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私と丸井くんは両思い。その素晴らしい出来事から数日経ったけど、相変わらず頭はふわふわ、胸いっぱい度は下がらない。

夜ちょこっとメールしたり、電話したり、今まで知らなかった丸井くんの個人情報まで踏み込むこともできてて、これが彼女の特権なんだなーなんて思った。


「真帆。また彼のこと考えてたんでしょー?」


休憩時間に教室で一人ぼーっとしていると、美岬がニヤつきながら声をかけてきた。ものすごく小声で。

というのも、私はもちろん美岬には一番に話したけど、他の人には言ってないんだ。別に秘密な!って言われたわけではないけど、言いふらすのも変かなって。


「べ、別にそういうわけじゃ…!」

「ふふふ…でさ、それから進展はないの?」

「進展?」

「やだな、いろいろあるでしょ?付き合ってるならさ!」


付き合ってるなら…いろいろ……いろいろ!?


「な、ないよ!!」

「しーっ!声でかい!」

「あ、ごめん…!…いやでも、何もないよ」

「へぇ?丸井君って案外紳士?」

「案外っていうか、丸井くんはすごく紳士だよ。優しいよ」

「…あー、じゃなくて、意気地なしなわけだ」


意気地なし!?なんでいきなり丸井くんの悪口を…!意気地なしなんかじゃない、すごく勇気のあるいかに素敵な少年であるか、私からこんこんと美岬に伝えさせてもらった。…聞く耳半分って感じだったけど。


「ま、まぁまぁ、丸井君がどうとかは置いといてさ。ちょっと君たち、爽やか過ぎるんだよ」

「うんうん、たしかに丸井くん、すっごく爽やかだよ」

「そうじゃなくてさ、もうちょっとベタつき感が欲しいわけよ」

「ベタつきなんて全然ないよ。肌もきれいだし髪の毛もふわふわだし」

「…ダメだ、丸井バカになってる」


私の丸井くんへのメロメロぶりに、美岬は若干呆れているみたい。ほんとに爽やかなのに。

でも、美岬の言いたいことは何となくわかった。私たちは両思い、というところでストップしてて、それ以降は特に今までと変わり映えがない。

夜メールしたり電話したり、たしかに今まで知らなかったことも知ることができて、より一層身近には感じているけど。でも、言ってしまえばそれだけ。

たとえば登下校を一緒にするとか、休日にデートするとか、そういう付き合ってる人なら当たり前のことは、まだできてない。


「どうすればいいんだろう?」

「そりゃあ第一段階はデートでしょデート」

「デートかぁ……え、私が誘うってこと?」


コクリと頷いたものの美岬は、私の表情で“ムリムリムリ!”と言ってるのがわかったようで。はぁーっとため息を吐いた。

ふと時計を見ると、もうすぐ次の授業が始まる時間。次は数学。そして丸井くんのクラスは体育。もう窓側から離れちゃったし彼を見ることはできない。相変わらず音楽室や食堂では会えるけど、これは大きな痛手だった。


「頑張って誘いなよ」

「誘って…でも二人きりで遊びに行くとか緊張する…!」

「大丈夫、丸井君ならリードしてくれるって!」

「ええー……」


そりゃ丸井くんは優しいし、普段の電話でも会話が途切れることはない。でも二人でどこか行くことは、まだちょっとハードルが高いような気もする。

ただ私としては、この状況を打開したい気持ちが強まっている。両思いだけど進展がない。それはほんとにその通りだと思うから。


「あ、じゃあ美岬も一緒に来てよ!」

「いやいや、あたしがいたら変な感じになるでしょ!もし遊園地にデートとかになったら3人で観覧車だよ?ムリムリムリ!」


たしかに3人で、というのは変な図だ。美岬はそこまで丸井くんと親しくないし。うーん、どうしたもんか、そう思っていると。


「…そっか、じゃあもう一人誘う?」

「え?」

「真帆と丸井君、あたしともう一人男子っていう…ダブルデート的な?」


なるほど、それは名案だと思った。いきなり二人きりという高いハードルは下げつつも、機会があれば二人きりにもなれる。…うん、それがいいかもしれない。

と、いうことは。丸井くんだし、もう一人の男子といえば、すぐに思い浮かぶのがジャッカルくんだ。丸井くんとテニス部内では一番仲良しだし、うちらも同じクラスだし。…でもな、ジャッカルくんはわりと私に似てて盛り上げ下手だって、あの花火大会で思ったし。大丈夫かな。

あとはー…そうそう、仁王くんという案を出されたら却下しなくちゃ。丸井くんと同じクラスだけど私が嫌だわ。
もしくはー……柳くん?そういえばあのハロウィンのとき、美岬は柳くんがどうとか言ってた。…うーんでも、丸井くんと柳くんって遊びに行くほど仲良しなのかな。もちろん友達ではあるだろうけど、珍しい組み合わせ、という言葉が似合う気がする。


「よし、そうと決まれば真帆、丸井君のこと誘っておいてね!」

「う、うん。何とか頑張るよ。…でももう一人の男子は?」

「それはあたしに当てがあるから大丈夫!もちろん、テニス部の人でね」


当てって誰のことだろう?誰でもいいけど、仁王くんだけはやめてと言うと、その辺は任せて、と調子の良い返事が返ってきた。そこでちょうど数学の先生がやってきて、この話題は終了。

そしてその日の夜、電話で、丸井くんに思い切って提案してみた。


『へぇー、おもしろそうじゃん。いつ?』

「えっと、まだ日程は決まってないんだけど…丸井くんダメな日はある?」

『ちょっと待って。部活の予定表確認する』

「あ、わざわざごめんね…!」

『いや。高等部の日だと休めねーんだよな』


男子テニス部は一年中練習漬けだ。3年は対外的には引退したけど、今までと同じように練習してる。私も引退こそしたものの、一応部活は出てるけど、丸井くんたち男子の部活参加とは意味が違う。

丸井くんたち男子は中等部の練習だけでなく、高等部での練習メニューもがっつり加わったんだ。つまり今は、高校でレギュラーを勝ち取るための、ひいてはインターハイのための、準備期間でもある。邪魔なんてとんでもない…!

部活予定表(柳くん作らしい)を確認した丸井くんは、今のところ練習がオフの日をピックアップしてくれた。


『…えーっと、とりあえずその辺りだな、空いてそうなのは』

「ありがとう!その中から選ぶね!」

『おーシクヨロ。決まったら教えて』


やっぱり丸井くんはかなり過密なスケジュールで。終日空いてる日はほとんどなかった。これはうちらが合わせないとだし、万が一あとから練習が入っちゃっても仕方のないことだ。


『ところでさ、もう一人男連れてくんだよな?』

「あ、うん、美岬に当てがあるって。テニス部らしいけどまだ誰なのかは…」

『仁王だったら却下しようぜ』

「大丈夫、それは私も真っ先に伝えたよ!」


やっぱり丸井くんも私と同じく、仁王くんなんかがこの輪に入ったらしっちゃかめっちゃかデートどころじゃなくなりそうだと思ったみたい。

同じ考えだったことがおかしくて、うれしくて、少しの間、二人で笑った。

いい雰囲気であることは間違いないはず。だからこそ、ここで一歩踏み出すことが必要なはず。
来たるデートの日を思い、早くも緊張感溢れる私だった。
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