25


カキ氷もサクサク食べ進めて、最後の溶けた残りを飲んでいると、かなり派手な連続的な花火の音が聞こえてきた。その音が終わると、一気に静まり返ったようだった。


「あれ、花火もう終わっちまったか?」


丸井くんがちょっと離れて、さっきまで花火が打ちあがってた方向を見上げた。周りにはいつの間にか、同じ方向に歩く人の流れができてる。
時計を確認すると、花火終了時刻ちょうどだった。


「さっきので終わっちゃったみたいだね」

「そっか。結局あんま見れなかったな」

「だねー。残念」


でもそこまで残念に感じないのは、きっと花火よりも楽しい丸井くんとの時間を過ごすことができたからだ。

他のみんなとも合流しようとしたけど、二人揃ってなかなか携帯が繋がらない。きっと今携帯を使ってる人が多いからだ。


「全然繋がんねーな」

「うーん…一応、美岬にメールは送れたけど、届いてるかなぁ」

「とりあえず駅向かおうぜ。みんなもそっちに向かうだろい」

「うん!」


駅までの道のり、行きは全然丸井くんと話せなかったけど、帰りは二人きり。幸せだなー。


「あのな、さっき」


人混みがすごすぎて丸井くんと離れてしまわないか不安だったけど。丸井くんはずっと並んで歩いてくれた。押されて少し離れても、すぐにこっちに来てくれた。


「みんなで話してたとき、一瞬目合ったじゃん。好きな人とかの、話んとき」

「う、うん…」


人も多いし丸井くんの声が小さめで聞き取りづらい。耳をすませようと、思ったけど。
でも、もし今いきなり好きな人の名前を告げられたらどうしよう。俺のことチラチラ見ないでって言われたらどうしよう。それならむしろ聞き取れないほうがいい。

意識は全部丸井くんに向かってるはずなのに、頭の中ではどうにか、別のことを思い浮かべようとしてた。

だからか、次に丸井くんの口から出た言葉は、右から左へ、あっという間に流れて消えたようだった。


「あのとき俺、テニス部の中なら…、成海がいいなって。思ってさ」


でも、消えるはずのない言葉だった。音としてはすごく小さな儚いものだったけど。
あのカキ氷みたい。数秒かけてじんわり、私の心に沁みていくのがわかった。


「…わ、私もだよ」

「ん?」


私の声も小さかったんだろう、丸井くんも聞き取るのが難しそう。


「私も、丸井くんがいいなって思ったよ。…テ、テニス部の中なら」


私はテニス部どころか全校生徒、というか今の時点で全男子の中でだけど。丸井くんはあくまでテニス部内での話だから。

聞こえたかなーどうかなー、聞き返されたら同じことはもう言えないよー、そんなことを考えながら、恥ずかしさに顔もすごく熱かった。自分の足先ばかりに目が行く。


「ヤバい」

「…え!?」

「めちゃくちゃうれしんだけど、それ」


でもそんな返事をくれたから、私も丸井くんの顔を見ることができた。さっきみたいな爽やかさと、少し、照れたような雰囲気が漂う笑顔だった。


「じゃさ、また学校始まったら教科書借りにいっていい?」

「うん!もちろん!待ってる!」

「おう、シクヨロ」


そして駅に着く直前、タイミングよく美岬たち他のみんなとも合流できた。さっそくみんなから、二人で抜け出してデート〜?なんて冷やかされたけど。ついでに切原くんのコーラも忘れてて、丸井くんが文句言われちゃってたけど。

すごくすごく幸せな、大事な大事な思い出になった、花火大会だった。
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