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女子に誰も彼氏はいないという話が済んだあと。
「じゃあ、お前さんたちは好きなやつとかおるんか?」
丸井くんに話が及ぶ前に、仁王くんがまた別の際どい質問を投げかけた。
少し丸井くんの話は聞きたかったけど。でも聞かないほうがよかったと思うぐらいなら、聞きたくない。なら、これでよかった、かな?
「あたしはねーちょっと気になってるのがE組のー…」
いやぁほんと美岬はすごい。何回すごい連呼してるんだ私。でもすごい。さらっと誰が好きなのか言ってるし。あっちゃんもみーちゃんも、野球部やサッカー部の憧れの人の名前を難なく口にした。
そして当然、私にも流れ弾が。
「成海は?」
順番的に私も言わなきゃだろうなと思ってたけど。仁王くんがにやけながら聞いてきて、もう逃げられなかった。
どうしよう…いや、本人いる前で無理…!
「…私は、特に誰も」
「ほんとか?ちょっといいなーとか、おらんの?おるじゃろ?」
「あ、じゃあテニス部で誰が一番いいかってのはどうっスか?」
「あーそれは是非聞きたいのう」
「テニス部…!?」
仁王くんも切原くんも、すごく楽しそう。これまでで一番楽しそう。
テニス部とか限定しなくても、全校生徒の中でも丸井くんなんだけどな…!
「ほらほら、二人とも、あんま真帆のこといじめないで!」
「「はーい」」
「じゃ、次は男子の番ね!」
美岬がかばってくれたけど。丸井くんだって、思い切って言ってもよかったかもしれない。テニス部の中でなら、って付け足して。
でも迷惑に思われたら嫌だしなー。難しいなぁ。
「はい次、丸井先輩!」
切原くんの好きな子(聞いてなかった)がなぜか仁王くんから暴露されたところで、丸井くんの番に。
どうしよう…普通に好きな子の名前言われたら。
嫌な意味でドキドキしてたら、丸井くんが私のほうを一瞬見た。そして逸らしながら、ゆっくり口が動いた。
「いねーよ俺は」
「ほんとー?でも丸井くんもよく告白されてるでしょ?こないだは一個下の子にさ、断ってたけど」
「お前マジ知りすぎだろい!」
「ちょっと怖いぜよ」
「ふふふ…じゃあさ、テニス部で誰がいいとかは?」
「…だからいないって、別に」
ほんとに美岬はよく知ってる。というか、それは私も初耳だった。私に気使って教えてくれなかったのかな、教えてほしかったけど!
でも、丸井くんは好きな子いないって。切原くんもそう言ったけどあっさり仁王くんに暴露されてたし、きっとほんとにいないんだな。よかった、一安心だ。ちょっと仁王くんがにやついてるのが気にかかるけど。
そしてそこでようやく、みんな花火なんて全然見てないことに気づいた。終盤に近づいてて、最後ぐらいはちゃんと見ようと、みんな空に目を向けた。
「俺トイレ行ってくる」
そのすぐあと、丸井くんが立った。トイレか。私は別に行きたくないし…。
「あ、丸井先輩、コーラ買ってきて」
「ヤダ。自分で行け」
でも、行きたいフリして一緒に行けば、話せるチャンスかもしれない。もしかしたら切原くんも一緒に行くかもしれないし、全然不自然じゃないし。
横にいる美岬が、ツンツンと肘で突いてきた。私もそれで、立ち上がることができた。
「…わ、私も一緒に行っていい?」
思い切った。すごく。花火は次々豪華に打ち上げられて騒がしいけど、自分の心臓のほうがうるさい。
返事を待つ間は少しだけ、時間がゆっくり流れた気がする。
「ああ、いいぜ」
「…ありがとう!よろしく!」
「ん、じゃあ行くか」
「丸井先輩、コーラコーラ!」
「……はいはい」
切原くんがしつこいからか、丸井くんは渋々了承した。
これで、二人で行くことが確定した。