あ、あなたもですね!?

かぼちゃパンか、パンプキンパイか。どっちだ?

あたしは購買パン売り場にて非常に迷っています。かぼちゃパンかパンプキンパイかどちらかを。

それは遡ること5分前。



『切原さん!お願いします!』

『えーなんであたしが?』

『切原さんしかいないんです!部活もなくて暇そうなので!』

『暇そうってすげー失礼なんだけどアンタ』

『ごめんなさい!でもっ!』

『あたしがー?…女子テニス部ー?』



そう。あたし以外に部員を調達すべくまずは身近なクラスメイトを調査したけれど。切原さん以外はほとんどもう入る部活を決めてて。

ちなみに切原さんはもともと男子テニス部のマネージャーを狙っていたらしいけど、あまりの多さに引いたらしい。そして切原さんいわく、“自分は絶対落選する”んだそうで。
その理由は、どうやら、切原さんの家族が関係しているらしい。



『ほんとに練習は出なくていいわけ?』

『はい!たまーにで構いません!たまーに!』

『ふーん。で、試合は参加しなくても見に行っていいって?』

『はい!あたしを応援して頂ければ!』

『応援はやだけど、顧問はサードなんだよね?』

『はい!引率はサード先生がしてくれます!うれしいですね!』

『アンタ声デカい』



噂によると切原さんは、テニスが上手いらしい。小さい頃弟と一緒にやってたそうで。
そしてやたら試合は女子のも男子のも見に行きたい、顧問はほんとにサードなのかと念を押され、すべて切原さんの希望通りであると主張した。

そこで切原さんからのご提案。



『かぼちゃパイ買ってきてくれたら入部してあげるよ』

『かぼちゃパイ…とは?』

『購買に売ってるから。早く行かないと売り切れるよ』

『…は、はい!了解しましたっ!』

『だから声デカいって』



そして冒頭の迷いに戻るわけです。
切原さんは確かに“かぼちゃパイ”って言ってたんだけれど。

購買にあるのは“かぼちゃパン”と“パンプキンパイ”。どちらもラスト1。聞きに戻る時間もない。どっち?どっちなの!?



「…前、すいません」



どちらにするか迷いに迷っていたら。
あたしの目の前に伸びる手。その手は、かぼちゃパンとパンプキンパイ両方をかっさらって行った。



「ちょ、ちょっと!」

「うわっ」



思わずその誘拐犯の腕を掴んで引っ張ってしまった。

するとその腕の首、つまりは手首には、例の黒いリストバンドがしてあった。



「…え、何だ?」



見上げた先にあった顔は、小麦色のスキンヘッド。顔立ち的にはハーフ?その彼はいきなりあたしに引っ張られたせいか、とても驚いている。

この人、このハーフ系男子も知ってる!よーく見たことある!



「お前もこれ欲しいのか?」

「あなたはテニス部ですね!?」

「…は?まぁそうだが…」

「英二くんと対戦してましたね!?」



全国大会決勝で、確かに英二くん大石くんペアと対戦してた。もちろん、うちのペアが勝ったけど。

ハーフ系男子はあたしの言葉に英二…?と少し考えたようだったけど。すぐに思い出したようだ。



「あー、青学の菊丸か?」

「そうです!」

「知り合いか?」

「そうですそうです!…あ、あたし高橋って言います!よろしくお願いします!」

「あ、ああよろしく…、ってお前、青学ベンチにいたなそういや。元青学生か」



何故この人もあたしを……。
ああ、そういえば仁王くんも言ってたな。うるさくて目立ってしまってたのか。おまけに女子一人だったし。どうせ残念なやつと思ってるんだろう。その顔を見ればわかる。

って、お前もこれ欲しいのか…とは?
そうだ、この人はこのかぼちゃパンとパンプキンパイ両方ともさらおうとしてるんだった。



「というわけでこの二つはあたしが頂きます!」

「はぁ!?」

「返してください!必要なんですこれ!」

「や、俺もブン太に頼まれて…」

「お願いしますお願いします!あたしこそ切原さんに頼まれてるんです!」

「切原…?」



ハーフ系男子が一瞬気を取られた隙に。
あたしはその二つを奪い、レジのおばちゃんに500円玉を投げつけて逃げた。これはサード先生からもらった部活動予算だったけど、まぁある意味予算だ。

彼がテニス部であり英二くんたちと対戦したことは興味あったけれど。
この二つであたしは、念願の女子テニス部員ゲットとなるわけだ!

