02.ほんとの素顔

部活帰りにジャッカルとコンビニに寄ってジャンプを立ち読み中。目の前の窓をコンコンと叩かれた。


「ういーっス!」


窓越しでも声が聞こえてきた気がする。そこには赤也と、綿谷&小木のコンビがいた。


「お疲れっス!」

「お疲れ様でーす!」

「おーっす。って赤也、勉強は終わったのか?」

「ハイ!もう俺なら絶対大丈夫って、芽衣がタイコバン押してくれたんで!」


ヘラヘラ笑いながらその3人もコンビニ内に入ってきた。太鼓判…?と若干驚いた綿谷の顔に、いつも赤也のお守り大変だなーなんて思った。

赤也はもちろんだけど、綿谷も普段からよく接する後輩の一人で、女子の中じゃたぶん、一番かわいがってると思う。ノリが合うし、赤也と同じく先輩の俺に対していい意味で馴れ馴れしい。だからこの遭遇は歓迎だ。

つーか、なんだ、そんなすぐ早く終わるんなら待っててやりゃよかったかな。…あ、でも、赤也にとっちゃいい展開だったのか?一緒に帰れて。


「なんか腹減ったな。丸井先輩たちなんか買いました?」

「ああ、これから買うぜ」

「じゃ俺もなんか買おっと!」


普段から赤也は明るいしテンションも高いほうだけど、今は一段と高い。やっぱり赤也にとっちゃ、いい帰り道だったんだろうな。

赤也が菓子パンコーナーに移動した隙に、綿谷の制服を軽く引っ張った。小木も飲み物コーナーに移動したからちょうどいい。


「なぁ、赤也どんなんだった?」

「どんな?勉強ですか?」

「違う違う、帰り道。小木が一緒で、赤也浮かれてた?」


ニヤけ顔の俺に、ジャッカルもその言葉の意味を理解したらしく、同じく綿谷を取り囲んだ。

そしたら綿谷は一瞬、表情が固まったように見えた。俺やジャッカルと違って、少し戸惑ってるような…。いつもなんでも即リアクションをとってくれる綿谷じゃない、みたいな感じで。

もしかして、赤也と仲良いけど知らなかったのかなって思った。驚いたのかって。
でもそう思った瞬間、ニヤッと笑った。きっと気のせいなんだろう。


「元気いっぱい!って感じでしたよー。でも終始そわそわ落ち着きなかったですけど」

「なるほど。けっこうしゃべってた?」

「うーん、まだまだあたしを通してって感じですかねー。たぶん照れてて、あんま顔見れてなかったですよ」

「それ見たかったなー!とりあえず報告ご苦労!」


ポンと綿谷の肩を叩くと、綿谷は笑ってウィッス!と敬礼をした。
そして、自分に提案があります!と続けた。


「あの二人を残して我々は退散しませんか!」

「お、いいじゃんそれ!二人っきりにしてやろうぜ!」

「赤也怒るんじゃねえか?小木さんも」

「バカだなジャッカル、赤也がアピールするせっかくのチャンスだろい」

「そーですよジャッカル先輩、野暮なこと言わない!それに…」


綿谷はこれまで以上に声を小さくした。周りっつーかあいつらに聞こえないようにってことだろうけど。
ほんの少し、綿谷の目が潤んだようにも見えた。や、気のせい…だよな?


「それに、小木も赤也のこと、たぶん好きだと思います」


マジか…!と、俺とジャッカルの小さな叫びが重なった。これはもう、二人を置いていくしかない。


「てことで、俺ら先帰るなー」

「ばいばーい、二人とも!」


半ば強引というか唐突に俺らは外へ飛び出した。え?ちょっと!って、赤也も小木もなんか言ってたけど、無視してとにかくダッシュした。

しばらく走って、あの二人は追ってきてないって確認したあと、ふーっと一息。3人同時に笑い出した。


「赤也めっちゃ焦ってましたね!」

「な!でも内心喜んでんじゃね?」

「明日文句言われそうだけどな」

「それはジャッカルが対応しろよ」

「シクヨロですジャッカル先輩」

「お前らなぁ…」


部活後の全力疾走でちょっと疲れてか、みんなしていつもより歩く速度は遅め。
数分後、ジャッカルとは家の方角が別だから交差点で別れた。そこからは綿谷と二人。さらにスピードが遅くなった気がする。


「丸井先輩んちってあっちのほうでしたっけ?」

「ああ。でも今日は帰りに幼稚園寄るから、お前んちのほう通るぜ」

「あ、弟のお迎え?」

「そうそう、下の子な」


今日は母親が用事があって、俺が迎えに行くことになってる。遠回りになるけど、俺が迎えに行くと弟はすげー喜ぶしな。


「あたしも一緒に行っていいですか?」


うちの家族は試合観戦にも来たりするし、そのときに綿谷が俺の弟の相手をしてくれたことは何度かあった。しかもこいつはなかなか子どもの扱い方もうまい。
久しぶりに会いたいって思ってくれたのかな、うちの弟はかわいいし。だから、もちろんいいぜと、一緒に行くことにした。

幼稚園に着くなり弟は駆け寄ってきて、綿谷のことも覚えていたらしくさっそく戯れてた。お兄ちゃん差し置いてとか、ちょっと嫉妬。


「公園で遊びたいー」


そんな弟のかわいいワガママに、俺も綿谷も二つ返事でオーケー。そして公園で、二人が無邪気に追いかけっこをする姿をしっかりスマホに収めさせてもらった。

しばらくして、弟は砂場で砂遊び。しゃがむとパンツが見えるっつって、綿谷は俺のいるベンチの隣に座った。


「あー疲れた!あたし今日練習してないのに」

「テスト期間もあったし鈍ってんじゃね?」

「そうかもですねー。もうすぐで大会だし、またちゃんとやらないと」


綿谷は女子部のレギュラーだ。女子は男子より部員が少ないけど、全国に行く程度には強豪。だから2年ながらにレギュラーを勝ち取った実力はなかなかだと思う。

いわゆる部活少女だけど、成績もそこそこ良いし、明るくていいやつだし、人気があるような話は聞いたことがある。
ただ、浮いた話は聞いたことがないんだよな。ふと思ったその疑問は、唐突に解決する。


「丸井先輩、ぶっちゃけていいですかー」

「ん?」

「あたし、ほんのり、赤也のこと好きだったんです」


そう、唐突過ぎる。びっくりしていつでも写真を撮れるように握っていたスマホを落としそうになる。そういやその赤也からさっき、“明日覚えててくださいよ”って恨みのLINEがきてたっけ。

そして驚きは、だんだんと納得に変わってきた。納得っつーか、頭ん中スッキリする感覚。腑に落ちる感じ。あーだから浮いた話もなかったんだってのと。
逆に新たな疑問も追加された。


「お前、散々赤也とのこと否定してきたのに!?」


赤也が小木のことを好きだと聞く前まで、ずーっと赤也とこいつは恋仲だと思ってた。そう思ってたのは俺だけじゃなくて、実際テニス部の何人ものやつらが二人に聞きまくったはず。でもその度に否定され続けてきた。


「だってそんなの素直に認めるわけないじゃないですか!赤也はもちろん知らないし、小木にも言ってないし」

「まぁそう言われるとそっか」

「でもあたしはこっそり好きでしたよ。あっちは、あたしと一緒にいる小木のほうを好きになっちゃいましたけど。小木は女の子らしいし」

「あー…それは切ねぇな」

「切ねぇです。おまけに、小木もたぶん赤也のこと好きだし。あたしが好きだって気づいてて遠慮してんのか、はっきり言わないんですけどね」


両方ともガチ友だからわかるんですよーと、綿谷は笑った。

切ねーよ、なんだか俺も。さっきバカみたいにはしゃいでたことを思い返して、余計に胸が痛くなった。
綿谷も俺らと一緒にめちゃくちゃ楽しそうだったけど。ほんとは心ん中では傷ついてたのかもしれない。


「だから、実はさっき3人で帰ってるとき、ちょー気まずくて」

「……」

「丸井先輩たちがコンビニにいてくれて助かりましたよ」


砂場で一人せっせと山を作る弟をぼんやり見つめながら、綿谷は、今日はいろいろとありがとうございましたって呟いた。

いつもは明るい綿谷だけど。静かに語るその横顔が、ちょっとだけきれいに見えた。薄暗いせいかな。


「俺もお前がコンビニに来てくれてよかったぜ」

「え?」


きょとんと俺を見るその顔は、さっききれいだと思ったことを訂正するぐらい間の抜けた面。
でもそのほうがこいつらしくていいかな。


「まず、間食せずに済んだ。柳に今禁止令出されてるからな」

「ああ、なるほど!さっそく違反しかけてたんですね」

「あと、うちの弟めっちゃくちゃ喜んでたし。…ほら」


さっきこっそりスマホに収めた写真を見せた。弟が綿谷に戯れてて満面の笑みなところ、追いかけっこをしてる最中の必死な二人、大人気ない綿谷がサルのごとくジャングルジムに登って逃げて笑ってる姿。


「な?お前サルみたいだろい?」

「いや同意求められても!サルって酷くないですか!?」

「褒めてんだよ。俺はそういうお前のサルらしさがいいと思うぜ」

「サルらしいなんて初めて言われたんですけど、すごい貶されてる気分です」

「褒めてる褒めてる。だってもともと俺、小木より綿谷派だしな」

「マジですか!それはうれしい!そこだけはうれしい!」

「小木はちょっと女の子らしさがあり過ぎるし。お前ぐらいがちょうどいい」

「あれーなんかまたディスられてる気がするなー」


いろいろ捻くれたことは付け足しちまったけど、本心だ。サルだとか女の子らしさがないとか、そういうんじゃなくて。

一緒にいて楽しいからな。丸井先輩ちょー酷いってケタケタ笑う綿谷を見て、すげー楽しいなって思った。


「真っ暗になる前に帰るか」

「イエッサー!」


別れ際、今日は話を聞いてくれてありがとうございましたって、また礼を言われたから。俺こそ話してくれてありがとなって伝えた。
仲は良かったけど、こいつからこんなマジな深い話を聞いたのは初めてだったから。ちょっとうれしかった。

もうこの夏で一旦俺らは引退で、学年が違う綿谷と接する機会は減るかもしれない。そう思ったら、さっきとはまた違った切なさも湧いてきた。

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