ごちゃごちゃしてる

「…と、いうわけなんだけど」

「……」

「城崎さん、なんか事情知ってたりする?」



いや疑ってるようでほんと申し訳ねーんだけど。俺の言葉に無言になっちまった城崎さんへ、そう付け加えた。疑ってるようで、つーかめちゃくちゃ疑ってるけどな。

俺はあのときのデートは誰にも言ってない。ラブレターもらったのも俺からは言ってないけど、仁王に渡されたのはE組だったし、それを知ったやつもいるかもしれない。

ただ、イコール付き合ってるってなるのは……どう考えても当人、つまり城崎さんが言ったんじゃないかって。同時に、高橋と湯布院の件は、湯布院が言ったんじゃないかって。

もちろん俺は反省してる。軽率だったと。中学じゃねーんだから、男女で休日、私服でどっかに行ったら、そりゃハタから見たら付き合ってるかもって考えなくもない。

というわけで、こうして今日は城崎さんを呼び出し改めて断って、
かつ、噂の出どころを探りたかった。



「…丸井くん……」

「ん?」

「もしかして、高橋さんが好きなの?」



だからそー言ってんじゃねーか。もしかしてじゃねーよぃ。いや好きとは言ってないけど、あいつと付き合ってるからって言ったんだからそれはそうじゃねーかよ。

あーなんか面倒くせー。泣きそうだし。言うの遅かったけど断ってんじゃん。そもそもこいつも最初は、“一度でいいから、割引券もあるから”って話だったじゃん。釣られた俺も悪いけど何欲張ってんだよ。てか俺の質問どこ行ったんだよ。



「…あたしのせいかも」

「えっ」

「あたしちょっとうっかりしてるところがあって…でもあたしじゃないの」



ハッキリ言えよって、つい言いかけた。危ない危ない。ここで声荒げて機嫌損ねられたらまずい。

高橋も、たまによくわかんないこと言うけど。それはかわいいもんだ。一生懸命話そうとしてるのがわかるから。

でもこの女は明らかにワザとだろ。俺の出方窺いやがって。あ、仁王の好きな自称天然女がここにいるぞ。よかったら仁王と付き合えば。



「そのー、詳しく話してもらいたいんだけど」

「…何て言うのか……難しいよね、こういう問題」

「……」



ふぅーって黄昏られても怒りしか沸かない。城崎さんかわいいって話よく聞くし気に入ってるやつもいるらしいけど。いいよな怒っても。もうこいつと穏やかに話するのは無理だろ。



「…あのさぁ」

「なぁに?」

「いいかげ………」

「ブン太みーつけた!」



握りしめてた拳が急に緩んだ。
後ろから幸村に、驚かされたから。



「ゆ、幸村!?」

「珍しいね、ここで会うなんて」



ここは屋上庭園。よく見たら幸村は、ちょっと肌寒いのに腕まくりしてシャベルとなんかふりかけみたいな袋を持ってた。
…仁王の昼寝スポットとはちょっと離れてるから平気かなって思ったけど。そういやここはここで幸村のテリトリーだった。ガーデニングでもしてたのか。



