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「ガムいる?」
信号待ちの間、いつの間にか隣にいた仁王くんにそう聞かれ、板ガムを差し出された。
仁王くんとは前に教科書の件でわずかな接触があっただけで、普通に会話をしたことはなかったけど。この中ならば女子サイドのリーダーは私だから、私に話題を振ったのか。
そう、軽い自己紹介はみんなしたものの、結局女子と男子で前後に分かれて歩いていた。会話もそれぞれだったし、これじゃ一緒に行く意味あるのかどうか疑問だった。
「…あ、ありがとう。もらおうかな」
きっと仁王くんも、この状況は気まずかったのでは。女子と男子との架け橋を買って出てくれたように感じて、心の中でとても感謝した。…が。
「い…っ!?」
引っこ抜いたガム、正確には引っこ抜けなかったガム。いわゆるパッチンガムというやつで、バチンッと私の親指が挟まれた。
…そこまで痛さはなかったけど、恥ずかしいというか。
「え!?…何これ!」
「ははっ、大成功」
「ひどい!」
信号待ちだった上に、仁王くんがわざわざ女子に話しかけたということで、その場にいたみんなから注目されてて。案の定、みんなから笑いがこぼれた。
ああ恥ずかしい…!きっと丸井くんにも笑われてるに違いない。恥ずかしくて見れない。目の前でケラケラ笑ってる仁王くんが憎らしい。
でも、気まずかった空気が一変した。やっぱり少し、仁王くんに感謝した。…ジャッカルくんは頼りにならないし。
「ほら、こっちのガムあげるぜよ」
「それもどうせパッチンガムなんでしょ!」
「バレたか。新記録期待できるかと思ったんじゃが」
「いや〜丸井先輩の記録はそうそう破られないっスよ!なんせ14回連続だし!」
青信号になったところで、切原くんが笑いながらそう言った。
…14回連続!?女子全員が丸井くんに驚きの目を向けた。
「てめ余計なこと言うんじゃねーよ!」
「イデデ…!ギブギブ!丸井先輩!」
横断歩道を渡りながら何とも器用に、丸井くんは切原くんの首を絞め上げた。
ちょっと大人しめな気がしたけど。そうでもなかったみたい。よかった。
「真帆〜」
ホッとしていると、またまた美岬に突かれた。
「もしかして仁王くんもだったりして?紅白コンビもなんてうらやましい〜」
「そんなわけないでしょ!…ていうか、紅白コンビって?」
「あれ、頭」
これはもっと納得だった。赤の丸井くんと白の仁王くん。二人はB組で、ともに人気が高い。
まだまだ知らないことがあるなぁと、今日きっかけにもっと知れたらいいなぁと思った。