少し黙りますね…

るんるん。今日はるんるん。いいことあったんだ。

昨日家に帰ったらなんとなんと、青学テニス部のみんなから、手紙の返事が来たんだ。

みんなそれぞれ順番に書いてくれたようで。
まずは大石くんからの心配に始まり、桃城くんの“そろそろ彼氏出来ました?”っていうご冗談、越前くんの“いい加減大人しくなりました?”っていうご愛嬌、

あたしへのメッセージはなかったけれど海堂くんが同封してくれたかわいい猫のプロフィールと写真、板前修行中の河村くんや留学中の手塚くんの近況、

英二くんの“高橋に会いたいにゃー”というラブコール、不二くんの“英二に内緒でデートしようよ”というラブラブコール、

最後は“これを蓮二に渡しておいてくれ”という乾くんの言伝で締め括られていた。ちなみに乾くんの“これ”というのは、柳くんに宛てた手紙。

トリが乾くんなんて何だか書く順番間違ってるように感じたけれど、そんな青学が本当に懐かしく愛しく感じた。



“高橋に会いたいにゃー”



あたしも。あたしもめちゃくちゃみんなに会いたい…!この手紙はもちろんうれしかったんだけど、ますますみんなに会いたくなってきた…!

そしてこの手紙によると、どうやらゴールデンウイークに合宿を行ったらしい。いーなぁ、あたしも去年行ったんだ。二個下の竜崎さんとなぜかテニス部ではない小坂田さんがいて同じ部屋で、恋話して盛り上がったなぁ。



「すみませーん!」



そしてあたしは今、男子テニス部部室に来ている。放課後。

理由は、さっき話題にした通り乾くんから柳くん宛ての手紙を承ったから。

それともう一つ。



「はい…、って、高橋さんじゃん!」

「お、高橋さん?例の?」

「なになにどーしたの?」



出てくれたのはちょっと前に声をかけてもらった2年の先輩。その後ろ、というか部室内には何人ものテニス部たちがいた。



「柳くん宛ての手紙を、共通の知人から預かりました!」

「へー…じゃあ渡してあげよっか?今柳いないし」

「それより高橋さん、中入りなよ!女子テニス部作ったんでしょ?」



この先輩たちならもしかしたら、大丈夫かも。軽そうだけどあたしには親切そうだし。あれ以来、会えばご挨拶頂けるし。

あたしのもう一つの目的、というかお願いごと。この先輩たちなら聞いてくれるかも…!
そのお願いごととは。



『部室?』

『はい!ボールなどの備品を保管する場所が必要です!』

『いや備品て、ボール3つしかないだろ』

『お願いします!』

『でもなぁ、空いてる部屋はないぞ』

『えええー!?』

『だから職員室で叫ぶなバカモノ』



サード先生に部室が欲しいとお願いしたものの、なかなか都合良く空いてる部屋はなかったそうで。

仕方なしに提案されたことは。



『じゃあボール置くだけなら男子部に頼め』

『男子部の、あの建物内ですか?』

『そう。それだけならたぶん大丈夫だろ』

『はい!』

『ただし着替えは今まで通り更衣室使えな』

『ありがとうございます!サード先生!』

『だから何だよそのサードって』



うちのクラスで3番目に男前だからです!…と言ったら、頭を叩かれてしまった。あたしが名付けたんじゃないのに。というか、あたしとしては意地悪な1番2番よりも、いろいろ相談に乗ってくれる先生のほうが断然男前だ。

それは置いといて。
男子部の先輩に誘われるがままに、今まで足を踏み入れたことのなかった男子部部室に潜入成功。

外から見たら立派な建物だったけど、中はそんなに。普通の部室という感じだった。
…いけないいけない、そんな不満を言ってちゃダメだ。



「高橋さん、せっかくだからマネージャーやってくれたらよかったのに」

「すみません、プレーヤーが良かったので」

「じゃあ今度試合応援来てよ。女子は個人戦以外できないだろ?」



これは、この展開はきっと切原さんが喜ぶ。結局まだ練習には来てくれてないけれど、試合は男子部のでも見たいって言ってたしな。きっと切原さんは、男子部の誰かの試合を見たいんだ。その気持ちわかるよ、わかる。



「はい!是非とも応援に参ります!」

「おーやったぜー」

「楽しみ!」

「お誘いありがとうございます!同じく女子テニス部員の切原さんと行きます!」



あたしがそう言うと、一瞬、シーンとした。なんだろう、切原さんって言ったから?切原さんはまずいの?

そう思っていたら、先輩が確かめるように聞いてきた。



「…切原って、もしかして切原桜?」

「は、はい、同じクラスで同じ女子テニス部員なので…」



またシーンと。なんでだろう。切原さん、テニス部に何かトラウマでも産みつけた?何となく見た目キツイタイプだし……。



「こんなところで何をしてるのかい?元青学さん」



少し気まずかった空気を壊すように、後ろから声がした。

振り返るとクラスメイトの幸村くんと仁王くんだった。二人揃っていつも通り、意地悪く笑ってる。



「…あ、ちょっとしたお使いがあったので」

「へー終わった?」

「え、まぁ、終わったかと言えば終わってないかと」

「何?他にどんなご用?」



さっきまでとても友好的に接してくれてた先輩たちも、なぜか無言。あたしやさっきの切原さんのことに関する発言でというよりは、この幸村くんの並々ならぬ威圧感で、萎縮してるように見えた。



「えーっと、そのー…」

「あれじゃろ、部室の一部、ボール置き場に使わせて欲しいって」

「な、何で知ってるんですかっ!?」

「声デカ。さっきサードに聞いたんじゃ」



サード先生め…!最も知られたくない輩ベスト2に言うなんて!

