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迎えた初デートの日。その直前にようやく美岬から、残りの男子は誰なのかを聞かせてもらえた。
聞いて、なるほど!と思った。もしかしたらジャッカルくんより、はたまた柳くんやもちろん仁王くんなんかよりは、ずっとずっと適任かもしれない。
…ただし。
「おっせーなぁ、あいつ」
「さっき寝坊したってメールきたけど…ほんと遅刻するよね、あの子」
丸井くんはやや怒ってて、誘った本人である美岬も若干イラついている模様。
たしかに性格的には適任だと思う。他にいないって思えちゃうぐらい。ただ、その彼には遅刻癖があって…。どうしよう、早くも空気悪くない?
「遅れてすんませんっした〜!」
しばらくして、ヒーヒー言いながら到着した。
それは、切原くん。
きっとこれから丸井くんが文句言ったり、美岬がグチグチ責める感じになっちゃうんじゃないかって、心配で。これからデートだし、おまけに今日の発端は私のワガママとも言えるもの。変な空気は避けたい…!
「ううん、いいの!無事に着いてよかった!」
「へ?」
第一声を私が取ったことで、丸井くんも美岬も一瞬ぽかんとした。言われた切原くんも、きっと怒られると思ってたんだろう、珍しいモノを見る目を私に向けた。…ちょっと大げさだったかな。
すると、まずは切原くんが笑い出した。直後に美岬からため息も。
「成海先輩はほんと優しいっスね!」
「ちょっと甘いんだよね、真帆は。お昼ご飯おごりでもいいぐらいなのに」
「えぇ!?ちょっとそれは厳しいっスよ!」
「冗談だよ。さ、早く行こう!」
「う、うぃっス!」
不満げに、でも美岬もきっと無事に切原くんが到着して、ほっとしたに違いない。遅刻癖があっても、問題児でも、生意気でも、切原くんは年下。かわいい後輩って言葉が似合う。先輩の私たちが意地悪しちゃいけない。
「…丸井くん?」
美岬とそれに引きつられ切原くんは歩き出していた。でも丸井くんはまだ動かなかった。ほんの少しだけ、機嫌が悪そうな顔…もしかして切原くんに本気で怒ってるのかな。私が割って入っちゃって悪かったかな…!
「…や、何でもない」
「…?」
「行こうぜ」
そう言って丸井くんは、笑いながら私の頭をぽんっとした。丸井くんの笑った顔だけでも最高なのに、頭ぽんとか、さっきまでのドキドキとは別のドキドキが…。
でも今日は落ち着いて、楽しくデート、かつ、二人の距離を縮めることが目標。
そしてまもなくして着いたのは、遊園地。定番だけど、ベタだけど、楽しくなること間違いなし。…ベタといえば。
“ベタつき感が欲しい”
美岬の言葉を思い出した。あとあと考えたら、これは別に油身とかそういうものではなく。
私と丸井くんの距離感の話だ。ベタベタ、文字通りくっつく感じ。
前には美岬と切原くんが並んで歩き、一歩下がって私と丸井くん。そして私と丸井くんとの間は、人一人分の空間がある。ようはこれを無くせって話で……。
「…でさ、そのときジャッカルが…」
丸井くんが私にいろいろと話をしてくれてる。内容はこないだジャッカルくんと部活帰りに遊んだ話。丸井くんの話はいつだっておもしろいし、いつだって私を笑わせてくれる。
けど、今私は、一つのことに集中していた。
「…成海?」
「え!?」
「どうした?フラフラすんの?目眩?」
ちょっと丸井くんに寄ろうと、寄り添おうと。一歩近づいては勝手に恥ずかしくなって一歩離れて、それを何度か繰り返していると、丸井くんが立ち止まり心配そうに声をかけてきた。…たしかに、ただフラフラしているだけに見えたかもしれない。
「う、ううん!違うの!丸井くんに…」
「?」
「な、何でもない!」
丸井くんに近づきたくて、あわよくば手を繋ぎたい…なんてそんなことは言えそうもない。そもそも前に美岬たちがいるわけで、私は何てことを考えてたんだって、思い直した。
そして私の態度できっと変なやつだと思われちゃったし、おまけに丸井くんの話を中断させてしまった。申し訳ない…!
「ねぇねぇ、あれに並ぼうよ!」
立ち止まったせいか、少し距離が空いてしまった前を行く二人。美岬が大きな声でこっちに呼びかけた。
「悪い、先行っててくれ!」
美岬も切原くんも、不思議そうに少し止まったけど。でも二人して同じようにニヤーっと笑い、ごゆっくり〜なんていう余計な言葉を残して足を進めた。
そしてさっきの二人同様に、私もどういうこと?と不思議で。…というか、丸井くんといつの間にか二人…!
「ちょっとあっち座るか」
そうか、きっと私の体調が悪いと心配してくれてるんだ。丸井くんは、ベンチに座ろうと言った。
体調が悪いわけではないし…まぁあえていうなら、頭の中とか心拍数とかがおかしくなってるかもしれないけど。緊張するし、騙しているようで、少し気が引けるけど。頷いて、ついて行った。