ラブラブもリテイク

そのやり取りっつーかほぼ公開告白の数時間後。俺は予定通り留学実力考査を受けて、高橋の待つ女子テニス部部室に向かった。



「お疲れ様です!」



ノックする直前、扉がガチャっと開いた。足音で俺が来たことがわかったのか。



「よう、お待たせ」

「いえいえ!」



部室内に入って、先に座らせてもらった。後に続いて高橋も向かいの席に。



「…えっと、……ど、どうでしたか?」



ちょっとだけ無言の後。聞いていいか微妙だけど気になるから聞いちゃったって感じで。恐る恐る高橋は口を開いた。



「…ダメだったかも」

「ええええ!?」

「なんてウッソー」

「………ええええ!?どっち!?」

「ちょー完璧。ここ来る前に自己採したけどほぼ満点だな」

「……」

「天才的だろぃ?」



笑ってピースすると、一瞬固まった高橋は、机乗り越えて向かいの俺に抱きついてきた。バランス崩して落ちたら痛いだろうよ。



「良かったぁ!本当に良かったー!」

「おう。ま、自信しかなかったからな。俺じゃなくて誰が行くんだって」

「そうですそうです!丸井くん以外行く価値ないです!フランスの地を踏む資格ないです!」



それは言い過ぎだろぃ。でも、自分のことのようにめちゃくちゃ喜んでくれて、ぎゅーっと抱きしめてくれて。
俺も堪らなくて、抱きしめ返した。ちょっと体勢ツラいけど。なんか高橋落ちそうだけど。



「あのさ」



しばらくしてから俺が口を開くと、高橋は体を離して正座した。机の上で。真剣な話なんだろうってわかったんだと思う。正座して、きちんと耳を傾けてくれるようだった。机の上でな。



「さっきの続きな。俺からも言いたい」

「は、はい!」



静かな部室内で、ゴクッと唾を飲み込むような音が聞こえた。そんな畏まらなくても、ビビんなくても答えはわかってるだろうに。

いや、わかんないか。俺はいつも高橋に、好きだって気持ちは伝えてきた。高橋だって伝えてくれてた。でもそれは言葉じゃなかった。ただの自己満足な態度。それはお互いそうだったんだと思う。

