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さて、どれにしようと景品を眺めた。たとえクマの彫り物でも宝物にはなるだろうけど、やっぱりなるべくクマの彫り物は避けたいし。扱いに困るし…。
そこで一つ、私の目に、キラキラした小物が入った。
「あ、これにしようかな」
手に取ったそれは、何種類かのビーズで作られたブレスレット。美岬も、それかわいいね!と同調してくれた。
見た感じ手作りっぽくて、女子の誰かが持ってきたのかな?そう思った。
「…マジでそれ?」
そのブレスレットを眺めていると、丸井くんが口を開いた。
「え?…えっと、かわいいから、これがいいなって…」
「……」
丸井くんはなんだか微妙そうな、複雑そうな表情。…なんだろう、これはダメだった?なんで?
その疑問は、次に切原くんがニヤけながら発した言葉と、堪えきれずといった感じで笑い出した仁王くんのリアクションで、あっさり解決した。
「それ、丸井先輩が持ってきたやつっスよ!」
丸井くんが?…持ってきたやつ?
「しかも手作りでしたっけ?」
「うるせーな、手作りって言うんじゃねーよ!」
「でも先輩が作ったやつっしょ?」
からかう切原くんに対して一喝すると、丸井くんは気まずそうに頭を掻きながら、経緯を話してくれた。
「…うちのばーちゃんが、そういう趣味あって。こないだ俺も、弟と一緒に作らされて」
「……」
「俺はいらねぇし。ちょうどいいと思って、持ってきたんだけど」
欲しかったのは、丸井くんの写真。でも丸井くんが私の代わりにゲームを達成してくれて、それならもうどれでもよかった。どれでも私の宝物になると思った。
そして純粋に選んだ結果、丸井くんの手作り(って言ったら怒られちゃうのかな)ブレスレットだったとは。
「…ご、ごめん!知らなくて!」
「あーいや、別に」
丸井くんは、私なんかにもらってほしくないかもしれない。適当に持ってきたようなものだと、そんなニュアンスのことは言ってたけど、私なんかにあげるための物じゃないって。でも。
「…これ、もらっていいかな?」
恐る恐る聞くと、丸井くんはすごくびっくりしたような顔をした。嫌がって、ではなくて、勘違いでなければ、ほんの少し安心したような顔にも見える。
「そんなんでいいのか?」
「うん。これがいい」
「そっか。じゃあ大事にしてくれ」
「もちろん!」
いらない物、そんな風に言ってたけど。きっと丸井くんも、自分で作ったものが大事にされると、うれしいと思う。
今見せてくれた笑顔にそう思って、大事にしようと心から思った。
「じゃ、せっかくじゃしさっそくブン太につけてもらったらどうじゃ?」
何がせっかくなんだか、ニヤけて状況を見張ってた仁王くんがそう言い出した。とても満足そうな顔だ。…仁王くんは、私が写真を選ぶかを見てると思ってたけど、もしかしたらこっちを期待してたのかも。だとしたら恐ろしい。
「おー、いいっスね!丸井先輩の手作りだし!」
「手作り言うなっての!」
「ふふふ、つけてもらっちゃいなよ真帆。丸井くんの手作り!」
「だから手作りって言うな!」
丸井くんにつけてもらうとか…すごくおいしい…!
でも緊張するし、絶対顔も赤くなるだろうし、みんなにも見られてるし…。
「ほら成海先輩、そのブレスレット丸井先輩に渡して…」
「い、いや!いい!」
恥ずかしいし、丸井くんにそんなことやってもらうなんて心臓も何もかももたないと思って。すごく慌ててしまった。
慌てたせいか、その私が思わず返した言葉は、語気が強くなって、明らかな拒絶になったような気がした。切原くんへの返事だけど、切原くんに対してではなく、丸井くんに対しての拒絶。
“嫌だ、そんなことされるの”って。
言った瞬間、自分でもしまったと思った。ほんの一瞬この場が静まり返ったような気さえして。
「成海をいじるとおもろいのう」
すぐに仁王くんがそう言って、確かにーと切原くんたちも続いて、さっきのは気のせいかもしれないって、思った。思いたかった。
そして丸井くんのほうを見ると、丸井くんも私を見て笑った。
「マジでこいつらうるせーよな」
笑いながら、彼らにあきれたような丸井くんの声。私も思わず頷く。同時に少し、ほっとした。
よかった。今のこと、丸井くんは全然気にしてない。私の考えすぎなだけ。
でもなぜか、丸井くんのその笑顔は、ただ見ただけでは爽やかな笑顔そのものなのに。いつもの笑顔なのに。
私の頭の中では、思い返す度だんだんと歪んで、悲しい顔になっていく。
それは気のせい。私の妄想。そうに違いないんだけど。
でもそれからずっと、胸がチクチク痛かった。