとすると、丸井くんが席に座った。そしてメニューを取って向かい側、私が座る席に向けて広げた。


「腹減ってんだろい?なんか頼めば?」

「あの、でも…」

「あー、俺なら大丈夫だから。ほら、座った座った」


そう笑いながら促されたものだから、私も静かに席に収まった。少し心苦しいけど、うれしくて。甘えてしまった。
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