こんがらがってます

夢だった?あれは夢だったの?丸井くんと付き合うことになったあの日の出来事は。



「なるほどねー。ほんとは丸井と付き合ってると」

「…でも、そうではない可能性も出てきました」

「どっちだよ」



あたしは放課後はるばる切原さんちに行き、面倒臭がる彼女を引っ張り現在マックにいる。
実は今日、珍しくも切原さんが部活に来ると言ってくれたのに、あたしがそれどころではなくモタモタしていたせいで、切原さんは一度帰宅してしまったのだ。そして今はこうして悩み相談をしている。



「…夢ではなかったはずなんですが」

「もし夢をここまで語られたんだったらあたしでも怒るよ」

「あたしでもって、切原さんはよく怒るじゃないですか」

「なにアンタ、ケンカ売ってんの?相談乗ってほしいの?どっち?」



もちろん後者です!…そう力一杯叫んだら、またまたウルサイと怒られた。やっぱり切原さんはよく怒るじゃない。

いやいや、それはこの際言うまい。



「なんでそんな話になったんだかねぇ」

「わかりません…」

「まぁアンタも丸井も、お互い断ってないってのがダメだったんだろうね」



それはそうなんだけれど。でも何だか、引っかかるんだ。

確かにお互い別の人に告白されて、断ってないのは事実。そこは弱みだ。でも、だからと言ってそれが付き合ってるって噂になるのは、何だか違う気がして。



「誰だろうね」

「え?」

「言い出しっぺ」



そうだ。そこだ。誰かが言い始めたことで、それは誰かって話だ。告白したって事実だけじゃこうはならない。“付き合ってまーす”って、誰かが言ったわけだ。普通に考えれば、あたしサイドの湯布院くんか、丸井くんサイドの城崎さんになるわけだけど。

その、言ったもん勝ちみたいなところがあたしは最大に引っかかってる。そんなので通用するか?この世の中。

そのせいか。
これは偽物の噂ではなく、むしろ真実ではないかと、そう思ってきてしまっていた。



「とりあえず、アンタはそれよりもっとあのことを心配したほうがいいよ」

「あのこと…とは?」

「仁王とのこと」

「……仁王くん?」

「アンタね、仁王は湯布院なんか目じゃないよ。たぶん明日朝には全校、ヘタしたら赤也の中等部まで広まってるよ」



……どう言った話でしょう?

何それって顔丸出しだったと思う。切原さんは、大きく大きくため息をついて、その理由を説明してくれた。
切原さんも、ちょっとは優しくなったみたい。

それは遡ること数時間前の話。



「サンキュー!」



仁王くんに聞いた話を丸井くんに相談しに、あたしはテストが終わった後C組へ向かったんだ。

そこで目にしたのは。
城崎さんからプレゼントを受け取る丸井くん。とっっってもうれしそうだった。

自分の中ではちゃんと、丸井くんと付き合ってるのはあたしだ、仁王くんから聞いた話は偽物の噂話だと思ってたはずなんだけど。
あれを見て、そう思い続けるのには無理があった。やっぱり違うんじゃないかって。丸井くんに話したところで、え?何言ってんの?ってなってしまうんじゃないかって。そう思ってしまった。

考えごとをしながらフラフラ歩いていたせいか、教室に戻ったのはもうHRが終わった後だった。
近くの席の幸村くんや仁王くんは、すでに部活に向かう準備は万端という感じ。切原さんも全部片付け終わった鞄を抱えて携帯を弄ってた。



「あ、どこ行ってたの裕花。サード怒ってたよ」

「…すみません」

「あたし今日ヒマだし、部活行ってあげよっか」

「…あ、本当ですか、ありがとうございます」

「?…なにその無気力な返事」



不思議に思うのも無理はないと思う。本来なら、きっと切原さんが部活に来てくれるってなったらやったー!って、バンザイするところだから。



「じゃ、また明日ね、二人とも」

「はーい、部活頑張れー」



あたしが席に座ると同時ぐらいだったろう。幸村くんがそう言った。
おはようだけでなく、さよならの挨拶もしてくれるようになった。これはものすごい進歩だ。

でもあたしは返事が出来なかった。それを幸村くんに責められるかもって思ったけれど。幸村くんも放課後は暇じゃないらしく、何も突っ込まれなかった。そしてそのまま仁王くんと教室を出て行くんだろうと思った。



