今の声は高橋、と俺。
いやだってビックリしたんだよ。赤也んちで4人でケーキ食ってたんだけど。高橋が桜に、なんか手紙を渡して。
そんで桜がそれ読んだらなんか泣き出して。いや、泣いてはないか、うわーんって高橋みたいに叫び出して。嘘泣きだな。
俺もだけど桜も、なんか高橋の叫び癖が似てきたような。
で、どーしたんですかぁ!って俺もドン引きなぐらい高橋がすごい剣幕で問い詰めたら。
「……告白してフラれた」
「なんだ姉ちゃん、フラれたから休んでたのかよ。まぁ元気出せって!」
のん気な赤也の言葉を聞いて一呼吸置いて、俺らは冒頭のように叫んだというわけ。
「こ、こ、ここ告白したんですか!切原さんっ!」
「うん。文化祭の後」
「うわーうわー!切原さんすごい!」
「文化祭でけっこう親密になったと思ってたんだけどさ…ダメだって」
「いやいやお前さぁ、よく考えろよ。親密ったって、教え子なんか相手にするわけねーだろぃ」
「だってよく話にあるじゃん、先生と生徒ってパターン。…ていうかアンタなんで知ってんの?」
あ、やべ。俺の失言から事情を察知した桜は、蛇のようにギロッと高橋を睨んだ。こえー。
気迫というか殺気に圧倒された高橋が卒倒しそうになったから、俺の後ろに隠した。いや、申し訳ない。ついうっかり。
「…いやーでも、ナイスガッツだな、お疲れ」
「何その適当なフォロー」
「いえいえ!あたしもそう思います!告白するなんてすごいですよ!」
「嫌味?」
「違いますよ!本当に尊敬します!」
俺の肩越しから高橋が、ほんとに素直に尊敬の眼差しを向けてた。たぶん本心だろうな。こいつはそういうやつだ。
もともと応援したいって言ってたし。こいつはこいつで菊丸に告白できなかったし。身に染みるもんもあるんだろうな。
…俺もだけど。
赤也は、もしかして先生に告白したのかよって、かなり遅れてビックリしてた。
「そういやお二人はどうなんスか?」
「ん?」
「丸井サンと高橋サン。そんなくっついちゃって、ラブラブなんスか?」
くっついちゃって…?
俺のせいで高橋が死にそうだったから思わず後ろに隠したけど。高橋も俺の背中にしがみついてるけど。
「す、すみません丸井くん!」
「いやいやいや、俺が…いやいや」
急に恥ずかしくなって、たぶん高橋も。すぐ離れた。
二人でいるとき密着することも多かったから自然とそうしちまったけど。こいつらの前で、不覚だ。
赤也も桜もニヤニヤしやがって。腹立つ姉弟だぜほんと。
「で、どーなんスか?」
「あたしも聞きたいなー、あたしは言ったんだし」
「姉ちゃんも知らねぇの?なんかキスしたとか言ってたじゃん」
「バカ!それはヒミツなんだって!」
「え、何が?なんで?」
余計なこと言うんじゃねーよ…!どーすんだよこの空気。ていうかもうおあいこな。高橋は桜の好きな人俺に言ったけど、桜も高橋の話赤也にバラしてたってことだもんな。さっきのはチャラだからな。
「えーっとですねそれは…」
俺からは何も、肯定も否定も何も言えずに焦ってたら、高橋が口を開いた。
なんて言うのか。肯定はしねぇだろうと、何となくわかってた。まぁそれは当然だけど。
だから予想外だった。
「…こ、これから!」
「…え」
「これからだって、仁王くんが!」
また仁王の話かよ。なんだよこれからって。あいつは邪魔したいのか応援してんだかどっちだ。
でも、高橋は素直に、これからって思ってたわけだ。
「へぇ。じゃあまだ付き合うって話にはなってないんスね」
「付き合えばいいのに。でもこいつらがあたしを差し置いて付き合ったらなんか腹立つな」
「姉ちゃんフラれたもんな!…てか、その手紙はなんて書いてあったんだよ?」
「えー?これはー……」
マイペースなバカ姉弟に話題を変えられて、感謝のような罪悪感のような気持ちが上がってきた。
ホッとしてる。俺はズルい。高橋には言わせておきながら、自分は何も言わなくて、話題変えてもらってホッとするなんて。
高橋は、さっきはちょっと元気だったけど。また元気なさそうに。俯いてた。