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「成海」


打席に立つ直前、ジャッカルくんに呼び止められた。


「落ち着いてボールを最後までよく見ろ。テニスのサーブに比べりゃスピードはねぇし、コントロールいいからほとんどがど真ん中だ」

「う、うん」

「あとは……えーっと、いつも通りに…だったか?」

「え?」

「テニスんときのアレみたいに、ストレートに返すつもりで思いっきりぶちかましてみろい!…だってよ」


私は3年間テニスを練習してきたけど、どうしても改善できなかった悪い癖がある。

デュースでアドバンテージを取ったとき。相手が深いところから打ってきたクロス、それが自陣の右端に来たとき。このままリターンをストレートで返せばゲームを取れるってとき。なぜか力んで、いつもホームランしてしまう。

ホームラン?


「アドバイスありがとう、ジャッカルくん」

「いや、俺からじゃねぇよ。今のは伝言だ」

「…伝言?誰から?」

「敵からの塩ってことらしいぜ」


ニヤリと笑ったジャッカルくんは、すぐにベンチに戻った。私もすぐ、バッターボックスに入る。

敵からの塩。いつも通りに。テニスのときのアレ。ホームラン。

“ぶちかましてみろい!”

私が今思いついたこと。それが当たってるのかどうか、自信は全然ない。
彼が私のいつも通りのテニスを知ってるはずがないし、わざわざジャッカルくん伝いにアドバイスをくれるはずもない。

でも、B組の応援すごい、ピッチャーすごい、好きな人が見てる、自分が最後かもしれないというプレッシャー。
それらが気持ちいいぐらいに、程よく私を力ませた。


「打った!」

「きゃー真帆ー!」

「すごいすごい!」

「美岬回れ回れ!」


私の打球はきれいな弧を描き遠くに飛んだ。テニスのときよりもボールに重みがあるせいか、ちょうどよく右中間前にぽとりと落ちた。

美岬がこれまた執念を見せて3塁を回りホームイン。私の安打かもしれないけど、3年I組みんなでもぎ取った1点だ。
それプラス、影で私を支えてくれた人がいる。

1塁に立った私はまず、I組ベンチに高々とガッツポーズ。そのあとようやく丸井くんのほうも見ることができた。遠すぎるし、敵チームだし、私に向けてなのかどうか自信はないけど。

丸井くんは控えめにピースを掲げながら、ほんの少しだけ笑った。その顔は、“やったじゃん”って、言ってくれてるような気がする。
だから私もこっそりピースを返した。今度は太陽よりも眩しいくらい、丸井くんの笑顔が弾けた。


「惜しかったねー」

「でも楽しかったね」

「次は男子バレーの応援行こう!」


結局、1点返せただけで、うちのチームは負けてしまったけど。今日でうちのクラスがもっと好きになったのと。

彼のことをもっともっと好きになった。そんな球技大会だった。
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