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なんでなんでなんで、こんなときに限って見もせず捨てちゃったんだろう!今までそんなことしたこともなかったし、おまけに前に丸井くんに貸したとき、お礼の手紙が挟まってたじゃん。今回も、優しい丸井くんのことだから何かあるかもしれないって、なんで思いつかなかったの…!
まもなく教室について、ゴミ箱を抱え込むように覗くと。
「…なーい!」
ゴミ箱はすっかりカラになってた。それはそうだ。もう放課後だし、教室掃除の人が捨てに行ったんだろう。
続いて向かった先は、東門のゴミ置き場。今日出たゴミは、まだその中にある。
膨大な量のゴミ袋たちを前に、このどこかにあるはず、そう信じて、無礼ながらもゴミ袋を漁り始めた。もしかしたら私みたいにこっそり機密書類を捨ててる人もいるかもしれない。だから、非常に申し訳ないんだけど……。
「成海?」
後ろからの声にびっくりして、たぶんものすごい勢いで振り返った。
いたのは仁王くん……プラス、なぜか仁王くんに抱えられた猫。ニャーと、その猫は鳴いた。
「え、仁王くん…何その猫?」
「ノラ猫じゃき。この辺にいつもおって」
「あ、そうなんだ」
だからって、学校内で猫を抱いて現れるなんてびっくりだ。おまけにその猫は、すごく仁王くんに懐いてるようだった。猫ってあまり抱かれるの好きじゃないはずなのになぁ。
「お前さんこそこんなところでどーした。ミーティングは?」
「え」
ほんの数分前まで仁王くんたちとミーティングしてたのに、そのあと柳くんと引き続きすり合わせがあるのも知ってるのに、ほんとなんでこんなところにって感じだよね。
おまけに、こんなところにどころか、ゴミ袋開いて持ってるっていうね。
「…えーと、その……ゴミの分別?」
「分別?なんでお前さんが」
「ま、まぁ、ちょっと気になってというか…私風紀委員だし!」
「へぇ、そんなことまでやるんか。大変じゃな」
ミーティング中にミーティングほったらかしてゴミの分別しにくるわけないでしょ、なんて頭の中でツッコミつつ。何となく仁王くんは信じてくれてるっぽくて、ほっとした。
「これ全部?」
「…まぁ、一応」
仁王くんは下に猫を放すと、ゴミ置き場の中まで入ってきた。その仁王くんの声色は、うわーって感じのため息混じり。そりゃそうだ、全学年全クラスのゴミ袋があるわけで。
別に全部分別…じゃなくて、漁るつもりはない。新しいゴミは手前にあるだろうし、あの答案用紙さえ見つかれば…。
そう思っていると、仁王くんは、両手首につけているリストバンドを外してポッケにしまった。そしてひょいっと、ゴミ袋を一つ持ち上げた。
「…何してるの?」
「何って、手伝おうと思って」
「ええ!?いいよいいよ!」
「一人じゃ大変じゃろ」
「いやでも…!」
「暇じゃしちょうどいいぜよ。でもまさか風紀委員がここまでやっとるとはのう。委員会入ったことなかったし、知らんかった」
さっそくペットボトル発見ーと、仁王くんは少しだけ楽しそうにそのゴミを分けた。
いや、私だって分別のために漁ってたわけじゃないし、柳くんも待たせてるし…。
何より仁王くんを騙してること。仁王くんは善意で手伝うと言ってくれたこと。それに耐え切れなかった。
「…ごめん仁王くん。違うの」
はっきり言わなきゃいけないことなのに、嘘を嘘だと伝えることは、すごく、勇気がいる。
「分別じゃないの。…間違って、捨てちゃったものがあって。嘘ついちゃったの」
「……」
「だから…」
「だから?」
仁王くんがすることはないんだと、そう続けようとしたものの。仁王くんは嘘だと聞いても、手を止めようとしなかった。
「…えっと、分別は、しなくてよくて」
「分別はしなきゃダメじゃろ」
「それはそうなんだけど…!」
「捨てたのってA4ぐらいの紙か?」
「え?そうだけど…」
「畳んである?」
「いや、ぐしゃぐしゃーっと丸めて」
「了解」
なんでわかったんだろう。私が漁ってたのが可燃物だから?まぁ間違って捨てるってぐらいだから、紙類が妥当な線なのかな。でもA4って、ずいぶん具体的な…。
もういいよって、何度言っても仁王くんはやめなかった。私もただ突っ立ってるだけじゃ、あまりにも最低だから。
最初で最後だと。仁王くんに甘えるのは。そう決心して、同じように分別もとい答案用紙探しを再開した。