38


お昼ご飯休憩に入ったと同時。私は一目散に学校を出た。…ほんとは担任の外出許可が必要なんだけど。

なんで忘れちゃったんだろう…!大事な大事なものだったのに。今日丸井くんとデー…一緒に回るかもしれないのに。ただ、それよりも昨日のことが自分の中で引っかかってたものだから、すっかり抜けていたんだ。

家に着き、すぐにブレスレットを確保。時計を見るとまだ13時前。大丈夫、約束の14時には間に合う。

そしてすぐさま学校に舞い戻り、上履きに履き替えて安堵…しかけたとき。


「成海、どこへ行ってたんだ」


後ろから声がして、嫌な予感とともに振り返ると、うちのクラスの担任がいた。ダンボールを重ねて抱えている。


「…あ、すみません、ちょっと急用といいますか」

「急用?成海がいなくて他のやつが休憩に入り損ねていたんだぞ」

「すみませんすみません…!」

「罰として、これ」


平謝りする私に、先生は持っていたダンボールを差し出した。


「この中身を倉庫にしまってくるように」

「え!?」

「文化祭のあと後夜祭もあるからな。混まないうちに片付けてこい」


とりあえず受け取り中身を見ると、今回文化祭で使用した備品類が入っていた。

確かに、文化祭のあとスムーズに後夜祭に移れるように、2日目は少しずつ片付けはしていくんだけど…。
何もたった今そんなことにならなくても!

でもお怒りモードの先生に歯向かうなんてできない。チラッと自分の時計を見ると、14時5分前。もう丸井くんが来ちゃうかも。

全部自分の責任だ。ブレスレットを忘れたのも、無断で外出して迷惑かけたのも、午後から空いてるって言ったのも。


「…行ってきます」

「よろしく」


こうなったらできる限り早く終わらせるしかない。
そこそこダンボールは重かったし、ただでさえ走るのは苦手。でもやるしかないんだ。

倉庫につくと、うちのクラスと同じ考えなのか、思ったより多くの人が早めの片付けをしていた。
その中には仁王くんもいた。…いや、柳生くんかな。


「お疲れ様」

「ん?…ああ、成海か」


声をかけると、その仁王くんである柳生くんは、ものすごく疲れたような顔をしてた。発した言葉もため息混じり。
…うーん、この柳生くんも仁王くんにそっくりだし、声も雰囲気もまんまだし、イリュージョンってすごいんだな。


「入れ替わってるの、まだバレてないの?」

「いや、バレた」

「そうなの!?…ってことは」

「俺は仁王じゃき。本物」


あ、これは本物なんだ。どうりでどこから見ても仁王くん…あれ、でもさっきも、どこからどう見ても柳生くんだったな。…なんかこんがらがってきた。


「真田にいろいろとバレてのう。1時間ぐらい鬼ごっこしとった」

「そ、そうなんだ。お疲れ様…」

「で、このあとずっと片付けしろと。これ終わったらまた戻ってこいと」


すごく遠い目の仁王くんは、心なしかげっそりしてる。かわいそうに。…自分が悪いとも言えるけど。


「そういやお前さんはそろそろか?」

「え?」

「楽しい時間の始まり?」


げっそりはしつつも、途端にうれしそうな顔の仁王くん。彼が活き活きとするのは、きっとテニスのときと、こんな風に人の弱みにつけ込むときなんだろう。


「…いや、私も片付けをしないと」

「ふーん。じゃあこれ終わったらってことじゃな。あー楽しみ楽しみ」


肯定したわけじゃないのに、仁王くんはすべて知ってるとでも言いたげに、笑ってそう言った。
…まぁでもそんな仁王くんは置いといて。正直構ってる暇はない。

急いで片付けようと手を進めるものの、人も多いし、どこに戻したらいいのか、組み立てた部品の分解やら、けっこうな時間が経ってしまった。


「なぁ」


すっかり頭になかったけど、まだ仁王くんがいたらしい。終わったんならまた真田くんのところに戻ったほうがいいだろうに。


「なに?」

「それ、俺があとやっとこうか?」


仁王くんは私の手元を指差した。
…あれ、やっぱりこれは柳生くん?仁王くんがそんなこと言う?それともやっぱり頭打っ…。


「真田に説教されて頭おかしくなったんじゃとか思っとるじゃろ」

「…思ってない思ってない!」

「お前さんずっと時間気にしとるから」


さっきから、急がなきゃと思えば思うほど、手を止めては時間を確認していた。

もう14時半過ぎ。丸井くんは帰っちゃったかもしれない。


「ありがとう、大丈夫だよ。私の仕事だし私がする」

「……」


仕事、というよりかは罰なんだけど。仁王くんと同類なんだけど。
でも仁王くんに甘えるのはこないだが最初で最後だと思ったし。私は今日きっといろんな人に迷惑かけちゃった。それに輪をかけるなんてできない。

そのまま仁王くんはふらりと消えて(ちゃんと真田くんのところに戻ってたらいいんだけど…)、私もラストスパートに取りかかった。

そうして全部終わったのは、もう15時を回っていた。
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