走って階段に向かう途中、真っ赤な髪色の人とすれ違った。この赤い髪色の人も何だか見たことあるような…、

でも、切原さんに献上するパンだかパイだかを抱え勝利モードのあたしの頭は、まったく働かなかった。



「おーいジャッカル、俺のかぼちゃパンとパンプキンパイ確保できたか?」

「…あ、ブン太!えーっとそのー…」

「…ん?……ねーじゃねーか!」

「い、いや、一時は確保できたんだが…!」

「は?」

「なんか、変な女が…高橋って言う…」

「誰だそれ?」

「ほら、あの青学の!」

「青学ぅ?」

「全国大会決勝にいた……と、とにかく、そいつが奪って行っちまったんだよ!」

「…青学…変な女高橋……俺のおやつ!」



はるか後ろのほうで、あたしに負けず絶叫している声が聞こえた。

この件で、立海一食いしん坊な彼に恨みを向けられるとは。
あたしはまだ知らない。



「…違うし!」

「え?切原さんが欲しかったの、かぼちゃパンかパンプキンパイですよね?」

「かぼちゃパイだってば!」

「いや、この二つしかなかったので」

「だから売り切れだったんでしょ!…アンタさぁ、見た目はいいくせにマジ残念、バカ」

「ごめんなさいっ!」



声デカいんだよバカって言われつつ、なんやかんや切原さんは入部届けを書いてくれた。よかった。

切原さんはあまり部活には来てくれない予感だけど、たまーに打ち合いできればいいかな。
結局、男子コートの隣のスペースにコートらしきもの(縮尺5分の1ぐらい)は確保できたし、近くに建物があって壁打ちもできるし。



昼休み。あたしに休み時間などない。女子テニス部を立派に活動させるためにやることがたくさんある、はず。

次にやることはー…、そうだな、青学のみんなに手紙を書こう。というかこれは最優先事項だった。



「ねぇ、元青学さん」



持ち歩いているレターセットを鞄から出したところで、ふわふわ系男子の幸村くんに、話しかけられた。



「何でしょう?」

「あれ、君がやってくれないかな」



そう言って幸村くんは、黒板を指差した。
黒板には、“英語の課題昼休みまでに提出”と書いてあって、教卓にはたくさんのノートが山積みになってる。

あれ、でも確か今朝先生は…、



「俺がまとめて持っていくよう頼まれたんだけどね。これから部活のミーティングなんだ」

「なるほど。男子部は忙しそうですね」

「だから、君がやって」



何となくNOとは言えず。まぁ手紙はまたあとででいいかと。

幸村くんの後ろにいた仁王くんがククッと笑ってたのが引っかかったけれど、ノートをまとめて職員室へ持っていった。これはこれでいいことしたし、クラスに馴染むことも大事だからね、うん。

でもそれは間違いでした。
その日の帰りのHRにて。



「各委員会は来週決めるが、とりあえず学級委員長決めるぞ。立候補はいるか?」



サード先生がそう言ってクラス中を見渡すも、誰も何も言わない。

それはそうでしょう。雑務だけの委員長なんて誰もやりたがらない。あたしだって、まぁサード先生には恩もあるし早くクラスに馴染みたいけど、部活動で忙しいからそれとこれとは別で……、



「先生ー」



シーンとしている中、後ろのほうから声が聞こえた。誰の声だったろう。聞いたことあるけど忘れてしまった。

でもその忘れた声は、とんでもないことを言い出した。



「委員長、高橋さんを推薦するぜよ」



ぜよ…とは?

というか、今あたしの名前が…?
つまりは、あたしの名前を覚えてくれてた人がいる!やったー!



「先生、俺も仁王に賛成です。高橋さんに一票入れます」



今度ははっきりわかる。幸村くん。
あたしのこと元青学さんとか呼びつつ、ちゃんと名前を覚えててくれてたんだ。そして最初のはきっと仁王くん。仁王くんもあたしの名前を覚えてて推薦して………、



「どうだ、高橋、それでい…」

「ええええー!?」



名前覚えて云々よりとんでもない状況に気づいて、あたしはいつも通り叫んだ。叫んで後ろを見た。

幸村くんと仁王くんが、あたしを見て笑ってる。

立海に入学してこのクラスになって、正直切原さん以外とは全然話してなかったけれど、一つ、わかっていたことがある。

それは、テニス部のこの二人はやたらクラスメイトに支持されというかクラスを支配しているということ。
二人の言葉にみんな、賛成ーと言い始めた。

ハメられた!あの二人にハメられた…!



「高橋さん、今日もみんなのノートをまとめて持って行ってくれたんですよ。なぁ仁王」

「そうそう。マジメで元気、適任じゃろ。ポスター作成も得意じゃき」



嫌味?褒めてる?どっち!?

あれ、でも確か、かつてのテニス部の盟友兼クラスメイト…というか英二くんと不二くんが言ってたな。



『高橋はタカさん並みに人がよすぎだからな〜心配だにゃ』

『心配してくれるの!?』

『フフッ、確かに。でもそれは高橋さんのいいところだからね』

『立海はなんか怖いやつ多いけど、高橋も負けるなよ〜!』

『高橋さんは頑張り屋さんだから大丈夫だよ』

『ありがとう!負けない!頑張る!』



そうだった。あの二人が言ってくれたんだった。

頑張らなきゃ。あの二人が言ってくれたように!
こうやってクラスメイトに推薦までされたんだから!



「頑張りますっ!」

「お、おお、気合い十分だな。よろしく」

「はいっ!」



仁王くんや幸村くん、他のクラスメイトも喜んでくれるかなーって、見渡したら。

もうみんな席を立ち始めてた。おかしいな、興味なかったんですかね。
さらに推薦した張本人の仁王くんと幸村くんは、ラケバを背負ってすでに教室を出るところだった。こちらを一瞬も見ずに。



「じゃ、早速お前にしか出来ない仕事を与えるぞ」

「は、はい!」

「お前が作ったポスター、なんか貼りすぎって怒られたから外してきてくれ」



頑張り屋だし頑張るつもりだけど……、

何だか前途多難です。
みんなに早く手紙書きたい。

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