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「では1つは甘味処で、もう1つも決めよう」
「え?」
「テニス部は二手に分かれて2つの模擬店を出すんだぞ」
知らなかった…!資料をよく見たら確かに書いてあった。
気が利くって、美岬やみんなは言ってくれたけど。こういう肝心なところが抜けてたら、リーダーとしてダメダメじゃん…!
「ということは、特に案はないということだな」
「ごめん!食べ物屋さんってだけしか…」
「問題ない。むしろ好都合だ」
怒られるかと思ったけど。むしろそれでいいと柳くんはフォローしてくれた。
なんでも、男子部内で譲られなかった意見が2つあったらしい。1つが甘味処。もう1つが、ゲームのお店だ。
「女子部に意見がないならばゲームの店も採用でいいか?」
「うん、それでお願い!」
「決まりだな」
よかったー。これからまた女子部みんな集めてミーティングとか、また時間かかっちゃう。柳くんには言えないけど、昼休みにやったミーティングも適当に食べ物の名前を挙げて2、3分で終わって、そのあと全部恋話ばっかりだったからな。
「ところで、ゲームのお店ってどんな感じなの?ゲーム機とか持ち込むの?」
「いや。提案者が言うには、巨大ビンゴのようなパネルに向かってスマッシュを打ち込む、といったゲームのようだ。なかなかに難解で…」
「ああ、野球とかサッカーのやつテレビでやってるよね」
「知ってるのか?」
「うん」
頷くと、柳くんは珍しく目を開けてなんだか少しキラキラした眼差しを私に向けた。…え、まさか柳くん。
「よし、ゲームの店の責任者はお前だ。俺は甘味処の指揮を執る」
「柳くん、ストラックアウト知らないの?」
「知ってますけど?」
これは知らないな。柳くん動揺して言葉使いがらしくなくなってる。
たぶん丸井くんは甘味処派だ。きっと提案したのも丸井くんだし、提案者じゃなくても絶対甘味処を選ぶはず。
ゲームかぁ…私あんまり興味ないんだけどな。丸井くんもいないし。でも…。
「うん、わかった。私がゲームのお店ね」
「決まりだな」
柳くんが心底ホッとした顔をしてるし嫌とは言えない。何でも知ってる柳くんは、知らないことがあるのはけっこうなダメージなのかも。
私も決めたからにはしっかりと頑張らないと。丸井くんも頑張るだろうし、私も頑張る。
「…しまった。失念していた」
「え?」
「やはりお前は甘味処のほうがいいかもしれない」
「なんで?」
「いや、いろいろとあるだろう」
いろいろ?よくわからないけど。とりあえず今日の柳くんは変だ。これまで親しくはなかったけど、なんか変だ。
でも、柳くんこそ甘味処のほうがいいってことに変わりはないはず。
「ゲームで大丈夫だよ。甘味処は柳くんに任せるね」
「…そうか。何だかすまない」
中学最後の文化祭、海原祭まであと数週間。