会っちゃったけど

「今日も切原が休みだ。最近風邪が流行ってるから、中間テスト前だしみんなも気をつけろよ」



朝のHR、今日も先生からそんな報告が。
切原さんが風邪でここ数日休んでる。ただの風邪と聞いたけど、こんなに長いなんて重症なのかな。

大丈夫かな。あたしが携帯を持っていたら、ちょこちょこっとメールで連絡出来たりするんだけど。今日お宅へお邪魔しようかしら。



「あ、高橋ちょっと」



トイレに行こうと教室を出て行く直前、サード先生に呼び止められた。
そして先生は、あたしに何やら手紙のような封筒を差し出した。



「これ、悪いんだが切原んちに持って行ってくれないか」

「…何ですかこれ?」

「聞くな。とりあえずよろしく」



何なんだろう一体。見た感じ手紙のようだけど。中間テストに関する情報?

手紙。携帯を持ってないあたしには、青学のテニス部のみんなへの連絡手段だったから、前はレターセットを持ち歩いたりどちらかと言うと好きだったけど。
…今は正直あまり見たくないなぁ。



「なんじゃそれ?」



トイレに持って行くのもあれなので、一度席に戻ったところ、仁王くんと幸村くんに見つかってしまった。と言うか、先生があたしに渡す現場はバッチリ、どこのどの席からでも丸見えだったろう。



「えっと、先生からの言伝というか」

「ふーん。桜ちゃん、けっこう休んでるからね」

「いいのう、俺も休みたい」

「休んでもいいけど部活は出なよ。来年から試合出すから」

「え、俺?2年は?」

「実力で行くべきって先生に談判してるよ、真田がね」

「へー、それはまた、面倒起きそうじゃな」

「当たり前だろ。今からベストメンバーでやらないと。とりあえず仁王とブン太にはちゃんと結果出してもらうからね」



二人ともアッサリ部活の話に切り替えて、切原さんが心配じゃないのかしら。まぁ別にそんな人のこと心配するような二人じゃないし。仕方ないか。

…というか、今幸村くん、ブン太って言った。丸井くん、来年から試合出るの?すごいなぁやっぱり。

あのパンケーキ屋で出くわしてからちょっと経った。クラスも違うし全然しゃべってないけど。
いまだに丸井くんのことをよく考える。
あのときのことや、それまでの丸井くんとのことを思い出すと、胸がぎゅーってする。

今日、切原さんにでも相談しようか。



「高橋さーん」



お昼休み。教室の入り口のほうからあたしを呼ぶ声がした。
その声の主は、あたしの前の席の女子。別府さんという子。温泉と同じ名前なんてきっと温かそうないい人に違いないと思っていたけれど。
わぁ、話しかけられたのプリント配るとき以外で初めて!



「何でしょうっ?」



ウキウキ気分で近寄ると、そのそば、廊下には一人の男子がいた。あたしは見たことはない。同じ学年だろうか。



「高橋さんに話があるって」



ではあたしはこれで、と、別府さんは自分の席に戻って行った。



「えっと、何でしょうか?」

「あー、ちょっと場所変えてもいい?」

「?」



このシチュエーション、この空気。初めてではないけれど、やはり緊張しますねハイ。

連れて行かれたのは一番上の階段。この先は屋上だけど、生徒は勝手に出れない。

文化祭の前日、丸井くんと上がった階段だ。



「俺のこと知らないと思うけど。俺は高橋さんのこと、前からかわいいと思ってて」

「…あ、ありがとうございます」

「もし今付き合ってる人とか好きな人いないなら、よかったら付き合ってほしいなって」



かわいいと思っててくれたなんてそれはすごくうれしい。彼女にと、付き合ってほしいと言われたのも。

ただ、あたしはこう言われても今までオッケーしたことはない。何故ならずっと英二くんが好きだったから。

でも英二くんはもう彼女が出来てしまってて、あたしは失恋したわけだ。その傷をゆっくり癒すか果てしなく引きずるか、はたまた新しい恋に向かうかは人それぞれだけれど。
あたしはどれなんだろう。