でも、さっきから無言だった先輩たちは、別にそれぐらいならーとか、高橋さん試合来てくれるならーとか、いい感じのことを呟き始めた。

これは、わざわい転じて福となす?
しかし。



「ダメですよ先輩たち」

「えええー!?」

「だからうるさいぜよ」

「彼女はどうせ、少しずつ部室を占領しますから」



そんなつもりはなかったのに。本当にちょっとだけでも部活動らしい部室の雰囲気を味わえたらって。

幸村くんの威圧感に押されてか、先輩たちは黙ってしまった。



「それじゃあね、元青学さん」

「……」

「俺たち着替えるから出て行ってくれるかな。ここは男子部の部室だからね」



そんなこと言われなくても、あたしの足は外へ向いてた。

これから、本当だったら一人でまた素振りとかサーブ練習するつもりだったけれど。

耐え切れなくて。学校の外まで、走って逃げた。



「いーのか、幸村」

「何が?」

「さっきサードに言われたじゃろ。先輩に、俺らも一緒に頼んでやれって」

「へぇ、仁王はそうしたかったの。何で?先生の頼み事だから?」

「…別に」

「ああわかった、かわいいから?言ってたよな去年」

「お前さんも言っとったじゃろ」

「そうだっけ?」



そんな小話をあたしが知る由もなく。

鞄は教室だから、いずれは戻らなきゃいけないんだけど。
今は教室にも学校のどこにも帰りたくなくて。



校門出て少し行くと、パン屋さんや小さめのコンビニのある通りがある。立海の制服を着た生徒が何人かいて、そこには出くわしたくないと思った。
この辺はよく知らないけど、その一本奥にも何軒か小さなお店はあって、そこに駄菓子屋を見つけた。

特にお腹は空いてなかったけど。
駄菓子屋でお菓子を買うことに決めた。財布は持ってなかったけど、運良く、というか、前にジャッカルくんにもらった購買のお釣りを、ずっと制服のポケットに入れっぱなしだった。そこから払おう。



「…これください」



特別好きってわけではないけど、まず目に付いた、チョコバットをレジに持って行った。残り一個だったし、そこそこおいしいし。

その会計中、駄菓子屋の入り口のほうで、大きな声が聞こえた。



「…あっ!チョコバットがねぇ!」

「珍しいな。つーか、昨日お前がいっぱい買ってたからじゃねぇか?」

「くっそー、今週はチョコバットウィークなのに…」



…あれ、何だか聞き覚えのある声。

その声に引き寄せられるように、あたしは会計も済ませて入り口へ向かった。

そしてそこにいたのは。



「「あーー!」」



お互い絶叫。あたしはそうだけど、彼もそれなりに声デカいのね。

そしてあたしは別に彼を見て、ではない。ジャッカルくんを見つけて、声をあげたんだ。

ジャッカルくんがあのときくれたお釣りがあったから、あたしはお菓子を買えたよって。



「お前…!」

「あ…、こ、こんにちは!」

「その手に持ってるのは何だよ!」

「…手に…とは?」



赤髪系男子の彼に言われた通り自分の手を見ると。
チョコバットが握られてた。当然だけれど。

でも、そうだ、さっき彼は、



“チョコバットがねぇ!”



そう言ってたっけ。
もしかして欲しかったのかしら。申し訳ない。あたしはそこまででもないし、あげようかしら。



「いい加減にしろよな」

「…はい?」

「俺からことごとくおやつを奪いやがって…!」



ことごとく?…とは?

あたしがわけもわからずぽかんとしていると、隣にいたジャッカルくんが、ふーっとため息をついた。何だか呆れ返っているよう。あたしに?それとも彼に?



「決闘だ」

「…決闘…とは?」

「俺と、そのチョコバットをかけて決闘しろぃ!」



おいおい何言ってんだよブン太!って、ようやくジャッカルくんが口を挟んだ。

…なるほど、彼の名前はブン太って言うんだ。上の名前はわからないけれど。いや、ちゃんと上の名前も知らないと。これだけ話す機会があるなら、ちゃんと覚えないと失礼だ。



「あの!」

「なんだよ?」

「聞きたいことが…」

「?」



…あれ?そういや今、このブン太くんは何て言った?

決闘?決闘って、宮本武蔵と佐々木小次郎がやった、あれ?



「ええええー!?」



たぶん流れに乗れてなかったあたしの驚きもとい絶叫に、二人揃ってビクッとなった。



「決闘って…ええ!?」

「驚くのおせーよ!」

「だって!あれですよね、刀でやり合う…」

「ちげーよ!テニスだよテニス」

「…テニス…とは?」

「お前テニスできんだろ?テニスの試合で、俺と勝負だ!」



まーたバカみたいなこと始まったって、ジャッカルくんが再びため息をついた。このブン太くんも、もしかしてあたしと同類?

ていうか、テニス?あたし、テニスの試合できるの?



「やったー!」

「「…は?」」

「よろしくお願いします!」



チョコバットはもう、どちらでもよかったけど、久しぶりにテニスができる。相手は男子で強豪立海の元レギュラーだけど。

楽しみ!

[戻る]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -