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「女子テニス部を作りたい?」

「はい!よろしくお願いします!」



あたしのやるべきこと。それは女子テニス部を作ること。そうしなくちゃ青学のみんなに会えない。いや、普通に会いに行くことはできるけれど、やっぱり同じテニス部として、試合会場で会いたい。

そして彼の、また素敵なテニスを見たい。
だから、担任の先生にこうして今日、お願いにきたのです。

余談ですがこの先生は生徒から影で“サード先生”って呼ばれてる。なぜならそのもみあげがルパン三世のようで、なかなかに男前なこの先生は、“うちのクラスで3番目にかっこいい”と言われているので併せて“サード”。
ちなみに1番2番は、ふわふわ系男子と銀髪系男子らしい。



「…って言ってもなぁ」

「お願いしますお願いします!」

「顧問はどーすんだ?」

「えっと…お願いします!」

「俺か?俺は男子部持ってるからなぁ」

「お願いします!」



サード先生が男子部顧問だということは知ってる。そして立海は顧問という肩書きがありつつも名ばかりで、ほとんど生徒が仕切ってるということも調査済み!つまりこの先生は全然忙しくない!



「まぁ、作るだけならいいけど」

「本当ですか!?」

「ただし、部活動予算は500円な」

「ごひゃくえん!?」

「あとは小遣いから出せ」



お小遣いから…月々千円のあたしに賄えるかしら…。
でもそこは、お年玉でも何でも切り崩すしかない。500円あればボールが3つ4つぐらい買えるし。



「ありがとうございます!」

「いいえ。じゃあ部長はお前ってことだな」

「はい!あと副部長と書記と会計も兼任します!」

「って、お前、ちゃんと部員集めないとダメだぞ」



部員。それはもちろん集めるつもり。でもたとえ一人でも、個人戦なら参加できるし。団体戦に必要な8人はちょっと、厳しいかもしれないけれど。



「試合は個人シングルス戦メインで頑張ります!」

「や、違くて」

「はい?」

「一人じゃ打ち合い出来ないだろ。壁打ちでもするのか?」

「……」

「あと、コートは男子部のものだから、女子部のコートも確保しないと」



男子部から1面もらうのはダメですかねうんダメだ、と素晴らしく早い返事が返ってきた。



「サード先生のいけず!」

「は?何だそれ」

「意地悪って意味です!」

「いやサードの意味だよ。って、職員室では叫ぶなバカモノ」



それはすみませんが…。
コートなんてそんな簡単に場所確保できるもんじゃないでしょうが…!

あれ、でも。昔乾くんが言ってたな。不動峰は既存のテニス部とは別のテニス部を設立して、校庭の端っこでやってたって。それでもいいかな。いいか。

とにかく、あたしが次にするべきは。
部員集め。一人でもいい、打ち合える相手の確保だ!



『来たれ!女子テニス部!青春の思い出をテニスと共に!部員を墓集してます!!希望者は1年E組高橋まで!』



三日三晩かけて作った、部員募集のポスター。手書きだけど我ながらいい出来栄え。一応、先生から許可の出た場所にペタペタと、貼り付けて行った。
…本当は廊下中に貼りたいんだけれど。



「…あ!」



上の階から貼り続けて降りていって、また再び最上階まで戻ってきた。もしかして、誰かの目に止まってるかも?そんな期待があって。
そしたらそんな期待通り、ポスターを見つめる生徒がいた。

…いや、その期待は気のせいだった。ポスターを見ているのは男子生徒。
しかもうちのクラス。あの派手派手銀髪系男子の彼、仁王くんだった。
ちなみに同じくクラスメイトのふわふわ系男子は幸村くん。もうクラスメイトの名前と顔は覚えたのです。



「こんにちはっ!」



同じクラスとはいえ、まだ一言も会話したことはない。あたしは入学式の日から毎朝、おはようと大声で教室に入るけど、クラスメイトからの返事は少ない。この銀髪系男子の彼から何か返事が来たこともない。

でもやっぱり、笑顔で明るく話しかけるのは大事だよね、英二くん。



「……」



そんな彼はあたしをチラッと一瞥するものの、何も声は出さず、再びポスターに目を向けた。無視されるとは…。

いや、でもきっとこのポスターに見惚れてるんだ。頑張ったものな。ただ惜しむらくは彼が男子だということ。残念ながら男子は女子部に入れない。



「これ」



無言だった仁王くんはやっと口を開いた。入りたいって言われたらどうしよう?マネージャーならいいって言おうか。部長はあたしだし。



「女子テニス部作りました!」

「へぇ。で、部員募集中?」

「そうです!もしかして仁王くん、女子部に入りたいとか…」

「墓に集めとるんか?」

「……墓…とは?」

「これ」



仁王くんは、左手でポスターを指した。指は、『部員を墓集してます』の真ん中を差してる。

…あれ?何だか違和感が。

というか、仁王くんの手首に、黒いリストバンドがあった。このリストバンド、見たことある。



「あーーー!!」



あたしの絶叫に、仁王くんは両手で耳を塞いだ。申し訳ない。ちょっとわざとらしい感じもするけれど。



「お前さん声デカすぎ」

「仁王くんも、テニス部!?」



黒いリストバンドは重りが入ってるもの。立海大附属中テニス部レギュラーがみんなつけてたものだ。

そして思い出した。確かに、仁王くんは試合してた。そうか、だからふわふわ系幸村くんと一緒に、あたしのこと訝しげに見てたのか。

って……、



「あっ!」

「あーあーうるさいのう。今度はなんじゃ」

「…募集って字、間違ってる。墓になってる」



そうか、さっき仁王くんはこれを指してたんだ。うわー恥ずかしい!せっかく三日三晩かけて作ったのに…!

って、もうすでに1階まで貼っ……、



「あー…ッ」

「うるさい」



三度あたしが絶叫しかけたところ。
仁王くんに手で口を塞がれた。



「モゴモゴ…!」

「俺、お前さんのこと知っとったぜよ」

「…モゴ?」

「去年の全国大会、青学の応援に来とったじゃろ」



全国大会。それはもちろん。男子部の応援のために、一回戦からすべての試合を見た。関東大会は女子部も日程が被ってしまってほとんど行けなかったけれど。

でもそんなの、たくさんいるのに。特に決勝は、全校生徒が来たんじゃないかってぐらい、みんな応援に来てた。

…あ、そういえばあの決勝のときは無理言って、ほぼレギュラーと同じベンチに乗り込んだんだった。そしていつものようにデカい声で応援させてもらって。



「敵とはいえかわいい子は忘れないんじゃ」

「モゴ!?」

「こんな残念なやつとは知らんかったしのう、損した気分」



ククッと笑った銀髪系男子仁王くんはようやく、あたしの口から手を離し。
そのまま何も言わずに去って行った。

残念なやつ…。やっぱりここでもそう思われるんだ。しかもライバルとはいえ同じテニス部に。きっと幸村くんとか、あのとき一緒にいた二人の男子にもそう思われてるかも。ショックだ。

いや、でも。あたしにはまだ、するべきことがある。
部員とコートの確保だ!ついでにポスターの修正!

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