キラキラを見せたくて

赤也んちからの帰り道。当然高橋と俺は二人きりで来た道を戻る。

何となく嫌な空気とかはなくなった気がするけど。高橋はあんまりこっちは見ない。下ばっか見てる気がする。



「また電車混んでますね」

「あー、この時間だもんな」



文化祭の前日、一緒に帰ったときも同じような時間帯だった。それよりも冬に近くなったから、外はもう暗い。
おまけに乗ってから、こないだよりももっと人が多いって気づいた。



「…って」

「あ!ごめんなさいごめんなさい!」

「や、大丈夫」



後から乗ってきたやつに押されたせいか、高橋がバランス崩して俺の足を踏んだ。
高橋は申し訳なさそうに謝ったけど、すぐ顔を上げて笑った。なんだ?



「丸井くんは本当に優しいですね」



やっと顔上げてこっち見たと思ったら、いきなり直球で褒められて妙に照れる。何のことだかわかんないのに。足踏まれても大丈夫って言ったからか?



「弟さんともよく遊んであげてるんですよね」

「ああ。ウチ帰ってあいつらが起きてたらな」

「面倒見が良いというか…幼稚園とか学校の先生に向いてそう」

「…そーかぁ?まぁちっちゃい子と遊ぶのはけっこう好きだぜ。何やっても喜ぶし」

「やっぱり優しいですね」



こないだは混んでる電車内でもデカい声だったのに、今日はちょっとおとなしめ。だからかわいいと言うより美人なこいつは、余計きれいに見える。
俺としては誰に残念がられようがうるさかろうが、いつもの元気な高橋のほうがいいんだけど。

こないだよりもっと近い距離。混んでるからな。もし今ほんの少しでも誰かに押されたら、体が重なる距離。
ドキドキと心地良い感じがする。



「…丸井くん、あのー」

「ん?」

「……せ、先日一緒だった女の子とは、その後どうなったんでしょう?」



…それ今ここで聞く?いや別に何もない…まぁ遊びには行ったけど。すげー頼まれて断れなくて。ていうかあの店の割引券チラつかせてたから。あの呼び出されたときはイライラしてたり腹減ってたりで、要するに誘惑に負けてだな。行くだけならいいかなって。

それ正直に話したらサイテーって思われるかな。俺はさっきこいつに、仁王と遊びやがってって怒ったくせに。とことんズルい。

どう答えようか迷ってたら、高橋は俯いて、後ろに少し下がった。人いっぱいだから、後ろにいた人に密着する形になってんだけど。
俺から離れた。なんで。

なんでじゃねーよな。くっつきそうでくっつかないさっきの距離感が、何だかドキドキするけど心地良くてーとか調子乗ってる場合じゃなかった。



「次、一緒に降りれる?」

「……え?」

「ちょっと話したいと思って。二人で」



次は俺んちがある駅。あんま遅くなったら申し訳ないけど。話したいのと、連れて行きたい場所があった。

はい、と即答してくれたけど。やっぱり元気はなかった。



向かった先は、俺んちも通り越した先にある坂道。その上にある公園。
この駅近辺はもともと高台で、さらにその上に行くと景色がきれいなんだ。



「わー!」



運動不足のせいか、まだ上ですか!?ってヒィヒィ言う高橋を引っ張ってようやく到着した。

ここらじゃわりと有名な公園で。この公園自体が斜面になってて、たまに弟たち連れて駆け下りたりして遊ぶ。
こいつんちからは近所でもないし、もともと東京だったし、初めて見たここからの夜景に、期待通り感動してた。



「すごい!きれい!」

「だろぃ?ここの公園、映画のロケでも使われたことあるんだ」

「そーなんですか!へー…キラキラしてるー!」

「神奈川も捨てたもんじゃないだろ」

「はい!まだ来てそんなに経ってないけど、いいところです!」



そう、キラキラしたものを見せたくてここに連れてきた。こいつはキラキラしてるものが好きだから。

今はどう思ってるかわかんねーけど。ついこないだまでは東京、ていうか青学に心残りがあったわけで。いろんな引きずった思いがあったかもしれないけど。
ここでのことも楽しいって思ってくれるように。そうなって欲しいって気持ちは、たとえイライラがあったってそのせいで気まずくなってたって、ずっと変わってない。

…まぁ有名なだけに、ただの平日でもちょっと人はいるけど。決して二人きりではない。残念なことに。



「ここ、ダンボールでザーッと滑ったら楽しそうですね!」

「ダンボールなくても横になって転がると楽しいぜ。やりたいなら押してやるから」

「…い、いえいえ!けっこうです!」

「遠慮すんなって」

「だ、大丈夫ですっ!」

「ほらほら」

「やめてー!」



冗談で軽く押したり、腕にしがみつかれたり。側からみればきっとイチャついてるカップルなんだけど。

ちゃんと、いい加減、話さないと。
さっきの質問も答えてなかったし。



「…あのさ、さっきの話なんだけど」



ちょっと真剣な感じで声を出したら、きゃーきゃー言ってた高橋はぴたっと静かになって。
掴んでた手を離して、俺の目をジッと見た。



「その、こないだのやつとは何もないから」

「……」

「俺はそのー…他の人とは付き合う気はなくて」

「……」

「だから、そのー……」



言えない。そっから先が出てこない。

お前が好きだって、付き合ってって、そう言えばいいんだけど。

高橋にジッと見つめられて、あれそういやこいつは俺のこと好きなのか?ラブレターの件を気にしてたけどほんとに好きなのか?仁王にこれからって言われて何となく流されてんじゃないのか?

土壇場になって、そんなネガティブなことが頭を過ぎった。いつもはポジティブなくせに。

いつも騒がしいこいつがおとなしいせいかな。ほんとに元気ないんだな。

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