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丸井くんと雑談を続けること数十分。乗り終えたらしい美岬と切原くんが戻ってきた。当たり前だけど特に連絡もなく戻ってきて、いきなり視界に二人が入ってきたものだから、私も丸井くんも、バッと勢いよく手を離した。…見られちゃったかな。
「あらー?お邪魔だった?」
「スンマセンね、なんか邪魔して!」
やっぱり見られてた…!ニヤニヤと笑う二人にそう言われ、たぶん私の顔は赤くなってると思う。
「別に邪魔じゃねーよ。それよか飯食いに行こうぜ」
「「はーい」」
立ち上がる瞬間、不意に丸井くんが私を見て、かすかに笑った。楽しかったなーとか、見られて恥ずかしいなーとか、そんな風に言ってくれたような気がする。
さっき話していた間も、こうやってみんな合流してからも、ドキドキがなかなか収まらない。すごくうれしくて胸いっぱい、足元からふわふわする。
こんな今の私じゃ、手を繋ぐだけで限界だなぁなんて思った。ましてやその先とか、全然予想もつかない。
「じゃあ、そろそろ定番のアレと行きますか!」
最初こそ二人ずつに分かれていたけど、そのあとは4人一緒にいろんなアトラクションを回った。二人ずつ乗るタイプのものは、私は美岬とだったり丸井くんとだったりのペアだったけど、前後に残りのペアもいたし、4人ずっと一緒だったような感じ。…だけど。
意気揚々というか、若干ニヤけた顔で美岬は次のアトラクションを指差した。それは、観覧車。
私はほんとに小さい頃に乗って以来、ご無沙汰のものだ。そのご無沙汰にもわけがあり……。
「え?何言ってんの?真帆は丸井君とだよ」
「俺らが邪魔しちゃ悪いっスから!」
真っ先に乗ろうとした美岬に“じゃあ次は私が”と続こうとすると、止められた。そして切原くんにもそう言われ、二人を乗せた観覧車はそのままガチャンと扉を閉められた。
「なんかこう気を遣われると…なんかな」
うれしいような恥ずかしいようなあの二人に悪いような、そんな雰囲気とニュアンスで丸井くんが言った。
そして一つ空のゴンドラを挟み、私と丸井くんも観覧車内へ。
「中あったかくてよかったぜ。外どんどん寒くなってきてるよな」
「……」
「ん?どうした?」
「…いや!特に何も…」
今朝と同じように、向かいに座った丸井くんからは少し心配そうな顔を向けられた。優しいし素敵だけど、ただ、何もないというのは嘘だ。
一つ、やっぱりこんな空間に二人は緊張するということ。さっきも二人だったけど、それは決して二人きりというわけではなかったから。周りにたくさんの人がいたし。
そしてもう一つ。私はちょっと、観覧車が苦手だ。閉所ではなく高所という意味で。今日乗ったジェットコースターも高いけど、あれはあっという間だし、そもそもの主旨が違う。観覧車のように景色を楽しむものじゃない。
チラッと外を見たけど……ダメだ、ゆっくりだけどぐんぐん上がってる。ただでさえ丸井くんと二人きりで緊張するのに、嫌な汗も出てくる。せめて4人みんないれば、“二人きり”という半分の緊張感は回避できたのに…!
「…もしかして、高いとこ苦手?」
きちっと座ったまま私が微動だにしないものだから、そう丸井くんが気づくのも遅くはなかった。
「に、苦手というか…、こう人とか建物が小さく見えると足が…」
「いやそれ苦手ってことだろい」
「ご、ごめん…!」
「や、俺はいいけど…まいったな。まだ10分はあるぜ。大丈夫か?」
「大丈夫!…大丈夫」
いいって言ってくれた丸井くんはすっごく優しいけど。絶対困ってるに違いない。
やっぱり苦手って言って、私一人地上で待ってればよかった。小さい頃に乗って、そのとき大泣きして、でももう成長したし、なんてひそかに思ったんだけど…。
「よし、じゃあ成海、ちょっと落ち着いてな」
「え?」
「俺は今から立ち上がるけど、なるべくゆっくりにするし、極力揺らさねーから」
「え?え?」
「怖かったら目瞑ってろ」
どういうことかわからず、丸井くんは揺らさないと言ったけど、やっぱり目の前の人が立ち上がるのはちょっと怖くて、言われたままにぎゅっと目を閉じた。
目を閉じたら閉じたで怖い。ギイッという音とともに、私の体も少し揺れた。
でも怖かったのはそこまで。すぐに左隣に気配を感じた。人の体温と…丸井くんの声。
「あ、そのままでいいぜ」
びっくりして、というより期待に近いかもしれない。目を開けて隣を見ると、丸井くんがいた。今朝ベンチに座っていたときよりもっと近い距離。
「同じとこ座ってたら余計怖い?」
「う、ううん…!」
「たぶん落ちたりしねーし、大丈夫だから」
たぶん!?…ちょっと気になったけど、丸井くんは笑いながら、膝に置いたままだった私の手を優しく握った。
“俺がそばにいるよ”って、言ってくれてるみたい。
ほんとに優しいなぁ丸井くん。さっきとはまた違う、いい感じのドキドキ感が胸に高まってきて、もしかしたらこうやって握っている私の手には、汗が滲んでしまってるかも。恥ずかしいし申し訳ないし。
でも、幸せだなぁ。月並みだけど、心からそう思った。