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いつ丸井くんを好きになったのかは自分でもはっきりわからない。ただ改めて思い返すと、あのときに好きになっちゃってたのかなって思う。

3年生になってからすぐのこと。放課後委員会があって、終わりが長引いて、先生の用事や書記としての後片付けもしてたら帰る頃にはもう完全に日が落ちていた。


「…あれ?」


テニスコートの前を通りがかるとまだ照明がついてて、消し忘れかなと思った。
でもよく見るとコートの中に一人の影。それは丸井くんだった。

話したことはなかったけど、かっこいいなぁとは思ってた。明るくて人気もあったし。

しばらく見てたけど、ボールマシン相手にずーっと同じネットプレーの練習をしてた。ボールをネットや鉄柱に当てて、その度にフォームやボールの動きの確認も繰り返してた。

丸井くんの妙技は何度か見たことがある。ただのうまいボレーじゃなくて、魅せる技、自分らしい武器を自分で考えて作り出してるらしい。そしてきっとこうやって何度も繰り返し練習してるから、あんなまるで奇跡かのようなプレーができるんだ。


「成海か?」


少し経ったあと、後ろから声をかけられた。誰かと思ったら、同じクラスになったばかりのジャッカルくんだった。


「あ、ジャッカルくん。お疲れ様」

「お疲れ。委員会か?遅くまで大変だな」

「ううん、全然。ジャッカルくんこそずいぶん遅くまで練習頑張ってるんだね」

「や、俺は付き添いっつーか。あいつが終わるまで待ってるだけだぜ」

「そうなんだ」

「つっても、もうほとんど完璧なのによ。なかなか納得しねぇからな」


ジャッカルくんの言う通り、私から見ても丸井くんの技は、さっきから完璧に決まってばかりだ。でも丸井くんはまだ納得できないんだ。自分の武器である妙技の完璧を何度も重ねて、磨いてる。

まだまだ夜は涼しい季節。なのに、丸井くんはずっと動いてるからか、汗をたくさんかいてるように見えた。


「おーいジャッカル!そろそろそっちから打ち込んでくれ!」


コートから丸井くんが叫んだ。私ともほんの少し、目が合ったかもしれない。でも遠かったから。


「お、ようやく俺の出番だ。それじゃあな、成海」

「うん、また明日。頑張ってね」


コート内に入ったジャッカルくんがボールを打ち込んで、丸井くんはまた同じ練習を始めた。

今ここにいたのが、私かどうかわからなかったかもしれない。話したこともなかったし、名前も顔も知られてないかも。

それでも私の足は校門ではなく、校舎内に向かった。もう閉められてる食堂の前にある自販機だ。スポーツドリンクを2つ買って、男子部の部室へ向かい、扉の前に置いといた。“ジャッカルくん、丸井くん、お疲れ様”とメモ書きを残して。誰からかなんてわからなくてもいい。

でも次の日、さっそくジャッカルくんに聞かれて、肯定するとお礼を言われた。名前は書かなかったけど、私じゃないかと思ったって。

丸井くんはわかってないと思ってた。私のことを知らないと思ってた。それでもいいとも思ってた。
ただ、“これだ”って決めた自分の武器をひたむきに磨く彼に、すごく心が惹かれた。誰かを応援したいって初めて思った。

それからだと思う。丸井くんを目で追うようになったのは。イコール、それが今は恋になった。
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