だからさっき高橋に好きだって言われて、そんなの知ってるよって気持ちと、やっと言ってくれたって気持ちと。

ほんとにそうだったんだって。わかってたくせに噛みしめることが出来た。態度とか何となくな雰囲気だけじゃなくて、言葉で形になって俺の中にしっかり刻まれた。



「俺も高橋が好き。大好き」

「……」

「4月からしばらく、いなくなるけど」



だから俺も高橋に、俺と同じことを味わって欲しい。愛されてるって、刻みこんで欲しい。



「俺のこと待っててくれ。必ず、高橋裕花のところに帰ってくるから。ずっと大好きだから」



そう言い終えると高橋は、手で顔を覆った。たぶん泣いてる。それは喜んでくれてるからってわかる。

俺も同じように泣きそうだ。でも泣かない。高橋を優しく笑ってやる。



「おーい、大丈夫か?」

「……っ」

「せっかくなんだから顔見せろぃ」

「丸井くん…っ!」



位置的に俺のが低くて覗き込もうとすると、高橋がさっき以上の勢いで俺に抱きついてきた。

というか、飛び込んで来た。それはまるでプールへの飛び込みかなんかと勘違いしてるんじゃないかってぐらい。
危険だとか痛いとか関係ないって感じで。潔く、侍のように。



「うわっ!」

「ぎゃっ!」



ドシーンと、深く低い鈍い音が響いた。たぶん下の階、下の下の階まで響いてる。飛び込みをした高橋と飛び込まれた俺は、後ろに倒れ込んだ。



「…いてて」

「すみませんすみません…!大丈夫ですか!?」

「あ、ああ、大丈夫」

「興奮してしまったので…すみません!」



机じゃなく今度は俺の上に乗っかりひたすら土下座。出来れば退いて欲しかったけど。
ぎゅっと今度は俺から抱きしめると、高橋も俺のお腹ら辺をぎゅーっとした。



「丸井くん」

「ん?」

「余談なんですが」

「余談?」

「ちょっとふくよかになりました?」

「……は?」

「さっき廊下で抱きついたときにもふと思ったんですが。何だか、以前よりお腹周りが厚くなったような」



そう言って高橋は、俺のお腹を撫で始めた。

いやな、相変わらずだけど。そういうとこもかわいいけどよ。



「でも贅肉って感じではないですね。何だろうこの感触」

「……」

「あ!防弾チョッキですか?」

「…お前さぁ」

「はい?」

「こういうときにボケかますなっての!」

「はっ、すみません…!」



防弾チョッキは通常硬いものでしたじゃねーよ。謝るところズレ過ぎだろぃ。

今日この場で見せる気はなかったけど。そのうち…俺か高橋の家で、そういうことするときにジャーンって見せようかと。

俺は無言でブレザーを脱ぎ、セーターも捲ってYシャツも上げた。丸井くんどーしたんですか!って高橋は照れつつ焦ってたけど。

見せたら、また固まった。



「これのせいだろ」

「……」

「言っとくけど太ってねーからな。部活だって筋トレだって毎日やってるし」



体重計は最近乗ってねーけど。…でも最近お菓子いっぱい供えられるもんだから、ちょっと食い過ぎかもしれない。…え、でも太ってないと思うんだけど。

そんなこと考えてたら、また抱きついてきた。何なんだよさっきから。抱きついたり離れたり、泣いたり固まったり、忙しねーやつ。
でも、喜んでるって、たぶんまた泣いてるってわかった。

この、もらった腹巻きのおかげで腹周りはめちゃくちゃあったかいけど。
それ以上にどんどん体が熱くなる。



「高橋ー」

「…はい…っ」

「さっきの返事は?」

「……もう、ずっとずっと待ってる!丸井くんがずっとずっと大好き…!」

「おー、よかった」



声も言葉も余裕振ってるけど。実際はうれしくて、ほっとして、やっと手に入れた大事なものがここにあって、ドキドキもする。

髪の毛の匂いとか体温とか柔らかさとか。百歩譲って俺がほんのちょっとふくよかになってたとしても、高橋は何も変わってない。
それは一度手離したものだけに、喜びが大きい。



「にしてもお前さ、けっこう大胆だよな」

「はい?」

「廊下で好きーって叫ぶとか」



さっきの出来事を思い出したのか、また高橋は顔が赤くなった。ちなみにここでようやく俺の上から退いてくれた。



「廊下で、丸井くんの後ろ姿を見て」

「……」

「このまま丸井くんが消えていなくなっちゃうように感じて、今言わなくちゃって、思ったので」

「……」

「ご迷惑おかけしてすみませんでした!」



だからってあんなところで叫ぶか普通。ほんとバカだな。周りが残念だって言う気持ちもわからなくもない。

でも、そんな高橋だからこんなに好きになった。バカだけど真っ直ぐなやつ。
あんな恥ずかしい告白されても、迷惑どころか余計にめちゃくちゃうれしいって思っちまった俺も、きっと残念なやつなんだろう。



「迷惑なわけねーだろぃ」

「本当ですか!」

「最高にうれしかった」



一旦離れた体をまた抱き寄せた。顔も寄せておでこ、瞼、ほっぺたに順番にキスをして。
最後に唇、精一杯の愛情込めて、長くて深いキスをした。
幸せだーって、それこそ高橋みたいに叫びたいぐらい。

こういうの、久しぶりだったし。俺も都合良く、今すぐにでも脱げる格好。おまけにちょっと日が暮れて、部室もいい感じに薄暗くなって来たところだ。つまり。



「せっかくだし」

「はい?」

「このまま、いい?」



そう言って高橋のセーターの中に手を入れると、ガッシリ掴まれた。



「ダメですよ!」

「えー!なんで」

「まだ練習やってる時間ですし早く部活へ!来月大会なので!」

「えー」

「丸井くんはレギュラーですし!留学から戻ってきてもレギュラーになれるように今頑張らないと!」



そうなんだ。たった今レギュラーとはいえ、しばらく離れる。立海からもテニスからも。もしかしたら他のやつに抜かれるかもしれない。どんどん差が広がるかもしれない。

でも俺は欲張りだから。高橋がそう言ったように、帰ってきてからもまたレギュラーを取る。夢もレギュラーも高橋も、何一つ譲る気はねぇ。



「んじゃ、また今度な」

「は、はい!」

「俺の合格祝いってことで。いーっぱい、な?」



恥ずかしそうにだけど笑って、はい!って言ってくれた。

言葉で伝え合ったことがまず第一。それに付随するってだけのことではあるけど、その日を心待ちにして。

一時ではあるけど別れのその瞬間まで。高橋と仲良く、前に話したようなラブラブな関係で、今度こそ幸せに過ごしていきたいと思った。

[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -