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「忘れ物ってこれだろい?」
心臓が息を忘れて止まりそう。振り返ると、私を引き止めたのは丸井くんだった。しかも私のタオルを持ってる。
「…っう、うん、そう!」
「落ちてたぜ」
「ありがとう!」
丸井くんが届けてくれた。私のタオルを持っててくれた。もうこのラッキータオル、洗えない!
でもなんで私のだってわかったのかな。名前が書いてあるから?私の名前、知ってくれてるの?…っていうか、それよりもこのタオル、汗臭かったかもしれない…!
ぎゅっとタオルと氷を握りしめながら、丸井くんの顔を窺うと。丸井くんはじっと、私の顔を見ていた。
「ボール当たったって聞いたんだけど、大丈夫?」
「…え?あ、大丈夫!全然もう元気!」
「そっか。…じゃ、お大事に」
そう言って丸井くんはくるっと背を向けて、走り出そうとした。
このまま無言で見送ったらきっと、気分の落ち込みが半端じゃない。頑張ろうよ私。
「ま、丸井くん!」
すぐに止まり振り返った、その顔は、少し驚いてた。
一旦話は終わったのに呼び止めて、え?って思ってるのかもしれない。まだなんか用あんのって、思ってるのかもしれない。
でも頑張れ私。
「優勝、おめでとう!」
思い切ったせいで、その声はけっこう響いてしまったかもしれない。
丸井くんは、一瞬だけ間を置いて。
勝者に相応しい、晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた。
「サンキュー!そっちも3位おめでとう」
「い、いや、私じゃなくて、男子が頑張ったから…」
「ソフト頑張ってたじゃん」
頑張った、でもあれは、丸井くんのアドバイスのおかげだ。I組のみんなや、丸井くんがいてくれたからこそだ。
ありがとうって言おうか、今。
…でも、もしも丸井くんじゃなかったら?丸井くんだとしても、そんなおかげとか、礼とか、重いって思われたら?
「楽しかった?球技大会」
あの件について、言おうかどうしようか迷っていると、丸井くんからそんな質問が飛んできた。
それはもう、全力でイエスに決まってる。
「うん、楽しかった!」
「そっか、よかったな」
「…ま、丸井くんは?」
「ああ、俺もー…」
早く教室に戻りなさいと、近くにいた先生に言われた。いつの間にか、生徒はみんな体育館からいなくなってたんだ。
「…けど、やっぱちょっと残念。いいとこ見せらんなかったし」
「え?」
「いや、何でもね」
早いとこ教室戻ろうぜと言い、丸井くんは走り出した。私もそのあとを追う。
残念だったと、さっき言ってた。私の見てない間に、何か落ち込むようなことがあったのかもしれない。
ただ、そのあと、別れ際にこっちを向いて手を振ってくれた丸井くんの笑顔は、この日一番だった気がする。
中学最後の球技大会。ほんとにいろいろあった。クラスで一つになったこと、そのクラスがより好きになったこと、ちょっとだけ自分が活躍できたこと、ちょっとだけ進歩したかもしれないこと。
丸井くんと接する機会が十分すぎるほどあったこと。もっともっと、彼のことが好きになったこと。
ずっとずっと心に残るだろう、球技大会になった。