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不安ながらも迎えたハロウィンパーティー当日。前日の夜、美岬と一緒にお菓子の用意もして、準備万端。

ただ、準備万端なのはもちろんうちらだけじゃない。来る途中見かけた女子たちがこぞって紙袋を持参してるし。あれって絶対お菓子だよね…。


「おはよう、成海さん」


駅から学校までの道を一人で歩いていると、なんと幸村くんに声をかけられた。なんと、というのも変だけど、私は幸村くんと話したことがなかったから、ちょっとびっくりした。


「今日は一人?」

「う、うん。いつも美岬…友達と一緒なんだけど、今日はちょっと早めに行くって」

「へぇ。気合い入ってるね」


気合い…なの?たまたま早く起きたからって、メールには書いてあったけど。

そして幸村くんの視線は、明らかに私の手…つまり、提げている紙袋に向かっていた。


「その荷物、君も今日参戦するんだね」

「…あ、うん。みんな参加するみたいだし、楽しそうだから私もお菓子作ったの」

「そうなんだ。それは主催者としてうれしいよ」

「主催者!?」


意外だった。ジャッカルくんが口を濁したこのハロウィンパーティーの主催者が幸村くんだったなんて。…お菓子だし、もしかして丸井くんかも?なんて思ってたんだけど。


「フフッ、案外ね、こういう遊びでテニスの腕も磨かれるんじゃないかなって」

「テニス?」

「そう。必要なのはかけ引き。試合でものすごく重要なんだ。真田みたいに真っ向勝負バカもいるけど」


幸村くんとは話したことがなかったけど、柔和な笑顔でありながらややSっ気がある、そこが素敵!なんていう話を聞いたことがある。真田くんをこんな風に言いのけるなんて、すごいなぁと思った。

そして幸村くんもとい主催者の語る、このパーティーの意図も、さすがだなぁと思った。


「ただお菓子をあげ合うお祭りじゃない。たとえばお菓子をあげたい人がいたら、どうやって自分のところに来てくれるか考えたり」

「うんうん」

「お菓子をもらいたい人がいたら、どうしたらもらえるか、とか」

「え!それは真っ先にもらいに行けば…」

「真っ先にっていつ?すぐに部活も始まるし、どの部活もお昼休憩に入る時間は決まってるわけじゃない。それぞれ持ってるお菓子の量にも限りがあるし」

「あ、そっか…」

「お友達はそれを見越してるんじゃないかな?」


お友達は見越してる……?まさか美岬のやつ、早めに行って、お目当ての人…E組の彼か仁王くんかわからないけど、お先にTrick or Treatしてる!?

私が下心渦巻くかけ引き戦術を理解できたとわかったのか、幸村くんがクスッと笑った。…雰囲気は柔らかいんだけどな。ちょっと緊張するな。


「あとはまぁ、ライバルのお菓子を先に頂くって手もある」

「先に?」

「渡せないように自分が先んじてもらうってこと」


なるほど。話すのはちょっと緊張するけど、やっぱり幸村くんってすごいんだ。遊びだけど、いつでもテニスのことを考えてるわけか。テニス部のことしか考えてないとも言えるけど…。

ただ、幸村くんのこの話を是非、参考にできたらなぁと密かに思った。


「というわけで、Trick or Treat」

「?」

「君のお菓子ちょうだい?」


にっこり微笑みながら、幸村くんは手を差し出した。……え?


「実は俺、お菓子用意してきてないんだよね」

「…はい?」

「いかに他の人からもらったお菓子でやり繰りするか、最終的に残ったお菓子の数を、蓮二や仁王と勝負してるんだ」

「しょ、勝負!?」

「君の場合、蓮二や仁王にもらわれてしまう可能性があるし、先にもらっておこうと思ってね」

「……」

「バレンタインやホワイトデーじゃこんなことはできない。日本でハロウィンが浸透してよかったよ」


だからさっさとお菓子出せと、変わらない幸村くんの柔和な笑顔の裏に、そんな雰囲気の言葉を感じ取って。私は慌ててお菓子を差し出した。

私の用意したお菓子は10個。たった今予定外のマイナス1で、残り9個。


「じゃあ、先に行くね」

「……」

「あ、お菓子くれたお礼に教えてあげるよ」


ブン太はお菓子用意してるはずだよと、明るい高らかな声で彼は言った。そしてそそくさと去って行った。

ハロウィンって怖い…!幸村くんと歩いたのはほんの10分足らずだけど、それだけの中にたくさんの恐ろしさを知った。親友の抜けがけ、幸村くんの恐怖、本日の要注意人物柳くんと仁王くん。…あと、私の気持ちが男子部にバレてるかもしれないということも。

ハロウィン怖い。でもそんなことも言ってられない。これからきっと戦いが始まる…!
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