03
木曜日。木曜日は丸井くんとお昼休みに食堂で会える日。いつも4時間目が終わった直後に丸井くんは食堂でパンやらジュースやら買うけど、あまりに早過ぎて教室から向かっても私は間に合わない。
でも今日はうちのクラスは4時間目が体育。教室よりも近いから、唯一間に合う日なんだ。
「何にするか決めたー?」
「うーん…」
3台ある自販機前にて、別の自販機で美岬はもうジュースを買ってた。私も早く選んで、丸井くんを探したいんだけど……。
「うぃっス!丸井先輩!」
その名前に反応し、後ろを振り向くと丸井くんがすぐそこにいた。テニス部の後輩である切原くんもいて、仲の良い二人は立ち話を始めた。
…やばい、もしかして丸井くん、私の後ろに並んでた?どれにしようか悠長に悩んでる場合じゃなかった、待たせてしまった…!
慌てて適当にお茶を買い、すぐに美岬のもとへ行こうと丸井くんの横を通り過ぎた。そのとき。
「ちょっと、そこの」
……私?まさかそんなはずないと思いつつも、体は反射的に振り返った。
「お釣り忘れてる」
そう言って丸井くんは、自販機のところから小銭を出し私に差し出した。
「…あ、ごめん!」
「いーえ」
丸井くんの右手が、ほんの少し私の手に触れた。
やったじゃん!と美岬に冷やかされながら、私は顔も熱くてドキドキが止まらなかった。
そんな木曜日は、それだけで終わらなかった。
放課後、木曜日は女子部が休みだから、帰りに少しだけ男子部の様子を見に行くんだ。
でも今日は丸井くんはおろか、男子部誰一人いなかった。
なんでだろう、校外練習かな、残念だなーと、フェンスにおでこをつけながら肩を落としていると。
「仁王のこと探してんの?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、息を弾ませた丸井くんだった。その少し離れた後ろのほうには、ジャッカルくんたち他のレギュラー陣や、その他のテニス部員がたくさんいた。
「…え!?」
「今日外周する日だったから。あっちにいるぜ」
そう言って丸井くんは、テニス部の集団を親指で指した。確かに仁王くんもいる、けど。
「ち、違う違う!ちょっと、通りがかっただけで…!」
「違うの?」
「違う違う!…って、なんで仁王くん?」
「よくうちのクラスの体育見てるだろい。仁王見てんのかなって」
昨日、丸井くんがこっちを見たような気がしたのは気のせいじゃなかったようだ。おまけにいつも見てることがバレてたなんて。
「えっと、うち、その時間数学だから、退屈で…」
「…そっか。変なこと言って悪い」
「いやいや、全然大丈夫!気にしないで!」
そう言うと丸井くんは視線を下に落とし、控えめに笑った。その顔にさらにドキドキしてたら、あっという間に丸井くんは他のレギュラー陣たちのもとへ去っていってしまった。
丸井くんに二回も話しかけられた。おまけに顔も覚えてもらってた。今までで一番いい木曜日だった。