テニス部なんて全国高校のほっとんどにあるでしょう。なんでよりによってあたしが進学した高校にはないの。しかも立海なんて男子は強豪じゃない。なんで女子は…！
そう嘆きながらテニスコートへ向かった。ないと言われながらもこの目で確かめたくて。
そしたら、男子がわーわーテニスコートに集まっているのは見えたけど、肝心の女子がいない。
ああやっぱり、ないのか…。
ここで活躍して、青学のみんなと試合会場で会うことが、あたしの夢だったのに。
…みんな。とはいえ、実はその中に本命もいるんだけれど。
「ねぇ君、マネージャー希望者？」
がっくり肩を落とし、コートを囲うフェンスにしがみついていたところ、後ろから声をかけられた。
立海テニス部の、ジャージを着た男子二人だった。
「な、言っただろ、かわいいって」
「ああ。…君１年？名前は？」
なんだ、なんだ、この軽そうな男子二人組は…！
はっ、でも大石くんに言われたんだった。見た目で判断しちゃいけないって。
「えっと、そうです。１年の高橋と言います！」
「へー高橋さんね。俺ら２年のテニス部なんだけど」
「高橋さんてもしかして外部生？」
「そうです。よろしくお願いします！」
ペコっとお辞儀したら、かわいい〜って、声を揃えて言われた。
いや、確かにかわいいと言われたらすごくうれしいけれど。
でもあたしは今、そんなことは頭に入らない。
というか、なぜすぐ外部生だとわかるんだろう。挙動不審だった？こんなんじゃ溶け込めない。
「高橋さんならマネージャーでもいいよな」
「ああ、なんか今年の希望者もロクなのいないし」
そう言って先輩たちは、コートから少し離れた建物を見やった。その前には制服の女子生徒がたくさんいた。
…女子生徒！？もしかしてあれは女テニ入部希望者！？
「やったー！」
「「…は？」」
あたしが突如両手を突き上げ大声で喜ぶものだから、先輩たちは何だか驚いてしまったようで。
ああ、こういう行動が、残念たる所以だと、後輩たちに言われたんだった。
「ああ、マネージャーでうれしいってこと？」
「いえいえ、そうではなく……」
「違いますよ、先輩たち」
先輩たちのさらに後ろから、三人組男子が現れた。三人とも立海テニス部のジャージ。
一人は、帽子を被った険しい顔の人。手塚くんといい勝負。
もう一人は、きちっと揃った髪で、何やら目を閉じてて菩薩像みたいだ。
そして最後の一人、さっきの言葉を発したらしい人は……、
今朝、あたしの自己紹介のときにこちらを睨んでいたあの、ふわふわ系男子だった。
「え、違うってどーゆうことだ？」
「彼女はマネージャー希望者じゃありません。プレーヤー希望です」
「「プレーヤー！？」」
「はい！よろしくお願いします！」
先輩たちはものすごい驚き様で。
いや、確かに今までテニス部はなかったんでしょうが、今はあれだけ女子が集まって……、
というか、この三人組。何だか見たことあるような。ふわふわ系男子はクラスメイトだけど、制服のときは感じなかったけれど今はどこかで見たことある気が。あの頭に巻いてる冷えピタみたいなものも…。
頑張って必死で思い出そうとしてるあたしを見てか、ふわふわ系男子はクスッと笑った。あ、この雰囲気、不二くんに似てる……不二くんと言えば、
「なんか勘違いしてるみたいだから言っとくけど、あれは全部マネージャー希望者だからね」
「……マネージャー希望者…とは？」
「だから、女子テニス部はないってこと」
ない…………、
「あーーー！」
再び絶叫。先輩たちはまたビクッと驚いたけど、三人組は一切、表情を変えなかった。いや、帽子の彼は若干、というかとてもうっとおしそうな顔。申し訳ない。
だって、思い出したから。この三人組のことを！
「ところで先輩たち、あっちでマネージャー希望者が大勢待ってますよ」
「練習時間に響くため、早く受付を済ませた方がいいかと思いますが」
あたしの存在はまるっきり無視するかのように、ふわふわ系男子と菩薩像系男子は続けた。
というか、さっき、ふわふわ系男子が言ってたこと。
女子テニス部はないってこと。
「どーしてぇぇー！」
またも絶叫してしまった。これはもう、癖というかあたしのアイデンティティなんだ。何か起これば叫んでしまうんだ。そもそも声が大きいんだ。手塚くんには散々注意されたけれど。
へたり込みそうな勢いのあたしをよそに、帽子系男子は大きなため息をついた。
「騒がしいやつだな」
「そうだな。貞治が言った通りだ」
「青学の乾か。とにかく、時間が惜しい。そろそろいいだろう。練習に向かうぞ」
二人から知った名前を聞いて、さっきのあたしの閃きは間違いじゃなかったと、確信した。
「それじゃあね。元青学さん」
ふわふわ系男子は笑顔がとても柔らかいけれど意地悪そうだ。…いやいや、見た目で判断は……、
そう思っていたら三人揃ってあたしの前から、あっという間に消え去った。というか、ぐるっと回ってフェンス内、テニスコートの中に入って行った。
さっき、思い出した。あの三人組は確か、去年団体戦で男子部が決勝で対戦した相手。ふわふわ系男子が確か部長で、帽子系男子も菩薩像系男子も、確かに試合に出てた。
と、いうことはライバル？いやあたしは今立海だから…でもやっぱり男子なら青学を応援したいし…ライバル？
今朝の、ふわふわ系男子の睨むような視線はそのせいか。決勝ではうちが勝ったし。同じクラスなのに、早くも敵対人物が。
いや、それはこの際置いておこう。それよりもあたしはこれからするべきことがある。