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放課後、甘味処チームとゲームチームに分かれて、さっそくミーティングが始まった。
空き教室を使ってて、甘味処は隣の教室だけど。今日はもう話せることはないかな。…第一恥ずかしいか。
「えっと、ゲームの仕組みはこんな感じでいいんだよね?」
一応ゲームチームの責任者は私なので、黒板に柳くんに聞いた通りの絵を描き、まだ詳細を知らない女子への説明兼、男子への確認をした。
「そうそう、そんな感じじゃき」
「そんで、景品とか決めるんス!」
ゲームの発案者は仁王くんだったそうで、そこにゲーム好きな切原くんが乗っかり、男子内では二分されたらしい。その他にもジャッカルくんや同じ風紀委員でもある真田くんなど。女子は美岬やあっちゃん、みーちゃんと、私にとっては身近な人ばかりだ。肝心の丸井くんはいないけど。
「じゃあ景品はどうしようか?予算内だと限られちゃうけど…」
「あ、それも問題ないっス!こないだ何個か案が出たんスよね」
「ああ。各々景品になり得そうなものを持ち寄る、ということになっている」
真田くんはそう切り出し、黒板にさらさらと、現時点でピックアップされている景品名を書き連ねた。…ちょー達筆。
「えーと、ゲームソフトにお菓子にサッカーボール、ダーツセット……ク、クマの彫り物…」
クマの彫り物で思わず笑っちゃったら、隣の真田くんに睨まれた。名のある彫り師による一品物なんだって。ごめんなさい。
「…すごくいいラインナップだね!」
「フッ、そうだろう。特にクマの彫り物は、景品には惜しいほど価値が高いのだ」
「そ、そっか。楽しみだなー…」
「他にもまだ各自、持ち寄れそうな物はないか検討中だ」
「じゃあ女子も何か持ち寄ろうか?」
「うむ、そうしてもらえると助かる。甘味処チームからの協力も仰ぐ算段だ」
甘味処チームも。ということは、丸井くんも何か用意してくれるかもしれない。むしろ私が欲しいな、それ。
そうだ。もし丸井くんが何か景品を出してくれれば、私もゲームに参加しよう。そうしよう。
「…あれ?これは?」
真田くんが書いたラインナップの最後に。“マル秘特典”というものがあった。
「それは仁王の案だ」
「マル秘って?」
「あー、それについてはまだ秘密じゃき。部長の許可はもらっとるから心配しなさんな」
「…だそうだ。俺にも内容はわからんが、幸村が許可を出したぐらいだ。非道徳的なものではないだろう」
確かに、部長である幸村くんが許可を出したんなら、そんな変なやばいものではなさそうかな。うーん、でも、仁王くんのニヤついた顔が気になる。
その後、当番の時間帯や、準備の役割について細かく決めた。内容はすべてノートにまとめて、このあと柳くんとすり合わせる予定。
ミーティングが終わり、ぞろぞろとみんなが廊下に出ると、どうやら隣の甘味処チームもちょうど終わったところのようだった。
私も最後に部屋を出ると。
最高のタイミング。丸井くん(その前にジャッカルくん)が、教室を出てきた。
丸井くんは膨らませたガムを割って、軽く笑ってくれた。
「お疲れ。終わった?」
「お疲れ様!ちょうど終わったところだよ」
「そっか。中に柳いるぜ」
「ありがとう!」
そう言って、閉めかけた扉を開けてくれた。
あー、やっぱり優しいなぁ。もうテストの結果知られちゃったとかどうでもいいよね。丸井くんは全然気にしてないっぽいし。もう私も忘れることにしよう。あー優しい…。
「なぁ」
柳くんのいるそこに入ろうとすると、丸井くんに呼び止められた。一緒にいたジャッカルくんは先へ行った。
「見た?」
「え?」
「そのー…、テストの、裏の」
テストの、裏の…?
何のことだかわからず、というかやっぱり話題はあのテストに向かってしまうのか、なんて思ったら。
丸井くんは、とんでもないことを言い出した。
「テストの裏にさ、手紙…書いたんだ」
「……」
「や、勝手に書いて悪かったけど。ここならあとで絶対見るだろうなって、思って。落とすこともねぇだろうし」
「……」
「あ、まだ見てない?」
テストの裏に、丸井くんが私宛てに手紙を書いてくれたと。前に小さなメモ書きのようなお礼の手紙はもらったけど。なるほど、テストなら、確かに落とすこともないし、教科書に挟んでたら絶対見るもんね。取り出すし。
私、テスト、どうしたっけ?
「…ごめん、まだ見てない!」
「あーそっか。なんか変なタイミングで話しちまってゴメン」
「いやいや…あ、あとで確認するね!」
「おう、シクヨロ」
そう笑って言い残すと、丸井くんはジャッカルくんを追いかけるように走り去った。
それを少しだけ見送ってから、重い足取りで柳くんのいる教室内に入る。
「そっちも話し合いは終わったか?」
「う、うん」
「では、決定事項をすり合わせるか。まずはこちらの甘味処だが…」
柳くんの隣の席に座ろうと、椅子を引いて、私はそこで止まった。
「ごめん、柳くん」
「ん?」
「20分…15分でいいから、席外してもいいかな?その…、教室に落とし物したかもしれなくて!」
「?…ああ、構わないが」
「ありがとう!」
わけを話す間も聞かれる間もなく、私は走って出て行った。向かう先はまず、教室。
もつれそうになる足をなんとか前に進めながら、自分の頭を叩きたい気分だった。