正直苦手なんです

「それでは皆さん、こちらへ来てクジを引いてくださいっ!」



9月。新学期も始まって一週間ちょっと経った頃。1年E組は今日、HRの後に席替えをすることになった。

司会進行は学級委員長であるあたし。一学期はみんな初めに適当についた席順だったけれど、今回は平等に男女関係なくクジ引きにしようって、切原さんが提案した。

あたしは別にそのままの一番前の席でも構わなかったんだけど。切原さんは是非とも嫌だったらしい。離れてしまったら寂しいですねと伝えたら、とにかくさっさと準備しろとせがまれた。



『はい、これクジ用の紙。よかったら使って』

『…はい?』

『もう数字は書いてあるから。高橋さんは黒板に座席表書きなよ』



そしてあたしがクジ用として丁寧にノートを破こうとしたところ、幸村くんが数字記入済みのメモたちをくれた。



『……ええ!?』

『何か問題?』

『い、いえいえ!使わせて頂きますっ!』



幸村くんが準備を手伝ってくれるなんて。こんな優しいのは初めてだと驚き思いつつ。

その不自然さの意図を、あたしは見抜くことができなかった。



その後、特に順番も決めず、適当に引いていこうとなった。でもなかなかみんな、トップバッターは志願しない。
こういうとき何故か、“残り物には福がある”論を展開し後のほうがいい席を取れると主張する人が現れる。うちのクラスも例外ではなく、何人かの人たちで、えー先に引けよーとか何とか楽しそうにしてる。

…いいなぁ。あたしもあんな輪に入りたい。

結局あたしは特にどこかのグループに所属できたわけではなく。誰と仲良い?って聞かれたら、ギリギリ切原さんぐらいで。まぁ切原さんはそれ以外にもたくさん仲の良い女子がいるけれど。
なかなかああいった、きゃいきゃい騒いでいる輪には入れない。



「じゃ、俺が一番に引かせてもらうぜよ」



もはや収集がつかなくなりつつあった“残り物には福がある”ウェーブ。それを断ち切ってくれたのは、仁王くんだった。



「隣りがいいな〜」

「同じ班ならいいよねっ」



そうヒソヒソと話す女子の声が聞こえた。

席替えは確かに、男子もそうだけれど女子にとっては学校生活すべてがかかっていると言っても過言ではない。あたしも去年、3年6組で、英二くんの隣りになれたらなぁって、思ったことがある。ただし、1年通してそれは叶わず、代わりに毎回不二くんと同じ班だった。それはそれで楽しかったけれど。



「…お、窓側」



黒板に書かれた数字の席次を見て、仁王くんはうれしそうに笑った。どうやら窓側の一番後ろの席だったようだ。



「いい席でよかったな」

「まぁな。昼寝に最適」



仁王くんの後ろには幸村くんが控えていた。

ちなみにだけれど、あたしはなるべく仁王くん幸村くんとは離れたい。
何故かって、何となく。一学期は席が遠いにも拘らず何故か提出物を職員室に持って行くよう押し付けられたり、ゴミ捨てをお願いされたり、仁王くんに至ってはあの夏休みの宿題だけではなく、最近は英語の予習なんかも見せるようせがまれる。

これで席が近くなったらもっと大変だと、そう思うから。そもそもこの二人はとても意地悪だし。

そんなことを考えながら。仁王くんの次は幸村くんが引くんだろうと思って、クジの入った箱を差し出した。



「お先にどうぞ」

「…えっ!?」

「最後がいいって言ってる人もいるし、先に引きなよ」

「…あっ!ありがとうございますっ!」



まぁ幸村くん、今日は本当にどうしたんですかほんのちょっと優しいですね!そう感謝の意を込め伝えたら、一応ニッコリ笑ってはくれたけれど。やはり声がデカかったらしく、隣りの仁王くんが若干面倒臭そうなうるさそうな顔をした。申し訳ない。

司会進行だしあたしが引くのは最初か最後かなぁって思ってて、でも最初っていうのも図々しい気もするし。逆に最後がいいって言う人もいるし、どのタイミングで引こうか迷っていたんだ。

だから、さっきは席は離れたいと失礼ながら思っていたけれど。素直にありがたく感じた。
さっきも幸村くん、協力してくれたしな。やっぱり彼はちょっとはいい人なのかしら。ほんのちょっとね。

“35”。出てきた数字。うちのクラスは男女各18名、廊下側からの番号順ゆえ、この数字だと窓側かな?
そして振り返って黒板を確認したところ、あたしの引いた番号の席は。



「あ、アンタ窓側じゃん。しかも後ろから2番目。いーなぁ」



切原さんに覗き見をされて暴露された。その席とは。



「じゃあ次は俺引くね。……あ、俺は仁王の斜め前だ」

「また近くなったのう、よろしく」

「ああよろしく。楽しくなりそうな席だね」



仁王くんが窓側の一番後ろ。幸村くんがその斜め前。

あたしは窓側の後ろから2番目。



「ラッキー!あたしも一番後ろだ!…って、仁王が隣りかよ」

「光栄じゃろ」

「全然。前は幸村か…」

「よろしくね、桜ちゃん」



切原さんは窓側から2列目の一番後ろ。

なるほどなるほど、つまりあたしの斜め後ろが切原さん。また近くてうれしいですね。

で、あたしの隣りが幸村くんで、後ろが仁王くん。



「ええええー!?」



嘘でしょ嘘でしょ!離れたいと思ってたそばからこんな…!
黒板に張り付いて、何度見てもあたしはその席。

チラッと二人を見ると、愉快そうに笑ってる。



「いーなぁ高橋さん」



あ、クラスメイトがあたしの名前を呼んでくれた……いやいや、それはもうよくて。

全然良くない!ここであたしがあのきゃいきゃい楽しそうなグループの一員だったら、“えー誰か替えてよう”なんて言うこともできるけれど。



「ははっ、むちゃくちゃ嫌って顔に書いてあるぜよ」

「え!?そ、そんなことは…!」

「どーでもいいけど、早く全員にクジ引かせてくれるかな。早く部活に行きたいんだけど」



そんなきゃいきゃい学園ライフは叶わないようだ。

席が不穏なだけではなく、一番前からの移動は遠い。机がとても重く感じる。
新学期そうそう、良くないスタートです。



その後、幸村くんがバラバラと大量の紙切れをゴミ箱に捨ててるのが目に入った。何だろう、気になるけどさすがに人が捨てたゴミを漁るのは良くないし……。

まさかその紙切れすべてに“35”と書いてあったとは。それは彼らが予め用意してきたもので、共謀してあたしと自分たちをあの席にしたとは。あたしは知らない。


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某推理少年事件簿でやってたフォーシングってやつでして、一般人にはだいぶ無理ですがこの2名ならできると思いました。
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