「あのーえっと」

「……」

「あたしはそのー…」



その、何だ。何が言いたいんだあたしは。
答えはごめんなさいで決まってるんだけれど。何故ごめんなさいなのか。付き合ってる人はいないし、あたしがこの人を好きじゃないことぐらいこの人自身もわかってるだろうし。

丸井くんもこないだこんな状況だったのかなぁ。ラブレターもらった子と。結局どうなったんだろう。仁王くんは付き合ってないって断言してたけど。あれからまたデートしてるのかなぁ。

って、あたしは今何を考えて………、



そのときガチャっと、すぐそばの扉が開いた。その扉はもちろん屋上に出るための扉で。

出てきたのは仁王くん。あとその後ろに桑原くんと、丸井くん。
みんな食器を持ってる。屋上でランチでもしてたのかな。なんと優雅な。



「……」

「……」



三竦みならぬ四竦み。いや、目の前の彼も入れたら五竦み?誰も何も言い出せないこの状況。

……状況?



「あーーっ!」



あたしは叫んだ。いや、叫ぶ必要はなかったけれど。何となく。

あたしはたった今告白されたわけだけど。この三人、特に丸井くんに、もしかして聞かれてしまった?というか聞かなくてもこの状況でわかってしまった?

まずい。非常にまずい。いや別にまずくもないけど。丸井くんには関係ないし。ただ知られたいか知られたくないかって言ったら知られたくなくて。
おまけにあのパンケーキ屋で遭遇して以来会話してない。というより後夜祭以来。



「…あー、邪魔して悪い」



口を開いたのは桑原くん。誰よりも無関係なのに誰よりも気まずそうに誰よりも気を使ってそう言ってくれたに違いない。やっぱりいい人。

…というか、仁王くんは丸井くんと普通なのね。あのとき無視してたからなんか気まずいのかと思ったけれど。まぁ無視したのは丸井くんも一緒か。



「や、邪魔じゃないから。高橋さん」

「は、はい」

「また今度でいいから、返事」

「…は、はいっ!」



そう言って彼は去ってしまった。そう言えば名前は何だったっけ。聞いたのに忘れてしまった。

丸井くんのことばかり考えてたせいだ。



「えーっと、悪かったな高橋」

「あ、いえいえ…」



相変わらず桑原くんは気を使ってくれて。仁王くんは何だか呆れたような顔。こないだ励ましてもらったのに、すぐはっきり断らなかったからかな。

丸井くんは……、



「あーそうじゃ」



丸井くんのほうを見過ぎて、また仁王くんから見過ぎって言われたような気がした。それぐらい不自然な思いつき、といった感じの台詞。



「今日、みんなで赤也んち行かんか?」

「何で赤也んちなんだ?」

「赤也の姉貴が休んどるんじゃ。みんなでお見舞い」

「へー、まぁ俺は行ってもいいぜ。ちょうど赤也に返してもらいたいもんがあるし」



桑原くんは快諾。
みんなということはあたしも含みで?あたしも切原家に?

仁王くんに言われなくても行くつもりだったけれど、どうしよう。
…丸井くんも行くって言ったらどうしよう。さっきから無言だけれど。



「現地集合な。お前さんも場所はわかっとるよな?」

「…えっ!あ、はい!」

「じゃあまたあとで。サードの言伝忘れんように」

「は、はいっ!」



そう言って三人はあたしを通り越して、下へ降りて行った。

丸井くんは何も言わなかった。あたしが見過ぎのときも、ちょっと目が合っただけですぐ逸らされちゃったし。今もずっと違うほうを見て降りて行った。

あたしはこんなにも丸井くんのことばかり考えてるのに。
だから元気ないのに。

[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -