11
「成海」
打席に立つ直前、ジャッカルくんに呼び止められた。
「落ち着いてボールを最後までよく見ろ。テニスのサーブに比べりゃスピードはねぇし、コントロールいいからほとんどがど真ん中だ」
「う、うん」
「あとは……えーっと、いつも通りに…だったか?」
「え?」
「テニスんときのアレみたいに、ストレートに返すつもりで思いっきりぶちかましてみろい!…だってよ」
私は3年間テニスを練習してきたけど、どうしても改善できなかった悪い癖がある。
デュースでアドバンテージを取ったとき。相手が深いところから打ってきたクロス、それが自陣の右端に来たとき。このままリターンをストレートで返せばゲームを取れるってとき。なぜか力んで、いつもホームランしてしまう。
ホームラン?
「アドバイスありがとう、ジャッカルくん」
「いや、俺からじゃねぇよ。今のは伝言だ」
「…伝言?誰から?」
「敵からの塩ってことらしいぜ」
ニヤリと笑ったジャッカルくんは、すぐにベンチに戻った。私もすぐ、バッターボックスに入る。
敵からの塩。いつも通りに。テニスのときのアレ。ホームラン。
“ぶちかましてみろい!”
私が今思いついたこと。それが当たってるのかどうか、自信は全然ない。
彼が私のいつも通りのテニスを知ってるはずがないし、わざわざジャッカルくん伝いにアドバイスをくれるはずもない。
でも、B組の応援すごい、ピッチャーすごい、好きな人が見てる、自分が最後かもしれないというプレッシャー。
それらが気持ちいいぐらいに、程よく私を力ませた。
「打った!」
「きゃー真帆ー!」
「すごいすごい!」
「美岬回れ回れ!」
私の打球はきれいな弧を描き遠くに飛んだ。テニスのときよりもボールに重みがあるせいか、ちょうどよく右中間前にぽとりと落ちた。
美岬がこれまた執念を見せて3塁を回りホームイン。私の安打かもしれないけど、3年I組みんなでもぎ取った1点だ。
それプラス、影で私を支えてくれた人がいる。
1塁に立った私はまず、I組ベンチに高々とガッツポーズ。そのあとようやく丸井くんのほうも見ることができた。遠すぎるし、敵チームだし、私に向けてなのかどうか自信はないけど。
丸井くんは控えめにピースを掲げながら、ほんの少しだけ笑った。その顔は、“やったじゃん”って、言ってくれてるような気がする。
だから私もこっそりピースを返した。今度は太陽よりも眩しいくらい、丸井くんの笑顔が弾けた。
「惜しかったねー」
「でも楽しかったね」
「次は男子バレーの応援行こう!」
結局、1点返せただけで、うちのチームは負けてしまったけど。今日でうちのクラスがもっと好きになったのと。
彼のことをもっともっと好きになった。そんな球技大会だった。