08


向かった先は、校舎入り口前に構える大会本部。


「すみません、3年I組の成海ですけど、コールドスプレーってありますか?」

「コールドスプレーね。ケガ人?」

「ちょっと足を捻ったようなんで」

「はい、使い終わったら返却してね。酷く痛むようなら救護室に」

「ありがとうございます」


急いで戻ると、試合に特に動きはなかった。ただ、ジャッカルくんの動きだけは少し鈍ってる。

試合を止めるわけにはいかない。ジャッカルくんも何も言わないし、交代せずにそのまま出続けたいんだろう。
だからせめてこれを。ジャッカルくんからボールが遠くなったそのときに。

でもどうやって渡したら。試合の邪魔にならないだろうか?
それにたとえ渡せても、余計なお世話だったら……。


「ちょっとそれ貸してみろい」


コールドスプレーをぎゅっと握りしめながら、どうしようと迷っていると、横から声がした。明るくてよく通る声は、今は少し小さめ。

丸井くんが私のすぐ横に来てた。


「…っは、はい!」


きゃー話しかけられちゃった!とか、なんで私の横にいるの!?とか、もしかして丸井くんもケガなの…!?とか、いろいろ考えている間に、I組メンバーが相手ゴールに攻め込んだ。ジャッカルくんはやっぱり少し足が痛そうで、低い位置に一人待機してる。


「ジャッカル!」


ぽーんと、丸井くんからジャッカルくんに向かってコールドスプレーが投げられた。

丸井くんの声に気づき、ジャッカルくんは難なくそれをキャッチ。
やっぱりペアを組んでるだけあって、何を言わなくともわかるんだ。すぐにジャッカルくんは足を冷やした。


「悪いな、助かった!」


ただ短時間冷やしただけだし、まだ痛いとは思う。でもジャッカルくんはうれしそうに笑いながら、同じように軽々とスプレーを丸井くんに投げ返した。


「俺じゃねーよ、こっち」


そう言って丸井くんは、キャッチしたスプレーを私に差し出した。
受け取ると、何も言わずに元いたゴール裏のほうへと走って行った。

ジャッカルくんが足を痛めたことに、相棒である丸井くんが気づくのは当たり前かもしれない。交代したくないこともわかってたのかもしれない。

ただ、迷ってた私に、手を差し伸べてくれた。丸井くんに話しかけられたことや、自分の行動が正解だったということ以上に、それがうれしかった。
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