「…あー、幸村。先行ってて」



あたしは別に帰り支度をするわけでもなく。ただぼーっと机に置いた手を見てたら。仁王くんの声だけが耳に届いた。

そして微かな足音とともに、あたしの頭はぽんぽん撫でられた。



「どーした?」



顔を上げると仁王くんだった。そうだろうとは思ったけど。そんなことやるのは仁王くんだけだし、その前の言葉からハッキリと察しはついた。

どーした、だって。教室ではいつも通り厳しくするんじゃなかったのか。



「…何でもないです」

「ふーん」



あたしの素っ気ない返事に仁王くんは文句も言わず、もういなくなった別府さん(あたしの前)の席に、窓に背を向けて座った。

あたしも仁王くんも何も口を開かないまま。どれくらいかはわからないけど、その間に状況を察した切原さんを始め、他のクラスメイトたちも次々教室を出て行った。
あたしと仁王くん二人だけになってた。



「…いいんですか部活。来年からレギュラーなのに」

「もうちょいしたら行くぜよ」

「何してるんですか」

「折り紙」



はい?…そう間抜けた声が出てしまった。机の上を見てたから気づかなかったけれど、仁王くんは、半分こっちに体を向けつつ手では折り紙を折ってた。



「はい、どうぞ」

「…え、あたしに?」

「上手いじゃろ」



そう言って差し出されたのは折り鶴。ルーズリーフを使ったのか、罫線がハッキリ見えててそれが逆に鶴の模様みたいだ。仁王くんの言った通り、上手いしきれい。



「…ありがとうございます」



何だかよくわからなかったものの、とりあえず受け取って、両掌に乗せた。さっきまで仁王くんの手の中にあったせいか、温かく感じる。



「……あたし、自信がなくなりました」



折り鶴の温かさに触れたせいか、言おうか言わまいか迷ってた言葉がこぼれた。
それをきっかけに、さっき見たこともするっと口から出た。それに対するあたしの考え、というか疑念も。

仁王くんにはハッキリ宣言したくせに。あたしは丸井くんと付き合うことになったって。それなのにこんなアッサリ自信が崩れて。バカみたい。恥ずかしい。そんなことも思った。

ここで仁王くんから、元から勘違いじゃろそれ恥ずかしいやつーとか、お前さんなんかブン太の彼女になれるわけないじゃろとか、そんな憎まれ口叩かれるかと思った。

でもそんなことは何も言わず、仁王くんは折り鶴の上からあたしの手を握った。潰れないよう優しく。

ブン太と付き合っとるんならこういうのはもうダメって、そう言ったのは仁王くんだったのに。
あたしも手を握り返した。鶴が潰れないように。



「とりあえずな。さっきのお前さんの話じゃけど」

「…はい」

「普通は初っ端から二股かけるやつはおらんと思う。普通は」



そう、さっき仁王くんに言った、というか聞いたんだ。

あたしは丸井くんと付き合うって話になったけど、その前に実はすでに城崎さんと付き合ってて、二股…というかダブルブッキングしてるんじゃないかと。そういったことも有り得るんですかねって、聞いたんだ。何せあたしは初めてだから。

だって、城崎さんとの噂はすでに仁王くんのように丸井くんの超周辺にも知れ渡ってて。おまけにさっきあの現場を目撃したから。普通はおかしい気もするけど、そうなのかなって思ってしまって。

仁王くんの言葉に何も言わずにいたら、仁王くんは手に力を込めたみたいだ。



「あっ、鶴が潰れちゃいます!」

「ああ、大丈夫。二枚重ねじゃき」



そう言って仁王くんはパッと手を離した。確かに潰れてない。二枚重ねなんだ。何でだろう。



「それにブン太の携帯番号書いといた」

「…え?」

「直接話しづらかったら、電話してみんしゃい」



まだあたしの掌に乗っかってる鶴に目を向けたら、仁王くんは立ち上がってラケバを背負った。



「じゃ、俺は部活行くぜよ」

「…あ!仁王くん!」

「また明日な」



ありがとう!
ウザがられるかなと心配になるぐらい叫んでしまったけど。仁王くんはいつものような嫌な顔一つせず、半分振り返って笑ってくれた。

結局また、仁王くんのお世話になってしまった。また、救われた。

仁王くんのご厚意を無駄にしないためにも、もちろんあたしのためにも、今夜丸井くんに電話しないとって、そう思ったけれど……。



あたしは折り鶴を開くことが出来なかった。この、仁王くんがあたしに折ってくれた鶴を。

これが仁王くんの手を離れてから数時間が経って、温かさはとうになくなっていたのに。
何も言わずそばにいる間、彼はこれを折りながら何を考えてたんだろう。そう思って。

そして次の日。切原さんの言っていたことが的中する。
あたしと付き合ってるのは湯布院くんではなく、仁王くんだという話になっていた。

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