「何してるの?」

「…あー、ちょっと、城崎さんに用があって」

「ふーん。…ああ、噂の出どころを探りたかったのかい?」



えええ!?なんで幸村は何も話してなくてもわかるんだって、尊敬のような恐ろしさのような感覚にちょっと鳥肌立ったけど。

ちょっと感謝した。幸村が来なかったら、たぶんキレてた。
…盗み聞きしてタイミング見計らってた可能性も大だけど。



「城崎さんだろ?ブン太と付き合ってるって吹聴したの」

「ち、違うよ!あたしは友達しか…」

「じゃあその友達“も”ってことか。でも君が言い出したことに変わりはない。あとは湯布院くんも?」

「湯布院くんは……」

「何?ハッキリ言いなよ」



俺がなかなか言い出せなかったことを、ずいぶんアッサリ幸村は言った。しかも笑顔で、窺い立てるとかいう遠慮は一切なく、ズバズバと。

…女子には優しいはずだったけど。幸村もフリか?もしくはさっきの聞いててあまりにイラついてか。

幸村の攻め?責め?が功を奏し、ようやく城崎さんから事情をすべて聞くことが出来た。同時に昼休みが終わった。



「…幸村、サンキューな」

「どういたしまして。ブン太危なかったからね」



そう、けっこう危なかった。まぁ殴りはしないだろうけど。キレてボロボロに泣かせる可能性大だった。ほんとにあのとき幸村が来てなかったらヤバかった。



「来年からレギュラーだろうから、変なことは控えるように」

「……え?」

「ただし、今以上に勝てるようにならないと、即落とすからね」

「マジで!?」



意外だった。こないだの大会は途中で敗退したし、しばらくレギュラーなんて無理だと思ってたのに。

詳しく聞いたら、仁王もそうなるだろうって。もうすでに幸村や真田はレギュラー入りしてるから、結局またほぼ去年のメンバーで全国目指せるわけか。…ジャッカルは、俺が引っ張り上げるしかない。



「とりあえず、高橋さんとのことを何とかしたほうがいいよ」

「…そーだな」

「今度は仁王と噂になってるから」

「だよなぁ…」



俺がその話を耳にしたのは、意外にも赤也からだった。あの日、高橋からの電話もなくモヤモヤしてたとき。赤也から着信があって、テスト終わったし遊びの誘いかなって思ったら。
意外でもないか。仁王相手なら、その日か少なくとも次の日にはいろんなやつに広まるから。でも………。



『誰もいない教室で二人きり、手繋いでたらしいっスよ!』



どーいうことだよ高橋…!
俺も城崎さんとデートしたしな、あいつも仁王とデートで、それはチャラでいいぜ。そのときは付き合ってなかったし。

でも今は付き合ってるじゃん。あれ以来接触ないけど。俺としてはちゃんと身辺整理して、初っ端からごちゃごちゃあったけどちゃんと付き合っていきたいって……。



「あと、あの問題児たち。制裁してやりたいだろうけど、抑えるんだよ」

「…へ?」

「湯布院くんと別府さん」



高橋の浮気(?)疑惑を思い出して腹立ってたところに幸村の言葉。
ああ、ついさっき聞いた話なのにすっかり抜けてた。城崎さんから聞いた事の真相。



『湯布院くんに聞かれたの。高橋さんって、丸井くんか仁王くんと付き合ってるのかって』



湯布院はちょっと前に高橋に告白したやつ。その現場を、俺や仁王が目撃した。そのときの高橋の狼狽えっぷりで、どっちかと付き合ってんじゃないかって、思ったらしい。
…あのときはジャッカルもいたのに。根拠もなく外されるジャッカル残念だな。



『でも丸井くんはあたしとデートしたし違うって言ったの。あたしと付き合うかもって…』

『いやそんな話になってなかったろぃ。何適当言ってんだよ』

『ブン太、抑えて』



ああ、悪い。結局城崎さんに怒りを半分くらいぶちまけた。

だって、そのあと“高橋さんは仁王くんとデートしてた”っていう余計なことまで言ったらしいから。

で、そこに別府さんが来たらしい。今さら思い出したけど、そういや中学のとき、城崎さんと別府さんは仲が良かった。俺と仁王は3年B組紅白コンビとか呼ばれてたけど、こいつらは温泉コンビとか言われてた。



『つまり、別府さんは仁王のファンだから、それを否定するために湯布院くんということにしたと、そういうこと?』

『う、うん。でもそのあとは湯布院くんたちが広めたと思うんだけど』

『どっちにしろ発端は君なんだろ。責任逃れ?ふざけないでくれ』

『ゆ、幸村、抑えて』



いつの間にか俺よりキレてた幸村に、城崎さんは顔面蒼白。幸村はまったく怒りの顔を見せないだけに、余計怖い。



『とりあえず今後ブン太とのことを聞かれたら、ハッキリ否定しろよ』

『は、はい!』

『何だったら“わたしは嘘つきです”って看板ぶら下げて校内一周してもらおうか?』

『いやいや!さすがにそれはいいから、幸村!』



こえー。こいつが味方でよかったぜと痛感した。城崎さんもようやく反省してくれたらしく、今後はちゃんと否定してくれるってことになった。

俺は、そのちょっと前までめちゃくちゃ腹立ってたけど。もうこの件はどーでも良くなってた。

赤也から聞いた、幸村から忠告された高橋とのこと。これを何とかしないとって。

手繋いでたじゃねーよ…!なに、仁王はそういうつもり?高橋もちょっとなびいちゃった感じ?

今度こそしっかり、あいつと話をしないと。

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