初詣で


みなさん、あけましておめでとうございます。昨年はいろいろとお世話になりました。今年もどうぞよろしく!

今年はあたしも三年生になるからなー。最上級生だ。悔いのないようにしないと。来年は受験だしな。まだ志望校なんて全然考えてないけど。

ちょっと、ちょっとだけ行きたいなって高校はある。でも頭いいからな。あたしに行けるかどうか…。

しかも本人が行かなかったら意味ないし……。



「そろそろお参り行くわよー」

「はぁい」



これから家族で初詣。近くの神社に行くの、毎年恒例だ。りんご飴とか綿飴とかジャガバターとかいっぱい売ってて、大好き。そんでたまにクラスの子にも会ったり。去年は途中で会った子と遊びに行ったっけな。今日も誰かいないかな。例えば……、

に、に、仁王くん家とか…?

でも仁王くんは友達ときてそうだな。うちのクラスの男子と仲良しっぽいし。てか仁王くんのお兄さんこそ友達と遊びにいってそう。あのテニス部のまるい先輩とかと。

そんなことを考えながらも、キョロキョロと探してしまう自分がいる。

ようやく神社にもついて、まずはお賽銭ということで行列に並ぶ。

と、その前にもくもくと煙が舞っている場所があった。

ああ、あれ確か、あの煙を頭につけると頭がよくなるとかそーゆう話なかったっけ。頭よくなりたいな。



「お母さんたち先並んでてー」



あたしはお母さんたちから離れ、一人もくもく会場に近づく。あたしの順番はすぐにきた。

壺の中に半ば頭を突っ込み、一生懸命煙を頭に擦り付ける。周りの人がちょっと怪しい目で見てたけど、いーんだ。もう会わない人たちだし。あたしは頭よくなりたいんだ。

…立海大附属高校にいくためにも。



「なにしとんの?」



たぶんあたしに投げ掛けられたんであろう、妙な方言を発した主を見た。



「に、仁王くん!?」

「お前、そんなに頭突っ込んだら危ないやろ」



仁王くん(弟)だった。

うっわーめちゃくちゃ恥ずかしい…!必死で煙つけてんの見られちゃった!しかも仁王くん。微妙な距離感の同級生!

仁王くんの周りを一応確認したけど、仁王くんのお兄ちゃんは見当たらなかった。…よかった。こんな恥ずかしい姿見られたら死んじゃう。



「あ、えっと、これは、頭がよくなるから!」

「は?」

「だから、この煙つけると頭よくなるんだって!」

「ふーん。たぶんやんないほうが頭よく見える気がするけど」

「は、ははは…」



仁王くんて意外と辛口。

てか、やっぱりよく似てるな。横顔とか。声は仁王くんのがちょっと高いけど。



「名字誰ときてんの?」

「親だよ。仁王くんは?」

「俺も。……あ、兄ちゃん」



仁王くんの視線はあたしの横をすり抜けて。

あたしがそれを追って振り向くと、会いたかった人がいた。



「おう、名字さん」

「こ、こんにちは!」

「こんにちは。ちゅうか、明けましておめでとさん、じゃな」

「あ、明けましておめでとさんです!」



久しぶりに会った。仁王くんのお兄ちゃん。あの、クリスマス以来だな。

かっこいい私服にはちょっと似合わない首にかけてるアヒルのシャボン玉を見て、あたしは頬が緩んだ。



「あれ、兄ちゃん知っとるんか?」

「ああ、こないだお前が休んだ日にプリント届けてくれたんじゃ。な」



仁王くんのお兄ちゃんはあたしの方を見てフッと笑った。
きっとクリスマスのときのことは内緒なんだ。



「それよりお前そろそろ帰らんと時間まずいじゃろ」

「そうそう、このあと友達と待ち合わせとった」

「入り口で母さんたち待っとるよ」

「兄ちゃん帰らんの?」

「んー、俺はもう少ししたら帰る」



兄弟揃ってイケメンの、そのプライベートな会話を見れたあたしは今年一年すっごく運がいい気がした。



「じゃーな、また来週」



仁王くんは、元気よく手を振って去ってった。そしてあたしは隣の人を見上げる。

仁王くんのお兄ちゃんはまだ帰らないらしい。誰かと実は回ってるとか?それとも……、



「名字さんは、お参りしたんか?」

「い、いえ!まだです!」



そういやまだ頭に煙つけることしかしてない。お参りとかりんご飴とか綿飴とか、まだまだやらなきゃいけないことがある。



「じゃ、並ぶかの」



ぐいっと、手を引かれ、ようやく人が少なくなってきたお参りの列最後尾に並ぶ。



手をつなぐのは二回目だ。こないだのクリスマスもちょっとだけ、つないだ。お店に入って離したあとは、もうつながなかったけど。

今日は、まだまだ順番のこない間、つないでいられる。

あったかくてドキドキして。顔まで火照ってくるのがわかる。二人の結ばれてる手を見ては、またさらに熱は上がって。

仁王くんのお兄ちゃんからされる他愛もない話に、あたしは一生懸命相槌を打ちながら、
このドキドキを抑えきれないでいた。

ようやく、回ってきたあたしたちの番。

ご縁があるように、と、あたしたちは五円玉を投げた。けちとかじゃないからね。



「「………」」



しばらく無言で、お願いする。

てゆうか、願い事なんにしよう。考えてなかった。考えられる状況じゃなかった。ずーっとドキドキしっぱなしで。悪いけど、仁王くんのお兄ちゃんの話もほっとんど聞いてなかったよ。だって仁王くんのお兄ちゃんかっこいいんだもん。話す度に、コロコロ変わる表情の一つ一つが素敵で。これってやっぱり恋なのかな。でも別にあたしは仁王くんのお兄ちゃんがかっこいいからってだけで好きになったわけじゃないからね。優しいし、おもしろいし、かっこいいし……、



「名字さん」



ぽんぽんと、肩を叩かれた。



「そろそろ切り上げんと」



仁王くんのお兄ちゃんは、若干気まずそうに後ろに視線を向ける。あたしもそれを追うと、なんだか順番待ちしてる人たちは、苛立った雰囲気だった。やばい、空気読めなかった。



「ご、ごめんなさい!」

「ははっ、いいよ。気にすんな」



仁王くんのお兄ちゃんはさもおかしそうにお腹を抱えて笑った。そんなにおかしいかしら。

あたしたちは、なんだか逃げるようにその場を後にする。



「たった五円に相当願い込めたんじゃな」

「え!?そ、そんなことないですよ!」

「へぇ。じゃあ、何願ったんじゃ?」



何って、それは……、

なんだっけ。
てゆうか何も願ってなかった!ついつい仁王くんのお兄ちゃんのこと考えちゃって!

ちらっと仁王くんのお兄ちゃんを見ると、楽しそうに笑ってる。
ああ、そうだ。もし今からでも遅くなく、お願い事をしてもいいなら、

仁王くんのお兄ちゃんと……、



「あ、あたしの願いは秘密です。てゆうか、人に話しちゃいけないんですよ」

「あー、確かにそんな話もあったな」

「仁王くんのお兄さんこそ、何お願いしたんですか?」



仁王くんのお兄ちゃんは、さぁなんじゃろ?と笑った。教えてくれる気なさそう。

だってそうだよね。願い事、口に出したらそれはもう二度と叶わないっていうもん。だから絶対に、言っちゃだめなんだよ。



「まぁ、俺の願い事は口に出さんと叶わんものじゃき」

「え?」

「そのうち言うから、待ってて」



そう言って、再びあたしの手を掴んだ。

今度は、指と指を絡ませて。

ちょっとドキドキな、大人な手のつなぎ方。仁王くんのお兄ちゃんの手が、余計に大きく感じた。包み込まれているような。



「もうちょい回らんか?」



人混みを掻き分けながらのセカンドデート。

親のことなどすっかり忘れて。
煙つけても頭よくならなかったなって、思った。



END

仁王弟は頑張って標準語にしたいんだけどうっかり方言が出ちゃうといいな
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