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私はレギュラーではないけど、下手ってほどでもない。でもそう自負していたのは、勘違いだったのかも。
「はっずれー!次ミスったら終了っスよ!」
うひゃひゃひゃと笑いながら切原くんはうれしそうにそう言った。その顔はものすごーく憎たらしく感じる…!
そう、最初こそ順調に3つほど当てたものの、連続して失敗してもう後がなくなってしまった。
…ああ、やっぱり小狡く丸井くんの写真をもらおうなんてうまくいかないよね。きっとこの写真の存在を知ったら、たくさんの女子が狙いにくるだろう。
ジャッカルくんや美岬は、まだまだ頑張れって励ましてくれたけど。でも私自身はもうダメだと、ほとんどあきらめモードで構えに入った。そしてトスをした、そのとき。
「お、成海がやっとるんか」
その声にドキッとして、空振り。
…今のはミスじゃないよね、セーフだよね!ドキドキしながらチラッと切原くんたちを見るも、彼らは私ではなく、私の後方に目を向けていた。
「先輩たち!来たんスか!」
「休憩もらったんじゃ。そしたらブン太がここに来たいって」
「んなこと言ってねーよ!」
遅れて私も振り返ると。仁王くん、そして丸井くんがそこにいた。
私がさっきドキッとしたのは、もちろん仁王くんの登場で、かつ嫌な意味で、だ。たとえこのゲームが成功したとしても、仁王くんがいるならあのお宝写真は頂けない。バレたらアウトだ。
でも、それプラス丸井くんもいる。それはうれしいような、でもやっぱりなんだかまずいような、複雑な気持ち。…欲に負けてゲームやり出すんじゃなかった。
「で、経過はどうなんじゃ」
「それがっスねー、成海先輩クソ下手で、あと1球ミスったら終わりっス!」
「へぇ、そりゃ厳しいのう」
切原くんが憎たらしいのは引き続き、今は仁王くんもどこかいやらしい顔で、嫌な予感からの冷や汗が出てきた。
「にしても、成海がやっとるとは意外じゃな」
「そういえばそうだねー。真帆ってゲーセンとかも行かないし」
「実際下手クソっスからね〜!」
「よっほど、何か欲しいもんがあるんかのう」
その予感は間違いじゃない。是非とも言いたいことがある風な仁王くんは、この中…いや、立海の中で一番厄介な人物だ。
ここはきっぱり、否定すべき。
「べ、別に、欲しいものがあるってわけじゃ…!」
「なぁ、代打ってオッケー?」
焦りながらも否定の言葉は出せたけど。それに重なるように、丸井くんが口を開いた。一応、判定員的な立ち位置にいた切原くんに対して。
「代打?成海先輩の続きってことっスか?」
「ああ」
「んー俺は別にいいっスけどね。ここの責任者って誰だっけ?」
私だ。忘れないでよ切原くん。でも忘れてたのは彼だけで、他のみんなはわかってたみたい。揃って私に目が向けられた。もちろん言い出した本人、丸井くんからも。
考える間もなく、私は口を開く。
「…いいんじゃない、かな」
「よし。んじゃ見てろ」
手を差し出されて、その手にそっとラケットとボールを渡した。
いいか悪いか、ズルいんじゃないか、成功してもあの写真を目の前でなんかもらえない、意味ないんじゃないか、それらを今考える余裕はなかった。
ただ、丸井くんのカッコいい姿を間近で見られることと、たった今の優しさに。胸がキュンときた。
そして私の期待通り、切原くんたちからすればきっと予想通り、ミス一つなく残りすべてのパネルを開けた。
「やっぱ余裕っスよね〜。成海先輩が下手すぎ」
「よかったじゃん、真帆!」
「さすがブン太だな。でもまぁ成海の金だし、欲しい景品もらっちまえよ」
元からいた3人は、わいわいと騒いでる。仁王くんは無言ながらも、少しだけニヤけてて、私がどれを選ぶか見てるんだろう。
でももう私は、正直どれでもよくなってた。
「丸井くん」
「ん?」
「ありがとう!」
深々とお辞儀をしてお礼を言うと、一瞬間を空けて、丸井くんはハハッと笑った。
「いーえ。天才的だろい?」
「うん!」
「好きなもん選んでいいぜ」
ニカっと爽やかに笑う顔、これを見られただけでも十分だし。
何より、この景品の中の何を選んでも、丸井くんにもらったようなもの。そう思うと、もしクマの彫り物であったとしても、すごくうれしい。
開始早々、最高の文化祭になる、そんな予感がした。