40
「あ、あのね、丸井くん」
ポケットから、握りしめたあのブレスレットを出した。
「もしよかったら、つけてほしいなって…」
恥ずかしい、緊張する。こんなこと言うのも、実際にされてしまっても。
昨日は拒絶するようなことを言ってしまったけど。もう今さら遅いって感じでもあるけど。
そうじゃないって、私なりに何とか伝えられないかなぁと思って。
「…ああ」
丸井くんはブレスレットを受け取り、私の左手首に回した。
よかった。断られても仕方ない、当然だとさえ思ってたけど。もう緊張がどうの言ってる場合じゃない。幸い、今は二人きりだし。…ただ。
カチャン、カチャン。なかなかアジャスター部分がはまらない。
小さいし難しいのかな?そう思っていると、丸井くんが静かに話し始めた。
「昨日さ、嫌って言ったじゃん」
そんなつもりはなくても、私自身もそう捉えられる言葉を言ってしまったと思ったし。仁王くんにも、丸井くんが気にしてるって言われた。
でも丸井くん自身は気にしてないって、思った、思いたかった。単なる私の妄想だと。
でも、そう思い込むほうが私の勝手な気持ちだった。ほんとに気にさせちゃってた。
「ごめん!そういう意味でじゃ、なかったんだけど…」
「いや。…ちょっとショックだったけど。でも拒否されて、ちょっとほっとした」
「え?」
「だってよ、こんなのみんなの前でとか……あー!できねー!」
痺れを切らしたように丸井くんは一つ叫ぶと、いまだはまらなかったブレスレットを私の手から離した。
そうか。丸井くんはお菓子作りはスペシャリストだけど、もしかしたらこういった細かい作業は苦手なのかも…!
「ごめん、無理なお願いして!」
「そうじゃなくて」
じっと私の手を見つめて、少し言いづらそうに口を開いた。
「勝手に手触んないように、とかさ。うっかり触って嫌がられたらって…いろいろ考えちまって。緊張すんだよ」
そう言って丸井くんは、ブレスレットをぎゅっと握りしめた。
嫌がるわけないのに。手に触られても、私はきっとただ緊張するだけで。
「ぜ、全然嫌じゃないよ」
「……」
「丸井くんなら…」
むしろきっと、うれしい気持ちが出てくる。さすがにそうは言えなかったけど。ほんの少し、伝わったような気がする。
だから丸井くんは、そっと私の手を取って、再びブレスレットを巻いた。
丸井くんの指先が私の手にかすかに触れながら、今度はすんなりはまった。
「ありがとう。ほんとにうれしい」
丸井くんの手作り。丸井くんにとってもらった。そして今つけてもらった。
キラキラしたそのブレスレットと今日のことは、一生の宝物になる。
「もっとよく見せて」
自分の手首を眺めていると、丸井くんは私に右手を差し出した。それがどういうことかすぐ気づいて、心臓が破けそうになるほど速くなる。
でも勇気を出して、その手にそっと、左手を重ねた。
もっと見せてと言ったのに、丸井くんはブレスレットは一切見ずに、外に目を向けた。同時に、重なった手はぎゅっと握られた。
そのまま二人揃って、グラウンドを見渡した。
「文化祭も終わりだな」
「う、うん。…あ、回れなくてごめんね!」
「それはもういいって。もっといい思い出できたし」
そう言って手に力を込めて、私に笑顔を向けてくれた。射し込んだ夕日が、その笑顔と赤い髪に溶け込む。
あったかい、私より大きな手。私のほうこそ、最高の思い出ができた。